鳩 の 翼
三月下旬に別府に引っ越してきてから、早くも一ヶ月が過ぎようとしている。 海は住んでいるマンションのベランダから見えるのだが、海岸沿いを歩いたのは、今日が初めてであった。海辺に近づくにつれて、潮の匂いが鼻を刺激する久しぶりの心地よい感触に、忘れていた記憶がよみがえる。嗅覚は数分後には麻痺し、潮の匂いなど感ずることが出来なくなってくる。残るのは視覚を覆う、別府湾の風景であった。渚に散乱する奇妙なものを探しながら、波の音、風、足元から伝わる砂や石の感触を確認する。突然、右後方から「シュー」という音が聞こえた。振り返ると一羽の鳩が、仲間のところに向かって降下してきたのである。風と翼の摩擦が、このような音を発するのかと、非常に興味深い遭遇であった。飛行機で東京と別府を行き来している私にとっては、このことが妙に新鮮に映ったのである。飛行機のあのような騒音も、この音から始まったのだと・・・。