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2.犯罪小説家 3.つばさものがたり 4.検察側の罪人 5.犯人に告ぐ2 6.霧をはらう |
●「クローズド・ノート」● ★★ |
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2008年06月
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大学生の香恵は、部屋のクローゼットの奥に前の住人が忘れたに違いない一冊のキャンパスノートを見つけます。 ストーリィは、まず香恵がバイトする文房具店、そこでの万年筆の薀蓄から始まります。そのプロローグ部分がとても楽しい。 率直に言って、細部にはつじつまの合わないところ、幾らなんでもと感じるところが幾つかあります。 |
●「犯罪小説家」● ★ |
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2011年05月
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以前話題になった「犯人に告ぐ」は私に合いそうもないなぁと見送った経緯があり、本書も読もうかどうか迷っていました。 「凍て鶴」という作品でサスペンス系の文学賞を受賞した新進作家の待居涼司。彼の元にはさっそく映画化の話が持ち込まれ、脚本・監督・主演をホラー系作品で最近人気のある脚本家=小野川充に任せたいとのこと。 本ストーリィの特徴として次のことがあげられます。 |
●「つばさものがたり」● ★★ |
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2013年01月
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26歳の君川小麦、父親から引き継いだケーキ店を開くという夢を叶えるため、都内の有名パティスリーで修業中。 素敵なケーキ店を開きたいと頑張る小麦と、その小麦を応援する母と兄一家という“家族物語”+叶夢とエンジェルの子供レイとの“ファンタジーな友情物語”。 才能と夢、でも悲運と挫折。誰の人生においても一方だけということはなく、常に背中合わせのものかもしれません。 優しさと可愛らしさに満ちたストーリィがお好きな方に、是非お薦めの佳作。 |
4. | |
「検察側の罪人」 ★☆ |
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蒲田で起きた老夫婦刺殺事件。その容疑者の中に、ある時効事件の有力容疑者がいることに東京地検のベテラン検事=最上は気付きます。 時効事件の真犯人、しかし新たな事件では犯人ではないかもしれない。そうした事実を前にした時、正義を貫こうと検事になった人間はどう道を選ぶのか。その葛藤は読者もまた共有するものです。 |
5. | |
「犯人に告ぐ2−闇の蜃気楼−」 ★☆ |
2018年05月
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話題作であったらしい「犯人に告ぐ」の第2弾。 読む予定はなかったのですが、たまたま借りられる機会があったので読んでみました。 前作を読んでいないのでこのシリーズ全体については何とも言えないのですが、本書だけに限って言えば、それ程ではなかったなぁという印象。 振込詐欺グループ、警察に事務所へ踏み込まれ、店長等々が逮捕されますが、知樹・健春の砂山兄弟は危ういところで脱出に成功します。その2人に、詐欺の指南役?だった淡野が今度は誘拐ビジネスをやろうと誘ってきます。 淡野が綿密な計画を立て3人で誘拐計画を実行・・・。 その誘拐事件に立ち向かうのが、神奈川県警で刑事特別捜査隊の統括指揮を執る巻島史彦警視という次第。 犯罪小説という訳でもなく、警察ものサスペンスとも言い切れず、犯罪グループ対警察捜査陣の対決ストーリィというのが適切でしょう。 少々物足りなさを感じてしまったのは、最終結末に偶然要素が影響していることと、犯人側の主犯格である淡野の人物像が今一つ不明瞭のまま終始したこと。 ※巻島と淡野との対決は次作に引き継がれるようです。 その次作を読もうという気になるかどうかは、今の処どちらとも言えず。 |
6. | |
「霧をはらう」 ★★☆ |
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2024年08月
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久々に読んだ法廷ミステリ。 でも、3分の2くらいまでは地味な展開、真相解明は遅々として進まず、という具合でしたが、最後にまんまと作者にやられました(心打たれました)。 古溝病院の小児科に入院していた女の子4人の点滴液にインスリンが混入されるという事件が発生、内2人が死に至ります。 その犯人として逮捕されたのは、助かった紗奈の母親である小南野々花。母親が自白したと言われ、長女の由惟は大学進学の夢を諦め、紗奈を守りつつ働きだしますが、四面楚歌状態。 主人公となるのは、まだ若い弁護士の伊豆原柊平。 修習同期の桝田が有名弁護士の貴島が率いる弁護団の一人であったことを縁にそれに加わり、結果的に弁護活動の先頭に立つことになります。 ミステリとしても勿論読み応えがあるのですが、それ以上に素晴らしいのは、弁護士である伊豆原、被告人の娘である由惟の心に問い掛けする物語になっているところ。 無罪だと主張する被告人=野々花の無罪を、伊豆原は信じることができるのか。娘である由惟は、母親の主張を信じることができるのか。題名の「霧をはらう」とは、その辺りの迷い、覚悟に絡む心情を謳う言葉となっています。 最後で真相が明らかになるのは、決して伊豆原の奮闘だけによるものではありません。 証人席に立った等々、一部の関係者の、たとえ自分に不都合があろうとも正しくあろうとする勇気のお陰。 本作に登場する、正しいことを貫こう、人としての責任を真っ当に果たそうとした幾人もの人たちに、拍手を送りたい。 しかし、嗚呼その一方で・・・・。 雫井さんの会心作、お薦めです! |
7. | |
「クロコダイル・ティアーズ」 ★★ |
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東鎌倉の駅前で老舗の陶磁器店<土岐屋吉平>を営む久野貞彦と暁美の夫婦を思わぬ悲劇が襲います。 跡継ぎ息子の康平が刺殺されるという事件。 逮捕された犯人の隈本は、何と康平の妻=想代子(そよこ)の元交際相手だという。 その隈本、裁かれる法廷で最後に、犯行は逆恨みじゃない、想代子から頼まれたからだとまくし立てる。 それ以降、貞彦と暁美は、想代子に対する疑心暗鬼を抱え込むことになります。 本当に想代子はそんなことを隈本に頼んだのか。デキ婚での結婚で生まれた孫=那由太は本当に康平の子どもなのか。 ※題名の「クロコダイル・ティアーズ」とは、嘘泣きの意味。 夫婦であっても貞彦と暁美で、想代子を見る目に違いが出てくるところが興味深い。貞彦には寛容な処がありますし、暁美は全てを疑うという風。 想代子が店の手伝いに出るようになり、やがて和服姿となり、若女将として周囲から評価されるようになる等々、新たな変化の全てが、まるで想代子が巧妙に企んだことのように見えてきます。 真実はどうなのか。その辺りが実にスリリング。 その一方で、土岐屋吉平の主である貞彦には、再開発・大型商業ビル計画という難問ものしかかってきます。 それらに、所有ビルの上階で商売する暁美の姉=東子と、その髪結い亭主である辰也も、当然の如く絡んできます。 想代子という女性が何を、どう考えて行動しているのかは、一切不明、語られることはありません。だからこそ、想代子に対する疑念は終始消えることがありません。 彼女は強かな悪女なのか、それとも純朴な女性に過ぎないのか。 その後の顛末、想代子という女性の本性、彼女が手に入れたものは、最後、一気に明らかにされます。 そこに本ストーリィの読み応えが結集されていると言って間違いではありません。 是非、お楽しみに! |