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2023.2.2mf
弁護士河原崎弘
嘘を言う依頼人に同調する弁護士は許されるか
質問:弁護士の虚偽事実の主張
弁護士は、依頼人が、事件処理の途中で、「嘘をついている」とわかっても、一緒に嘘をついて、嘘をつき通すのですか。お金のために。
それに、弁護士が偽造の証拠を法廷に提出することはあるんですか。弁護士の数が増えています。将来弁護士の質が低下していくと思います。願望ですが、弁護士数の増加に伴い弁護士会の懲戒処分の強化が必要ですね。
回答:弁護士でも虚偽事実の主張は許されない
民事事件でも、刑事事件でも、依頼人が嘘を言うことはよくあります。
裁判は、人間が行う判断です。100%真実に合致する判断は、不可能です。そこで、裁判官は、当事者の人柄、誠実さを見て判断します。従って、誠実であることは、裁判において重要なことです。弁護士は、
依頼人に対し、嘘をつかない誠実な態度をとるよう説得すべきでしょう。
しかし、弁護士は依頼人の利益を守る立場にありますので、外部に対して依頼人の主張に反する主張をすべきではありません。さらに、弁護士が嘘と思っても、それが本当に真実に反しているかは、わかりません。
その意味では、弁護士は、依頼人に同調せざるを得ないです。弁護士の良心に反する場合は、代理人あるいは弁護人を辞任するしか方法はありません。
しかし、依頼人の行為の違法性の程度が高い場合、嘘が明白である場合は、それに同調した弁護士の行為も違法でしょう。例えば、依頼人が偽造の証拠を使用するよう求めた場合、明白な虚偽の事実を主張して積極的に新たな利益を求めている場合、これに同調する弁護士の行為は違法です。
弁護士倫理を定めた弁護士職務基本規程 75条も、虚偽と知りながら、 証拠を提出してはならないと明白に規定しています。
この場合、刑事上は、証拠隠滅罪や、脅迫罪になり、民事上は、不法行為が成立し、弁護士は、損害賠償責任を負います。
依頼人に同調し、依頼人の違法行為を止めなかった弁護士も、不法行為責任を負います。
判決
- 千葉地裁松戸支部令和5年1月31日判決
被告(夫)の自宅の鍵交換に加担した元代理人弁護士に不法行為として165万円の賠償を命じた。
- 被告(夫)が、元代理人弁護士に対して、妻子が住んでいる自分名義の自宅建物の鍵を交換すること、強硬手段として建物を取り返すことや荷物の搬出を考えている旨のメールを送信、
- 元代理人弁護士は「もう仕方ないですよね。さすがに(家を売りに出している)、内覧妨害をここまでしてきていて、こちらが下手に出続けるのはもう限界ですよね。鍵を交換して被告(夫)が住むようになったら、原告(妻)には帰ってこないように連絡するようにお願いする」旨を回答、
-
判決では、「建物を占有していた原告(妻)の占有権を侵害するものであって、被告(元代理人弁護士)は、それに対して、相当ではなく、中止すべきであるなどの助言を行わず、むしろそれを容認するかのような回答を行った」などと認定し、元妻に対し、損害賠償を認めました。
- 宮崎地方裁判所平成21年4月28日判決
被告は東京弁護士会所属の弁護士である。被告は、盗品等有償譲受罪で起訴された男性の弁護人を努めた際に,同事件の被告人以外の者が,真犯人である旨の内容虚偽の書面を作成して,これを審理中の裁判所に提出し,別の受任事件でも自白をしないよう容疑者を脅し、証拠隠滅や
脅迫などの罪に問われ、裁判所の適正な司法権の行使を誤らせ,虚偽の証拠で冤罪を作り出そうとしたもので,刑事司法の根幹を揺るがしかねず,反社会性は,大変大きいなどとして,懲役1年6月を言い渡された。
- 東京地方裁判所平成5年11月18日判決
そして、被告は、各文書の作成の経緯について、右の程度の調査をしただけで、専ら、利三九が脳軟化症ではなかったという確信に
のみ基づいて、それに反する甲事件での原告らの主張及び書証の提出につき、訴訟詐欺、有印私文書変造・同行使、有印私文書偽造教
唆・同行使及び虚偽有印公文書行使の各犯罪を構成すると考えて本件告訴告発及び本件懲戒請求に及んだものである。
3 被告が弁護士であり、犯罪の嫌疑をかけるのに相当な客観的な根拠の確認つき一般人より高度な注意義務を課せられることか
らすれば、本件で被告のした調査はあまりに不十分であり、かつ告訴告発及び懲戒請求をした判断もあまりに軽率であったといわざる
を得ない。
よって、本件告訴告発及び本件懲戒請求は、被告が犯罪(懲戒事由)の嫌疑をかけるにつき相当な客観的根拠の確認をせずにしたも
のであり、原告らに対する不法行為が成立する
2010.9.5