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「対馬の海に沈む」 ★★☆ 開高健ノンフィクション賞 | |
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JA対馬(対馬農業協同組合)で起きた、共済からみの巨額不正流用事件。 2019年に発覚したその事件では、当事者である職員が車ごと海に飛び込み溺死。本人による不正の詳細は明らかにならなかった。 その4年後、著者は島民への取材を重ね、事件の真相を明らかにしていく、本書はその詳細な記録。 対馬は6年前に観光で訪れていますので、島の様子を思い出し、目に浮かべながら読み進みました。 国境の島という閉鎖的な社会で起きた事件、外部の人間が取材して真相を明らかにしようとするのはかなり難しいことではないかと思われるのですが、語ってくれる人もいた、というのが印象的です。 事件を起こした人物は、西山義治という正職員、死亡時44歳。JA内では毎年のように全国表彰式で優秀表彰を受けていた有名人物であり、「神様」「モンスター」とも言われていたという。 著者は丹念に取材を続けていくことによって、共済の契約実績を不正に積み上げ、不正な支払請求を行っていた手法、西山義治の人物像を明らかにしていきます。 そうした中で疑問として浮かび上がってきたのは、これは西山が一人で出来た不正事件なのか、ということ。 この点も明らかにされていきますが、驚くのは、JA対馬・上対馬支店における事務管理の杜撰さ。何故そんなことが行われていたのか、常識ではとても考えられません。 そうした事件が起きた根本的な原因は何処にあるのか。それは著者も明確に指摘していますが、JA共済連の仕組みそのものにあると言って他なりません。 営業を行っていればどんな職場でもありうることですが、JA共済連が特別なのはその組織構造にあるからでしょう。 そして、圧巻は最後の2章、「共犯者」と「造反」。 西山義治という人物は確かに犯罪を行いましたが、同時に犠牲者でもあったのではないかという著者の言葉が、深く胸に刻まれます。 読み進めば読み進むほど読み応えを感じる、ノンフィクションの逸品です。お薦め。 序章.事故/1.発覚/2.私欲/3.軍団/4.ノルマ/5.告発/6.責任/7.名義人/8.共犯者/終章.造反 |