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12.おしまいのデート 14.あと少し、もう少し 15.春、戻る 16.君が夏を走らせる 17.ファミリーデイズ 18.そして、バトンは渡された 19.傑作はまだ 20.夜明けのすべて |
【作家歴】、卵の緒、図書館の神様、天国はまだ遠く、幸福な食卓、優しい音楽、強運の持ち主、温室デイズ、見えない誰かと、ありがとうさようなら、戸村飯店青春100連発 |
その扉をたたく音、夏の体温、掬えば手に、私たちの世代は、そんなときは書店にどうぞ |
●「僕の明日を照らして」● ★★ |
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2014年02月
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瀬尾作品にしてはちょっとシリアスなストーリィ。 中学2年の隼太。父親を幼い時に亡くし、夕方5時から夜中の3時までスナック勤めの母親とずっと2人暮らしだった。 この隼太という主人公のキャラクターに、ぐいっと胸を鷲づかみにされたような気分です。 周りの自分を見る目と、自分の思いとのズレ。それでも彼はやはり強い。 |
●「おしまいのデート」● ★★☆ |
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2014年05月
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風変わりな組み合わせのデートを描いた5篇という短篇集。 さて、各篇デートの組み合わせは、というと、 小説の物語というと、それだけで完結してしまって、事前・事後の物語は無いように感じられるものなのですが、本短篇集の場合、それがくっきりと存在するのです。 なお、5篇中私が特に好きなのは次の2篇。 おしまいのデート/ランクアップ丼/ファーストラブ/ドッグシェア/デートまでの道のり |
●「僕らのごはんは明日で待ってる」● ★★☆ |
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2016年02月
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兄が死んで以来一人でたそがれて、クラスから浮いている葉山。 何はともあれ、2人の間で交わされる、淡々としているけれどもどこかピントがズレているような、軽妙な会話劇が楽しい。 ユーモラスで健やかな味わい+シリアスな内容。瀬尾作品としては一段昇った、という印象です。お薦め。 米袋が明日を開く/水をためれば何かがわかる/僕が破れるいくつかのこと/僕らのごはんは明日で待ってる |
14. | |
●「あと少し、もう少し」● ★★☆ |
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2015年04月
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中学生の駅伝を題材にした清新な中学生&スポーツ小説。 山深い場所にある市野中学校、全校生徒 150人余という小さな学校ながら、男子駅伝チームは毎年県大会への出場を続けてきた。 プロローグ「0」の後は「1区」〜「6区」と、各区間の走者を第一人称の主人公に据えた構成。駅伝チーム結成前後から大会まで各人の視点から描いているのですが、このストーリィ構成が抜群に良い。 喧々諤々、レース開始までにはぶつかり合うことも多々ありましたが、本番レースでは各人が懸命な思いで襷を次の走者に繋いでいく。 ※もし未読でしたらこちらもお薦めです(大学生による箱根駅伝)。 |
15. | |
「春、戻る」 ★★☆ |
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2017年02月
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主人公は望月さくら、36歳。間もなく結婚する予定で、既に勤めていた会社は退職、料理教室に通ったり、結婚相手の和菓子屋に手伝いに行ったりして日々を過ごしている状況。 何故、年下なのに兄なのか。いや、そもそも兄って何で?とさくらは青年を警戒しますが、そんなさくらの不審な目も何のその、お兄さんは遠慮なくさくらの身近に接してきます。 SF?とも思ってしまいますが、いやいや瀬尾まいこさんがそんなストーリィを書く筈もなく、何だろうなぁと謎は最後まで持ち越されます。 さくらと山田さん、お互い年齢も年齢だし頃合いだし、結婚式もとくに挙げる必要はないという考えでしたが、お兄さんの様々なお節介が次第に2人の心情にも影響を与えていきます。 |
「君が夏を走らせる」 ★★☆ |
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2020年07月
