4.プラリア パート
「夜のナイフ・出合い編」
ここ、エランの街に、冒険者大会を前にシャラが寄り道したのは、タスケン
人の民族衣装であるド派手な長衣を買う為だった。エランについてすぐ首尾よ
く仕立て屋を見つけたのはいいが、へんな刺繍などを特注するものだから、出
来上がりまで数日を要するとのことで、結局は冒険者大会が終わってから取り
に来る事にして、その日の宿を探したのだった。
シャラがその日の宿に定めたのは、物騒と言われるエランの中では比較的治
安の良さそうな表通りの宿屋で、お約束通り2階が客室で1階が酒場となって
いる。頃は夕飯刻、宿泊客や、街の住人と思われる客で酒場は賑わっていた。
シャラもそんな中で夕食をつついていた。シャラが大奮発して注文したコーヒ
ーをすすっているとき、ちょっと離れたテーブルから聞こえてくる声が、かろ
うじて断片的に耳に入ってきた。
「ふーん、貴族の・・・しては・・安っぽい・・・」
「それで本当に・・・なの?」
「同じテーブルの・・・酒の一杯ぐらいおごる・・」
シャラが見ると、女の人(レンズの大きな眼鏡をかけているのをみて、裕福
な家の人かしら、とシャラは思った)と、旅装の男(シャラからは背を向けてい
るのでよくわからないが、貴族か大商人の子息風)が、言い争い...という
よりは、女性の方が男を一方的にからかっている...をしているようであっ
た。結局男がそのテーブルにいた客に酒を振る舞うはめになったらしい。憮然
とした表情で男が席を立って2階へ上がっていき、このちょっとした騒動もお
しまいとなった。普通ならば注目を浴びて野次馬の人垣ができそうなのに、回
りの客が気にしたふうもないので、「ここでは、珍しい事ではないのかしら。」
とシャラは思った。もっともそのおかげで離れたテーブルからも一部始終を見
る事が出来たのであるが。「それにしても、あの人ってすごい。それに、ひょ
っとしたらあの人嫌われてるんじゃ...。」シャラは、なにか決意したよう
な表情で残ったコーヒーを飲み干すと立ち上がった。
旅人をからかっていた女性、魔法使いミルミスミーナ・ポーザックと、その
隣で他人のふりをして黙々と食事をしている戦士、ヒューマ・グラントは、共
にこの街エランで生まれた。2人は、近々黒龍山脈に冒険に出かける相談と、
同行してくれる仲間を探しにこの酒場に来たのだったが、ミルがこういう所で
騒ぎを起こすのはいつもの事だったし、それで地元の客は「またポーザックの
所の嬢ちゃんがやってるな。」と、気にもしなかったのだ。
さて、ミルが上機嫌でジョッキを傾けていると、こちらに向かってくる人影
に気が付いた。この夏の暑い中で、いかにも魔法使いといった黒いローブを着
込んだ女性、シャラ、はまっすぐミルの前まで行くと、テーブルに、ばんっと
手を置くと頭を下げながら言った。
「私、シャラ・スーンと申します。姐さん、どうか私を弟子にして下さいっ。」
ミルの見たところシャラの習得している魔法は魂織法。一方ミルが得意とす
るのは地招術である。魔法使いが違う系統の魔法を覚えようとするのはさほど
珍しい事ではないのだが...。
いきなりの事に、面食らったミルが相棒を振り返ると、ヒューマの顔には、
「めいわく」の文字が張り付いていた。明らかに足手まといとなりそうな人間
と関わりたくないのは当然だろう。しかし、「師匠」といわれていやな気がす
る人間は少ない。ミルは一瞬の内に、ヒューマを説得する言葉を見つけると、
彼にささやいた。「魂織法を使える人間がいれば、いくら貧乏でも食うには困
らないのよねぇ。」
こうして「夜のナイフ」の3人が揃ったのであった。その後、シャラが世間
知らずの家出娘だとわかり、さらにシャラがミルから習いたかったのが、地招
術などではなく、世渡り一般と憎まれ口だったと知ってミルが頭を抱えたのは
言うまでもない。
(おしまい)
み:なぜシャラはこのパーティーに加わったんだろ
う?そんな事を想像して書いてみました。
タ:勝手に人のキャラも使っちゃったけど、イメー
ジが違ったらごめんね〜。
み:始まって3回、すでにシャラは(公式、非公式に)
大勢の人と出会うことができました。
シ:みんないい人だし、私が持ってない良いところ
をたくさん持ってるの。私は幸せ者です。
タ:やっぱ、ネットワークRPGって‘出合い’よ
ねぇ。
af5k-myzw@asahi-net.or.jp 宮澤 克彦