ここで一服 こんな詩が好きだ


(石川啄木)

  
ココアのひと匙

われは知る、テロリストの
かなしき心を――
言葉とおこなひとを分ちがたき
ただひとつの心を、
奪はれたる言葉のかはりに
おこなひをもて語らんとする心を、
われとわがからだを敵に擲げつくる心を――
しかして、そは真面目にして熱心なる人の常に有つかなしみなり。

はてしなき議論の後の
冷めたるココアのひと匙を啜りて、
そのうすにがき舌触りに
われは知る、テロリストの
かなしき、かなしき心を。


(サッフォ)

  
忘れたるにあらねども

たかき樹の枝にかかり、
梢にかかり、
果実とるひとが忘れてゆきたる、
いな、
忘れたるにあらねども、
えがたくて、
のこしたる紅き林檎の果のやうに。


(ホイットマン)

朝早くアダムのように、
ぐっすり眠って寝所からたち現れる、
ぼくが通りすぎてゆくのを眺めたまえ、ぼくの声を聞き、近寄ってきたまえ、
ぼくに触れ、通りすがりにぼくのからだに手の平を触れてみたまえ、
ぼくのからだを恐れたりせずに。



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