上畠菜緒(うえはた)作品のページ


1993年岡山県生、島根大学法文学部言語文化学科卒。2019年「しゃもぬまの島」にて第32回小説すばる新人賞を受賞し作家デビュー。


1.しゃもぬまの島 

2.イグアナの花園 

 


                   

1.
「しゃもぬまの島 ★★        小説すばる新人賞


しゃもぬまの島

2020年02月
集英社

(1500円+税)

2022年02月
集英社文庫



2020/06/16



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題名にある「しゃもぬま」が、本作の全て、と言って過言ではないだろうと思います。

主人公=
待木祐(まちきたすく)の故郷である島には<しゃもぬま>という幻獣がいる。中型犬くらいの大きさで、見た目はロバに似ている。
そのしゃもぬま、死期が近づくと島の人間を一緒に天国へ連れて行ってくれることがある、と言い伝えられている。

今は島を離れ、街で風俗情報誌の編集仕事をしている祐は、睡眠障害に悩み、心身とも疲弊している状況。そんな祐のアパートにある日、しゃもぬまがやってきます。
しゃもぬまが一緒に天国へ連れて行こうとしている相手は、果たして祐なのか・・・。

幻想的なストーリィと現実的なストーリィが混然として見事に一体化している、という印象。その点が、小説すばる新人賞を受賞した理由なのかもしれません。
しゃもぬまと祐の同居生活が始まりますが、このしゃもぬま、決して不気味でも怖い存在でもありません。祐に寄り添う、まるで新たな相棒、といった印象です。
幻想的な展開以外に、祐が見る夢と現実が入り乱れるストーリィでもあります。
何となく、ボォーッとしていてもいいんだよと、それを許してもらえているような雰囲気あり。
やがて衰えてきたしゃもぬまと一緒に、祐は故郷である島へと向かいます・・・。

幻想と現実の交じり合いは楽しめたのですが、そもそも本ストーリィ、現実的にはどういう話なのか、今一つ分からなかった、というのが読後感。
とは言え、しゃもぬまという存在、中々魅力的ではあります。

                     

2.
「イグアナの花園 The Iguana Garden ★★


イグアナの花園

2024年09月
集英社

(1900円+税)



2024/10/05



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主人公の八口美苑(やつぐち・みその)は、小さな生き物の声が聞こえる、不思議な女の子。
人との距離感が分からない、コミュニケーション能力を欠く美苑において、幼い頃の友だちは
アオダイショウの<蛇>で、それから10年経って24歳の大学院生となった今は、グリーンイグアナの<ソノ>が一番身近な存在。
しかし、ある日突然、母親から半年以内に「結婚しなさい」、結婚できかったら我が家の財産は別の者に譲り渡す、と宣告されます。
友達もいたことがないのに結婚だなんて!? 美苑は衝撃を受けますが、ソノとの暮らしを守るため何とかしなくてはと、早速行動を開始します。ソノを婚活の助言者として。
この辺りの展開は、かなりユニークにしてユーモラス。

ファンタジー要素と、えらく現代的な問題とを取り合わせたストーリィ。
要は、コミュニケーション問題がテーマのようです。
人とのコミュニケーションが苦手、コミュ障といった話は、子どもたち世代から学生、社会人世代まで、今や広く存在する問題だと思います。
何故そうした問題が生じるかといえば、人間の会話には裏表や駆け引きといったものが多くあるから。その点、人間以外の生き物は単純です。思ったままのことしか口にしませんから。
主人公に美苑が、ことある度、人との付き合いに困惑し、ソノとの会話にホッとするというのも無理ないと感じる次第。
元々、美苑の亡父、母親からして口下手と思われますし。

それでも、婚活に苦労する美苑には、ソノ以外に、母親の華道の弟子で家事全般を手伝っている
今野つばめという姉のような存在もいれば、大学の後輩で押しかけ居候となる木下キキという妹のような婚活協力者も現れます。
然るべき時に、然るべき人たちが美苑の周囲に現れるのです。

人付き合いの悪さを余り気にする必要はないのでは。
それより、自分らしくあることが余程大事なこと、と本作は教えてくれているように思います。
登場人物それぞれに、心からエールを送ります。


1.友の隠れ家/2.雛鳥の学び舎/3.イグアナの花園/4.花束のリビング/5.独り言の活け花/6.美苑の星園

   


   

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