高瀬隼子作品のページ


1988年愛媛県生、立命館大学文学部卒。2019年「犬のかたちをしているもの」にて第43回すばる文学賞を受賞し作家デビュー。22年「おいしいごはんが食べられますように」にて 第167回芥川賞を受賞。


1.おいしいこはんが食べられますように

2.うるさいこの音の全部 

3.新しい恋愛 

 


                   

1.
「おいしいごはんが食べられますように ★★      芥川賞


おいしいごはんが食べられますように

2022年03月
講談社

(1400円+税)

2025年04月
講談社文庫



2022/04/20



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題名からすると、最近流行りのグルメ絡みのハートウォーミングなストーリィかと想像するのですが、全く大違い。

食べ物絡み、恋愛絡みの、これは“職場小説”と言うべき作品だろうと思います。

舞台となるのは、食品や飲料のラベルパッケージ製作会社のとある支店。
主人公となるのは、女性社員の
押尾と、同僚である男性社員の二谷。この2人が交互に語り手となります。
この2人、仕事が終わった後に時々一緒に食事に行く関係なのですが、ある時、押尾は
「二谷さん、わたしと一緒に、芦川さんにいじわるしませんか」と誘います。

ええっ、職場でのイジメ?と驚いてしまうのですが、その意味するところは何ともはや・・・。
その
芦川、押尾や二谷の先輩となる女性社員なのですが、どこかか弱いところがあり、しんどくなりそうな仕事はさせないっていうのが皆の共通ルールになっている。

この3人の関係が面白い。
押尾と二谷は共謀関係にあるようなのですが、その二谷は次第に芦川と恋人関係に嵌っていく。それでも二谷と押尾との関係は変わらないまま。
そして押尾と芦川の関係はというと、皆が芦川に優しくするあおりで、仕事の負担が押尾にしわ寄せされている。

身体に不調をきたすような仕事を無理に押し付けるべきではないという意見はごもっとも。
芦川は自らそれを請うことはないし、善意で無邪気なのですが、その結果として仕事の負担を増やされてしまう側は堪ったものではない、というのもまた事実。

ちょっと奇妙でちょっとユーモラス、職場ではこんなこともあるある、という一方で、そんな風だったらとてもやってられない、という“職場小説”。
さて結末は? ・・・弱い者は強し。どうぞ一読あれ。

                     

2.
「うるさいこの音の全部 ★★


うるさいこの音の全部

2023年10月
文藝春秋

(1600円+税)



2023/11/03



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主人公の長井朝陽(あさひ)は、大学2年生からバイトしていたゲームセンター会社にそのまま就職し、現在も現場の店舗で働く28歳くらいの女性。
ずっと小説の応募を続けてきて、「配達会議」という作品が文芸誌の新人賞を受賞したところ。しかし、それが職場でバレ、生まれ故郷では知れ渡ると周囲がまるで便乗するかのように大騒ぎ、朝陽自身にも影響は及んで・・・というストーリィ。

小説家としてデビュー、しかも何かの賞を受賞すると、皆さん、こんな騒動に巻き込まれるのだろうなァと改めて感じさせられます。
そして朝陽が困惑し、断りたいのについつい応じてしまうという心境にも共感を抱きます。デビュー作が好評を得たからといってこれからずっと作家としてやっていけるか、そんな自信を持てるようなことは、余程の人でない限りないでしょうから。
周囲の人も温かく放っておいてあげれば良いのにと思います。デビューしたての小説家って、芸能人とは違うのですから。
元々華やかなことが得意な人は小説家にならないと思いますし。

現実と、朝陽が構想する小説ストーリィとが混じり合い、混乱させられるところもあります。それは朝陽の気持ちの中での混乱の投影なのでしょう。

「明日、ここは静か」は、朝陽の2作目の小説「幽霊が遊ぶ箱」が芥川賞を受賞した直後を描くストーリィ。
当然ながら、受賞作家=
早見有日(ゆうひ)にはあちこちのメディアから取材が殺到します。
ついつい期待に応えようとする余り、嘘を重ね、ついには歯止めが掛からなくなってしまうという状況に。
担当編集者の
瓜原さんはしっかり助言してくれるのですが、迷惑を掛けてはいけないと自分で捌こうとして墓穴を掘る、というようなことの繰り返し。

小説が好きな人間の一人である私としては、作家の書いた作品がすべてで、作者自身のことはそのおまけに過ぎない。
その点、瓜原さんが朝陽に直言するとおりだと思います。
なお、こんなに騒がれるのも、次の芥川賞受賞者が発表されるまでの半年程度だけ、という朝陽の言葉は実情を現していて愉快。

本2作は実体験そのものではなくフィクション、とのことですが、小説家デビューの裏側を描いたという点で珍しい、独自の世界を感じます。
お薦め。


うるさいこの音の全部/明日、ここは静か

           

3.
「新しい恋愛 ★☆


新しい恋愛

2024年09月
講談社

(1600円+税)



2024/10/16



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様々な恋愛の形を描く短篇集。
一度見送ろうと思ったのですが、偶々借りられる機会があったので手を伸ばしました。

現代だからこそいろいろな恋愛の形がありうる、ということなのかもしれませんが、正直なところ、大人の恋愛話はもういいなぁという気分なのです。
本作に描かれたような恋愛を思うと、なんか、面倒くさいような気がして。
結婚しない男女が増えている、その理由のひとつとして恋愛ごとが面倒くさい、という心理があるのではないかと思ってしまいます。
いやいやそんなことを言ってたら寂しい、何も始まらないゾと忠告すべきなのかもしれませんが。

「花束の夜」:密かに関係があった先輩社員が退職。送別会の花束を「いらない」と押し付けられ・・・。
「お返し」:バレンタインチョコの真の狙いは・・・。
「新しい恋愛」:ロマンチックなのが嫌だという主人公に、中学生の姪は父親の恋愛がロマンチックと言い・・・。
「あしたの待ち合わせ」:大学以来ずっと自分を好きでいる狛村くんがいるから好き勝手に・・・。
「いくつも数える」年齢差の大きな結婚、どこまでなら容認できる?

花束の夜/お返し/新しい恋愛/あしたの待ち合わせ/いくつも数える

     


   

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