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高校にろくに通わず派手な格好してふらふら、金髪にピアス穴2つという高校生の大田。 お前しか当てがないんだと中武先輩とその奥さんから強引に頼まれ、その1歳10ヶ月の幼児である鈴香の世話を、夏休みの1ヶ月引き受けることになります。 奥さんが切迫流産で出産までの一ヶ月間入院することになった、託児所などには心配で預けられない、駆け落ち同然に結婚したため絶縁状態にあり、親には頼れないというのがその事情。 いやいやちょっと待って、ほとんど赤ん坊ですよ、こっちは落ちこぼれの16歳の男子高校生ですよ、かえって心配じゃないの? 無理ですよ無理と、主人公の大田だけでなく、たかが読者の私でさえ慌てるし、心配になってしまいます。 懸命の辞退むなしく、大田は先輩が帰宅するまでの日中、鈴香の世話を引き受けることになります。 当然ながら、スムーズに進む訳がありません。大田、鈴香に手を焼き全くのお手上げ状態。 それでの日が進むうち、いつしか鈴香は大田に懐くようになり、大田もまた鈴香をとても可愛いなぁと思うようになります。 稀な体験をした大田のひと夏ストーリィというより、高校生と幼児という違いはあるももの、大田と鈴香が一緒に成長していくストーリィと言うべきでしょう。 鈴香のための食事作り、鈴香と一緒の外遊び、公園での育児中ママたちとの交流等々。 大田と鈴香、稀に良くできた大切な“相棒”という間柄、と言って良いと思います。 ストーリィ中、この2人の姿がなんと愛しいことか! そして、鈴香が大田に掛ける「ばんばって!」という言葉、きっと彼にとっては宝物のような思い出になるに違いありません。 主人公の大田、「あと少し、もう少し」で中学の駅伝選手になった大田くんだったとは! なお、大田くんの物語、どうもこの後も続きがありそうな気配を感じます。おちこぼれ高校生の成長ストーリィ、楽しみでない訳がありません。 お願いです、瀬尾さん、是非この続きを! |
「ファミリーデイズ」 ★★ |
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2019年10月
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中学校教師を退職し、結婚して主婦となり、予想外の子供に恵まれたという瀬尾さんによる、呑気なご主人とやんちゃな娘との暮らしぶりを描いた家族&育児エッセイ。 とくに何を意識することもなく読み始めたのですが、ユーモアと温かに包まれた、いかにも瀬尾さんらしい日常エッセイ。小説とは異なる、もうひとつの瀬尾まいこ像を見る思いだったのが冒頭のこと。 ところが次第に本エッセイは、<やんちゃな娘>の育児日記へ表情を変えていくのですが、意外や意外、これが実に楽しい。 見ているだけで、いや読んでいるだけでとても楽しいのです。 とにかくその行動力、表情の豊かさ、一つ一つの物事への反応ぶり等々、生き生きとしたそのやんちゃぶりが、手に取るように伝わってきます。 実は我が娘も同じようなところがあったなぁと、懐かしく思い出しながら頁を繰っていました。 こんなに子育てが忙しかったら、こんなに子育てに喜びを感じられていたら、作品を書くどころではないよなぁと納得。 なお、本作では子育ての喜びが主として描かれていますが、実際には子育てのストレス、そんなストレスに苦しんでいるお母さん方も多くいる筈。 瀬尾さんが語っているように、周囲の人の言葉掛けや助言が貴重だよなぁと感じる次第です。 ※なお娘さん、1歳11ヶ月の頃から幼稚園のプレクラスに入園したとのこと。いろいろ新しい仕組みがあるんですねー。 我が家のメンバー/虹が出たなら/人生の岐路/最強の占い師/女子力発揮/メモリアルデイ/朝の定番/主婦の心得/読めそうで読めない明日に未来/究極の共同生活/対面は突然に/Tomorrow will be more beautiful/眠れ、よい子たち/赤ちゃんはみんなのそっくりさん/押し寄せるイベントたち/今日も大いに拍手/春、戻る/すぐそこには、無数の手/バイバイ、おっぱい/不思議なお気に入り/やんちゃ娘、世にはばかる/おしゃれの道は遠い/芸術の夏、到来/怒涛の注射ラッシュ/アイドル登場/その手はなにを指すのだろう/新しい世界へようこそ/バイバイはいつしか拍手に/保護者一年生/ちびっこ黒猫、登場/赤ちゃんと子どものボーダーライン/最後にやっぱりもう一度/最初の覚えた名前は/必殺 おなかポーン!/お手伝いは控えめに/パラダイスからの逃亡/名残はいまでもあちこちに/ちびっこ先生、活躍の秋/望まない祝福客/明日はいつもすばらしい |
「そして、バトンは渡された」 ★★★ 本屋大賞 | |
2020年09月
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森宮優子、高校3年、17歳。 現在は、優子が「森宮さん」と呼ぶ義父との2人暮らし。 その優子、自分には父親が三人、母親が二人いる、17年間で姓は4回、家族の形態は7回変わった。でも全然不幸ではないのだ、と言います。 普通なら、なんて過酷な生い立ちだろう、どんなに悲しいことかと思う処ですが、この優子に限ってはそんな一般論には当てはまらないのです。 何故かと言えば、父親も母親も、優子の親になった人はいつも優子を大切に、そして心から愛してくれたから。 森宮さんと暮らす高3の優子の日常を描くのと並行して、これまでの優子の17年間が描かれます。 実母の事故死、実父のブラジル転勤、義母となった梨花さんが2度結婚するという目まぐるしい変化ですが、森宮さんと再婚した後に梨花さんが姿を消してしまい、現在に至るという次第。 なんといい加減な女性かと思う処ですが、どうも梨花さん、優子のためにどんな父親が必要か、という観点から再婚していたようなのです。 父親が三人、母親が二人「いた」ではなく、優子は「いる」と語ります。