(石川啄木) ココアのひと匙 われは知る、テロリストの かなしき心を―― 言葉とおこなひとを分ちがたき ただひとつの心を、 奪はれたる言葉のかはりに おこなひをもて語らんとする心を、 われとわがからだを敵に擲げつくる心を―― しかして、そは真面目にして熱心なる人の常に有つかなしみなり。 はてしなき議論の後の 冷めたるココアのひと匙を啜りて、 そのうすにがき舌触りに われは知る、テロリストの かなしき、かなしき心を。 |
(サッフォ) 忘れたるにあらねども たかき樹の枝にかかり、 梢にかかり、 果実とるひとが忘れてゆきたる、 いな、 忘れたるにあらねども、 えがたくて、 のこしたる紅き林檎の果のやうに。 |
(ホイットマン) 朝早くアダムのように、 ぐっすり眠って寝所からたち現れる、 ぼくが通りすぎてゆくのを眺めたまえ、ぼくの声を聞き、近寄ってきたまえ、 ぼくに触れ、通りすがりにぼくのからだに手の平を触れてみたまえ、 ぼくのからだを恐れたりせずに。 |