3.プラリア パート
「希望の城の下にて」
天空城がワラキスタン大砂漠に現れたという噂は、
瞬く間にパジャルメル中に広がった。そして、多く
の者達が城の元に集まってきた。魔物達、大天使の
啓示を受けて、冒険者たちを城へと運ぶために集ま
ってきたリュンピアンたち、何らかの情報や使命を
持って城へと挑む冒険者たち、そして、冒険の予感
に突き動かされた多くの冒険者たち、そして...。
「バッカみたい。」ターシャは呟く。彼女の視線
の先には、天空城へと運んで貰うのを待っている数
多くの冒険者と、彼らを運んでいる大勢の彼女の同
族達〜リュンピアン〜がいた。彼女は、もう長い時
間そんな光景や、空に浮かぶ城を眺めていたのだ。
「何がばかみたい、なのかしら?」急に声を掛け
られ、ターシャがびくっとして振り向くと、そこに
は一人の美女が立っていた。ターシャは回りを眺め
るのに夢中で、誰かが近づいたのにちっとも気付か
なかったのだ。
「だってさ、大天使だか何だか知らないけどさ、
言われた事をそのまま何も考えずにやっちゃうなん
て...ばかみたい。まるで、しきたりや習慣にと
らわれて村からなかなか出ようとしない故郷の連中
みたい。」ターシャは世界中のいろんな事が見たく
て故郷を飛び出してきたのだった。「だいたい、大
天使の言う事だから正しい、なんて、あいつは魔物
だから悪い奴だっていうのと同じぐらいばかみたい。」
ターシャの、同族の行動に対する考えは批判的だっ
た。
「じゃ、あなたは何のためにここに来たの?」美女
は尋ねた。
「うんっ、まずは見物。だってさ、空に浮かぶお城
なんて珍しい物を見る機会なんて滅多にないよ。せ
っかくだから近くで見てみたいって誰だって思うで
しょ。だからここまで来たんだ。来た甲斐があった
よ!すっごいお城だなぁ。」ターシャはこれまでも、
珍しい物を見物しようと、自分の村を出てから、迷
いの砂漠や、風の砂漠、と言った所を廻っていた。
「そうなの、それではあなたにはお城へは運んでも
らえないのね...。」美女〜ファラーファル・ア
ークシュティ〜はがっかりしたようにちょっと肩を
すくめた。彼女は、天空城へと向かうためにやって
きた拳闘士だった。運んでくれるリュンピアンをさ
がしていたのだ。
「ううん、条件によっては運んでもいいよ。」ター
シャは明るく答える。
「条件...って?」ファラは彼女にしては珍しく
口ごもりながら聞き返す。ただ、心の中ではよっぽ
どひどい条件でなければ条件を飲む気になっていた。
なにしろ多くの冒険者が集まったおかげで、この機
を逃すといつ運んでもらえるかわからないのだ。し
かし、ターシャが出した条件はとても拍子抜けする
ものだった。
「今までにしてきた冒険のお話を聞かせてよ。」
「そんなことでいいの?」
「なんでここに来たかって話がまだ途中だったよね。
アタシがここに来た2番目の目的は、いろんな冒険
の話を聞く事だったんだ。だって天空城に挑もうな
んて冒険者は、きっと百戦錬磨の古強者で、きっと
すごい冒険をたくさんしてきた人達ばっかりのはず
だもの。天空城まで運んであげれば、途中でぜった
い面白い話が聞けると思ったんだ。」ターシャは目
をきらきらと輝かせながら言った。
「それじゃお願いするわね。そういえば自己紹介が
まだだったわ!ワタシはファラーファル・アークシ
ュティ...。」
「じゃあファラだね!よろしく、ファラ。アタシは
ターシャ・クーイエ。」
「こちらこそよろしくたのむわ。ターシャさん。」
「『ターシャさん』だなんて、ターシャでいいよ。
本当は飛ぶのってあんまり得意じゃないんだけど、
がんばる。」
こうして、ターシャはファラを運ぶ事になったの
だった。
「・・・でね、炎魔の一撃をかわすと、蹴りをた
たき込んでやったの。胸がじゃましてちょっとやけ
どしちゃったけど。」
聖なる湖の探索の話、モートゥス流の達人とのた
ちあいの話、そして魔物狩りの話、等々。ファラの
話は、ターシャの好奇心を充分に満たす物だった。
そして、好奇心の強いファラと、おしゃべりのター
シャの組み合わせで、ターシャがただ黙って聞いて
いるだけのはずもない。ターシャも、自分の村の話、
迷いの砂漠の話、風の砂漠の話をした。そして、話
がひと段落した頃には、二人はすっかり打ち解けて
いた。
結局二人は天空城にたどりつく事は出来なかった。
好奇心が災いして魔物に近づきすぎ、追われて地上
へと戻らざるを得なくなったのだ。そして真のアプ
ステレス城の出現。ターシャの心を恐怖が支配して
いった...。
その後のことについては、いずれまたの機会に。
(おしまい)
み:これは、第5回のリアで出会ったファラーファ
ル・アークシュティさんをなぜターシャが運ぶ
事になったかを考えて書きました。
タ:さっきもちょっと言ったけど、ファラとはすっ
かり仲良くなって、今度も一緒に行動をするん
だよ。グループ名は「Curious Ladies」ってい
うんだ〜。二人とも好奇心強いしね。
シ:今回はあたしが主役じゃないのね...(注7)。
み:ごめん、ねたが尽きた。氷の花のストーリーっ
てなんか進行が遅いような気がしない?
タ:あ〜。人のせいにしようとしてる〜。
注7)プラリアは毎回シャラを主役にして、最終的に
シャラの冒険記録にしようという野望があった。
af5k-myzw@asahi-net.or.jp 宮澤 克彦