それぞれの親たちが示した愛情を感じ取り、今も繋がっているという確信があるから言えることなのではないか。 血の繋がった親なら、生まれた時から一緒に暮らしている親ならごく当たり前のことが、実の親子ではないからこそ、皆優子のために一生懸命になり、それだけ強い愛情も注いでくれたのでしょう。 その果てである、東大出身と優秀だが、どこかズレたところのある森宮さんとの親子生活はというと、2人がきちんとお互いに向かい合っていると感じられ、楽しくもあり、また心がじ〜んと温まってくるようです。 そんな2人のやり取りは楽しく、その日々はとても愛おしい。 最後は7年後、これは森宮さんの視点から描かれます。 そして、優子が気づくことのなかった、4人の親たちの深い愛情が明らかになります。如何にも晴れ舞台に相応しい、感動ストーリィ。 森宮優子、驚くような半生ですが、何と幸せな女の子だったことでしょうか。 本作は、デビュー作「卵の緒」の延長上にある作品と言って良いでしょう。愛情に満ちて温かく、そしてとても気持ちが良い。 そうした所為か何となく、瀬尾さんのこれまでの作品を読み返したくなるような気持ちにさせられます。 是非、お薦め! ※親が数多く登場するという作品として、伊坂幸太郎「オー!ファーザー」がありますが、こちらは全く趣向の異なる作品。 |
※映画化 → 「そして、バトンは渡された」
「傑作はまだ」 ★★☆ | |
2022年05月
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生まれてから写真だけで、25年間一度も会うことのなかった息子=永原智(とも)がいきなり訪ねてきたうえ主人公を“おっさん”呼ばわりし、バイト先が近くになったのでしばらく一緒に住まわせてくれと言い放ってきます。 何とシュールなストーリィの始まりであることか。 主人公だけでなく、読み手もつい一緒に呆然としてしまう。 これはいつもの瀬尾作品とかなり違う、と戸惑いと驚きを感じたものの、読み終える頃には、あぁ好きだなぁこの作品、と思いました。 この健やかさ、温かさ、嬉しさ。こんな都合よくいく訳ないという批判が飛んできそうですが、いいじゃないですか、こうしたことが起きることもあるのだと思うだけで、幸せな気分です。 今や50歳の主人公、大学最終学年の時応募した小説で新人賞を受賞して、気が付いてみれば作家になっていた。その後は一軒家に殆ど引きこもっているような執筆生活。 息子がいるといっても結婚していた訳でなく、相手は恋人であった訳でもなく、それでも毎月養育費を払い続け、相手からはその都度智の写真が送られてきた、というだけの関係。 いったいどう初めて会う息子に向き合えばいいのか、と困惑するうち、その智のペースにより殆ど家に引きこもり状態だった主人公の殻がどんどん破られていきます。 さて、父子の関係はそこからどんな風に展開していくのか? 主人公の小説家、余りの世間知らずぶりは笑える程。そこをこじ開けていくのが25歳下の息子なのですから、親子の役割が逆転しているようなところが本作の楽しさ。 しかし、その息子が再び主人公の元から去っていく時・・・・。 最後は、立て続けに隠されていた事実が披露されていき、全く嬉しい驚きばかり。 人と関わることがこんなにも幸せなことだったのか、と新鮮に感じる程です。 智、美月、森川夫婦、主人公の両親・・・主人公がボケッとしていただけで実は、とても幸せな境遇だったのだゾ。 瀬尾さんの新たな魅力がそこにあるようで、好きだなぁ瀬尾作品はやはり。 是非、お薦め! |
「夜明けのすべて」 ★★☆ | |
2023年09月
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PMS(月経前症候群)のため入社したばかりの会社を退職、3年前から社員6人の小さな会社=栗田金属に勤めている藤沢美紗・28歳。 突然にパニック障害を発症し、やはり入社したばかりの会社を退職せざるを得ず、栗田金属に転職した山添孝俊・25歳。 心因性の病気はさぞ辛いだろうなぁと思います。身体的障害と異なり傍から見て分り難いですし、いちいち説明することもできませんし。 そんな障害を持つ2人を同時に受け入れているのですから、この栗田金属の社長と社員たちの包容力は凄い。 収益至上主義、効率経営、能力主義、という昨今の企業経営から対極にあるのがこの栗田金属。 社員といっても上記2人を除けば年配者ばかり。それ故の余裕かと思いきや、過去の反省がそこにはあるようです。 それぞれへ不信感を持っていた2人ですが、お互いに心因性の障害を抱えていると分かってからの展開に仰天、というか噴飯もの的に面白い。 相手がどう考えるかなどお構いなしに突っ走る藤沢、それに押しまくられる山添。でもそこに笑いが起きれば、まずは万々歳と言うべきなのでしょう。 自分の症状を気にせず、相手への気遣いなしに会話ができたら、どんなに楽なことでしょう。 藤沢、山添、この2人のやりとりがとても愉快。また、その2人を見守る年配者の同僚たちの優しく、温かな視線がとても素敵です。 競争社会より、弱者に対しても温かい眼差しを向けられる社会こそ、これから求められるべき姿だよね、と感じさせられます。 なお本作、瀬尾さん自身が2年前にパニック障害を発症した経験がきっかけになっているとのことです。 お薦め。 |
※映画化 → 「夜明けのすべて」
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