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1.図書館の魔女 2.図書館の魔女 烏の伝言 3.まほり 4.図書館の魔女 高い塔の童心 |
「図書館の魔女 de sortiaria bibliothecae」 ★★☆ メフィスト賞 | |
2016年04月
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“図書館の魔女”と言われる少女と彼女を守る少年の冒険を描いた壮大なファンタジー叙事詩。 史上最古、古来からの書物を集めたと言われる一ノ谷国にある高い塔=“図書館”。その番人であり、あらゆる書物に通じるその主は“高い塔の魔法使い”と言われる。 主ストーリィは、本物語世界での国同士の争い。 また、国同士の争いをどう治めるかという主ストーリィと並行して、言葉についての考察が深く描かれます。 言葉が溢れ出てくるような本物語に溺れそうになりながら、本物語が俄然面白くなってくるのは、上巻の終盤、キリヒトの正体が明らかになってから。それからは一気呵成です。 第1部 山賤ノ里、一ノ谷 図書館の魔女と手の中の言葉/第2部 一ノ谷 地下の覊旅と暗殺者の所在/第3部 一ノ谷、ニザマ 文献学講義と糸操る者たち/第4部 ニザマ、アルデシュ 円卓会議と双子座の館の対決 |
「図書館の魔女 烏の伝言(つてこと)」 ★★ de sortiaria bibliothecae angeli alus nigris |
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2017年05月
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ファンタジー冒険小説“図書館の魔女”第2弾。 ただし、ストーリィは前作とは別。 ニザマの地方官僚の姫君ユシャッバを守りつつ近衛兵の一行が剛力たちに案内されて山越えをしているところからストーリィは始まります。 ニザマで起きた政変の為、港から船で姫君を逃がそうというのが一行の任務。しかし漸く辿り着いた港町は陰謀渦巻く場所。早くも彼らは新たな危険に直面します。 ニザマで起きた政変というのが、前作で高い塔の魔女=マツリカが活躍して一ノ谷とニザマが手を結び、ニザマ帝室がそれまで帝国を牛耳っていた宦官組織との決別を決断したところから生じたもの。 その意味で本書は、場所や登場人物たちを異にするものの、前作に続くその後のストーリィと言えます。 本書題名に少々惑わされますが、“図書館の魔女”シリーズの続編「烏の伝言」と理解すれば判りやすいと思います。 剛力の中に、カラスを使って文をやり取りする鳥飼のエゴンがおり、題名の所以となっています。ただし、そのエゴンが本書主人公という訳ではなく、これはという主人公が不在という珍しい作品になっています。 大部な長編、それにもかかわらずストーリィ舞台の殆どは港町内に限定されますし、登場人物もほぼ固定されているのですが、それでも何故か面白いのです。 そして最後にはやはり高い塔の魔女が登場し、ストーリィをまとめ上げます。 この展開からすると、シリーズものとしてこの後の作品もありそうです。長いファンタジー物語の途中の巻、と言ったところでしょうか。 1.烏と馬鹿/2.廃墟と唐臼/3.姫御前、娼館/4.飯場、暗渠/5.鼠と鈴/6.掟と弁え/7.薬師の目覚め/8.蛍火/9.奪還/10.伝言二信/11.嘘の賭金/12.狐と鼠/13.院/14.識字/15.牛目/16.杣道/17.港 |
3. | |
「まほり」 ★★☆ |
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2022年01月
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ストーリィは、小児喘息の妹のため家族で山間集落の祖母の家に越してきた中学生の長谷川淳が、渓流で着物姿の不思議な印象の女の子を見かけるところから始まります。 次いで、大学で社会学を専攻する勝山裕が、卒研グループの飲み会で蛇の目紋の札が大量に貼られているのを目撃したことがあるという話に興味を示します。それが裕の郷里に近い山間の村のことであり、ちょうど夏休みということもあって、裕は調査しようと帰郷します。 さっそく出向いた地元図書館で再会したのは、中学時代の塾仲間で図書館バイト中の飯山香織。何故か香織、積極的に調査の協力を申し出てそれ以降、裕は香織とコンビでフィールドワークを始めることになります。 裕の調査にはある個人的な動機も絡んでいるのですが、調査の方向は次第に「毛利神社」、その神社がある排他的な集落“巣守郷(うらもりごう)”へと繋がっていきます。 巣守郷へ赴いた裕と香織はそこで、この郷で少女が監禁されているらしいと主張する中学生の淳と出会います。二つのストーリィがここで一つになったという次第。 確かに事件らしい要素はあるのですが、本ストーリィの中心は、様々な古文書、言語の変遷を手当たり次第に調べていく、というもの。その意味で本作は、事件ものミステリではなく、郷土史や秘められた因習という密林に分け入って調べていく“民俗ミステリ”という表現に相応しい。 当初は余りに大部ということもあってパスしようかと思っていたのですが、機会を得て本作を読めたことは本当に良かった。 本を、物語を読む楽しさを満喫させてくれた一冊です。 そして、淳の着物の少女への、裕と香織の間に、それぞれの想いが秘められている設定が良い香料になっています。 題名の「まほり」とはどんな意味を持っているのか。それが分かるのはもう終盤ですが、驚愕の真相には衝撃を受けずにはいられません。最後はスリル満点でした。 長い物語、ややこしい話を苦にされない方に、是非お薦め。 1.馬鹿/2.説話の変容/3.蛇の目/4.帰郷/5.神楽/6.縁起の転倒/7.井戸/8.戒壇石/9.資料館/10.巣守郷/11.琴平、毛利/12.古文書/13.翻刻/14.市子/15.まほり/16.盂蘭盆/17.奪掠/18.形見 |
4. | |
「図書館の魔女 高い塔の童心」 ★☆ de sortiaria bibliothecae Lenfance de la plus haute tour |
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「図書館の魔女」の前日譚。 マツリカはまだ5,6歳の童女。そして先代の“高い塔の魔法使い”であったマツリカの祖父=タイキは健在です。 第三次同盟市戦争は、如何にして起こらなかったのか。 そのために、タイキはどのような策略を立て、行動したのか。 そしてマツリカは、次代の高い塔の番人に相応しい片鱗をどのように見せるに至ったのか。 <一ノ谷>と<ニザマ帝国>との対立、マツリカはどうしてタイキの元に身を寄せることになったのか等々。前日譚だからこそ分かることがある、という面白さはありますが、行動より言葉、説明の方が主体になっていて、少々かったるさを感じてしまったのが残念なところ。 ストーリーとしては、戦争を回避するためのタイキの活躍と、海老まんじゅうの味が落ちたことから始まるマツリカの思いがけない活躍という、二本立て。 なお、「図書館の魔女」に登場したマツリカを囲む人々=ハルカゼ、イラムらが、若い時の立場で登場するところも、前日譚の楽しさあり。(※先代キリヒトも登場するところは見逃せず) 「図書館の魔女」シリーズ、新しい物語をこれからも是非読んでみたいです。 1.晩夏/2.高秋 |