3.プラリア  パート

「敗走」

  パジャルメル湖畔からアルシャーンに引いたガル
ハド軍は、街に篭城、よく善戦していた。しかし、
ティムの属する大蜘蛛使いの部隊は、バルザ亡き後、
他の部隊の下に組み込まれる事を潔良しとしなかっ
たため、組織だった動きに欠け、王国軍の絶好の各
個撃破の餌食になっていた。各々が、パジャルメル
湖畔の戦いでのガルハド軍崩壊の原因となった、大
蜘蛛使いの部隊の失態の汚名を返上しようとむきに
なっているのも裏目になっているようだ。今日も、
数を頼りに押してくる王国軍を防ぐため、ティムは
前線にいた。
  あのとき、俺がしっかりしていれば...。ティ
ムは後悔をしていた。あの時、とは、もちろん、ケ
ェセラがアングブートに近づくのを防げなかったば
かりか、踏み台にまでされたこと。それもある。し
かし、もうひとつ...。
  ティムは、先祖に異民族の血が混ざっているのだ
ろう、王国人と見間違うような肌の色をしていた。
そして、ガルハド人特有の入れ墨は一切ない。そう
育てられたのだ。敵に潜り込めるスパイとなれるよ
うに。彼は、流暢とは言えないまでも、王国の言葉
はしゃべれるし、読み書きもできる。そして、実際
この戦いでも、1度は王国軍に紛れ込んでいた。
  そう、アングブートと融合した姫を救う方法を調
べにケェセラが、バルザの隠れていた塔からチプリ
コット城に戻ったとき、王国軍兵士になりすまして、
一行に潜り込むことに成功していたのだ。あのとき
に、背後からケェセラを刺すことも出来たはず...。
  「いや、そんな隙などなかったのだ。」彼は、自
分の心に嘘をつく。そう、嘘。彼に話しかけ、彼の
瞳をのぞき込んだ時のケェセラの瞳、その吸い込ま
れそうなすんだ青さを、彼は未だに忘れられずにい
た。俺はやっぱりガルハド人としてはできそこない
なのか...。
  「ぴちゃっ。」
顔にかかった冷たい感触に、彼はふと我に帰る。黄
色い液体。蜘蛛の体液。彼をかばうようにして、彼
の蜘蛛、ちゃっぴいが、彼の前に立ちはだかってい
た。そして、ちゃっぴいには、深々と矢が刺さって
いた。切りかかってくる王国軍兵士にちゃっぴいが
糸を吐きかけ、我に帰ったティムが止めを刺す。し
ばらくは乱戦が続いた。
  「帰りたい」そんな想いがティムの頭をよぎる。
彼1人なら、なんとでもなろうが。彼は傷ついた彼
の蜘蛛を見た。兄弟同然の自分の蜘蛛を置いて逃げ
る事など、大蜘蛛使いにできるはずがない。事実、
自分の蜘蛛をかばって果てた仲間も多いのだ。
  アルシャーンに温存していた部隊を投入して出来
た一瞬の空白を逃さず、ガルハド軍はアルシャーン
に引いていく。やっぱり俺はできそこないだな。そ
う呟くと、彼も、めっきり動きが鈍くなった彼の蜘
蛛をつれて、アルシャーンへと撤退して行った。

  この戦争のその後については、伝わっていない。
しかし、プレイヤーとしては、ティムと彼の蜘蛛は、
無事故郷に凱旋し、家族と幸せな余生を送ったと信
じたい。

                                      (おしまい)

み:ティムは当初は読参ゲームのキャラってことで、
    ほとんど気にしてなかったキャラだったのです
    が、個人M_0J_0で使っているうちに、結構思い
    入れの深いキャラクターになってしまいました。
    第四回でオプション選び間違えて、王国側のキ
    ャラとして描かれたのも、上記のように無理矢
    理解釈したりして。たかだか読参ゲームで、こ
    んなにも、自分のキャラがこの世界でたしかに
    生きていたんだって実感出来るとは、参加当初
    は想ってもみませんでした。他のPCとの出合
    がないキャラなので、プラリアは書くまいと思
    っていたのですが。
    途中参加で中途打ち切りなので、世界設定とか
    よくわかってない部分があって、そこの所は私
    の思い込みで適当に解釈してます。例えば「大
    蜘蛛使い」。私は1人が1匹大蜘蛛を操ってる
    んだと思いこんでますが、実は部隊で1匹の大
    蜘蛛を操ってるんだったりして。ほんとはどう
    なんだろ?

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