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1.阿修羅草紙 2.厳島 3.ふたりの歌川 |
1. | |
「阿修羅草紙」 ★☆ 大藪春彦賞 |
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2024年01月
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時代は足利将軍・義政の時代。 主人公は、比叡山を守る忍び=八瀬童子のくノ一であるすがる。 比叡山延暦寺の宝物が何者かによって奪われます。 しかも、すがるの父で熟練の忍びでもあった般若丸を含む8人の守部を殺害したうえで。 中ノ頭に任命されたすがるに、盗まれた宝物の奪回、盗んだ者への処罰が命じられます。助っ人は雇われた伊賀者2名。 本作はそこから始まる、熾烈な忍び同士の戦いを描く忍者もの長編時代小説。 しかし、何時の間にか、何のために宝物を奪い返すのかという目的は薄まり、忍び同士の、お互いに潰し合うかのような闘いが延々と続けられます。正直なところ、悲哀ばかりが増していく、といった展開。 ・八瀬童子=忍びといえば、隆慶一郎「花と火の帝」。もっとも時代も異なれば、仕える先も異なり(本作は延暦寺、隆作品は帝)ますが、後者には伝奇小説としての面白さがありました。 ・また、忍び同士の殺し合いというと、山田風太郎「忍法八犬伝」を思い出しますが、伝奇小説だけにカラッとした明るさがありました。 両作に比べ、明るさはなく、陰惨さばかり感じるストーリィと言って良いでしょう。 ・なお、ストーリィ中には将軍義政、ならびにその側女であった今参局のことが出てきますが、ちょうど奥山景布子「浄土双六」で読んだばかりのことだったので、理解がし易かったです。 忍びの技という面では読み応えたっぷりですが、本作を読み終えた時には悲哀ばかりが強く残った、という感じです。 |
2. | |
「厳 島」 ★★ |
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これまで読んだ戦国小説というと、武田信玄・上杉謙信・織田信長以降、英雄と呼ばれる武将たちの物語ばかりで、主要舞台である中央から外れた毛利元就辺りは、まるで知りませんでした。 本作は、僅か二ヶ国(安芸・備後)を所有する小大名に過ぎなかった毛利元就が、それまで服従していた陶晴賢(実質西国六ヶ国を支配)に反旗を翻し、独立を図った戦い<厳島の戦い>の前後全てを描いた戦国小説。 四千の寡兵をもって二万八千の大軍を擁する陶晴賢に勝つために元就が取った作戦は・・・謀略。 戦に謀は付きものではありますが、本作に描かれる元就の謀略は凄まじい。とにかくえげつない、の一言です。 まずその内容はというと、陶方の大将間に内通の疑惑を持たせ、内部抗争を誘うといったもの。 そして、寡兵をもって大軍を破る舞台として選んだのが、厳島という次第。 そんな元就に対し、謀は戦さの常であっても行ってはならないことがある、それは“信を壊すこと”だと怒るのが、陶晴賢に従う智将の弘中隆兼。 本作に描かれる厳島の戦いは、謀略を持って挑む毛利元就と3人の息子たち(隆元・吉川元春・小早川隆景)と、武を誇る陶晴賢と元就の謀略を疑う弘中隆兼との戦いだった、と言って良いでしょう。 本作に描かれる武将としての毛利元就、とても好きになれるものではありませんが、矢継ぎ早に放つその謀略の凄まじさ、効果の程は大きく、まさに頁を繰る手がとまりません。 こんな面白い時代小説を読んだのは久しぶり、という快作。 戦いの舞台が、あの厳島神社のある厳島ですから、そんな激戦があったとは信じられないという思いが、本作をさらに面白くしてくれています。 お薦め。 序/秘計/三兄弟/防芸引き分け/折敷畑/騙し合い/隆助初陣/罠/琥珀院/囮城/栄興寺/布陣/炎/決戦/龍ヶ馬場/終章 |
3. | |
「ふたりの歌川−広重と国芳、そしてお栄−」 ★★ |
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風景画で人気を博した歌川広重、役者絵・戯画で人気を博した歌川国芳、そして葛飾北斎の娘である応為ことお栄、同時代で人気を競った浮世絵師たちの足跡を描いた長編。 徳太郎は、定火消同心を勤める安藤家の嫡男。お役目は自分に向いていない、絵の道に進みたいと願うが、両親が早くに死去、13歳で家督相続させられ、絵に没頭することならず。 その徳太郎、家督相続前に自分の絵を見てもらおうと訪ねて行った先が葛飾北斎。そこで徳太郎は、その娘であるお栄と出会います。 同様に北斎を訪ねたのが、日本橋の染物屋<柳屋>の息子である孫三郎。やはりお栄と出会うに至ります。 すっかり意気投合した三人、お栄の提案により、定期的に柳屋に集まり、三人で思いっきり絵を描くまくるという日々。 まさに三人にとっての青春時代、その楽しさが伝わって来るようです。 しかし、楽しい時期というのは長く続かないもの。祖父に咎められて徳太郎が脱落したことから、三人の楽しい時期は終わりを遂げます。 そこから、三人それぞれ、浮世絵師として世に出るまでの苦闘、自分らしさを発揮できる絵を見出し、人気絵師になるまでの長い日々が描かれて行きます。 ただ、どうしても広重、国芳が中心となり、北斎の陰に隠れていた存在である応為を描く部分は、残念ながら少ない。 広重、国芳の二人についてはもちろん興味尽きず、読み応え十分なのですが、その二人に留まらず、当時の浮世絵師たちが次々と登場し、浮世絵師たちの群像劇となっている処が嬉しい。 歌川豊国、歌川豊広、歌川国貞ら、それぞれの絵師としての個性が描かれる一方、常に新しい絵を追求し続けた葛飾北斎の存在にやはり魅了されます。 先駆者である北斎、その北斎に憧れながら、歌川派の絵師としてその後を追いかける広重、国芳+お栄(応為)の、青春物語&絵師彷徨記、といったストーリー。 当時の浮世絵世界を存分に見た気分がして、すこぶる楽しい。 浮世絵や絵師たちに興味ある方にはぜひお薦めしたい佳作。 ※なお、広重、応為を描いた、既読作品は次のとおり。 歌川広重・・・朝井まかて「眩」 葛飾応為・・・梶よう子 「広重ぶるう」 1.絵本隅田川 両岸一覧/2.するかてふ(駿河町)−名所江戸百景−/3.花和尚魯智深−通俗水滸伝豪傑百八人之一個/4.市中繁栄七夕祭−名所江戸百景− |