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1.グレイスレス 2.浮き身 |
「グレイスレス」 ★★ | |
2025年04月 2023/02/02 |
主人公の聖月(みづき)は、母親が英国に滞在しているため、祖母と二人で、森に囲まれた洋館暮で暮らす。 その聖月の仕事はというと、アダルトビデオ業界でAV女優にメイクを施す化粧師。 静かな祖母の暮らしとAV業界での仕事が、とても対照的。 日常生活では聖月ら、個々の存在がはっきりしている。 一方、AV撮影の現場では個々の名前は語られず、身体の特徴で語られ、まるで身体の部品にしか過ぎないよう。 しかし、両方はそんなに掛け離れた世界なのでしょうか。また、両世界の住人は相容れない存在なのでしょうか。 どうもそうは思えません。 違いは、それぞれが設けたルールに従っているからに過ぎないのでは、と感じます。 最後にそのルールが破られた時、聖月がそこに留まる理由は失くなったのでしょうか。 2つの世界が余りに対照的なので、それぞれの姿が、その違いがくっきりと浮かび上がってくるような気がします。 |
「浮き身」 ★★ | |
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読み始める前、本作題名の「浮き身」とはどういった意味なのか?と思いましたが、読み終えた今、これ以上ないくらい良く出来た題名だと思います。 主人公は、ろくに通学していないものの一応女子大生、でも実態はキャバ嬢だという19歳。 ふとしたことから、まだ開店前、無店舗型風俗を準備中のマンション一室に入り込みます。 主人公曰く、住まいでも仕事場でも遊び場でもないこの部屋が、居心地良かったのだ、と。 それを象徴するように、その部屋にいる女たちは源氏名等の仮名で呼ばれ、男たちは顔の特徴で呼ばれる。 先は全く見えないけれど、何にも束縛されていない居心地良さ、という気分は判る気がします。 でもそれは、一方で虚無、とも言えます。 その部屋にいることの代金は、セックスだけ。 無個性の人間たちとのセックスなど、何ほどのものでもない、という主人公の言葉が、虚無さを引き立てます。 全く思いもよらない世界が、この小さな部屋に広がっていた、そんな凄みを感じる作品。読後感は深いものがあります。 |