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31.しらゆきの果て 32.梧桐に眠る |
【作家歴】、京都はんなり暮し、孤鷹の天、満つる月の如し、日輪の賦、ふたり女房、夢も定かに、関越えの夜、泣くな道真、若冲、与楽の飯 |
師走の扶持、秋萩の散る、腐れ梅、火定、龍華記、落花、月人壮士、名残の花、稚児桜、駆け入りの寺 |
星落ちてなお、輝山、漆花ひとつ、恋ふらむ鳥は、吼えろ道真、天神さんが晴れなら、月ぞ流るる、のち更に咲く、赫夜(かぐよ)、孤城春たり |
「しらゆきの果て」 ★★ | |
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沢田瞳子さんにおいては数少ない、歴史短篇集。 各篇を通して、絵画、美がモチーフとなっています。 ファンとしては、長編の読み応えも魅力ですが、時にはこうした短篇集も嬉しいものです。 おまけにモチーフは共通するといっても、各篇の時代設定、趣向ともかなり多彩とあって、それぞれに楽しめました。 ・中でも私が一番面白かったのは「輝ける絵巻」。 後水尾上皇の時代、左近中将である四辻季賢は、知り合いとなった市井の老人=宗蓮が源氏物語の新しい絵巻を作ると言い出したことを座視できず、振り回されることに。 この篇、複層の仕掛けがあって面白い。源氏物語の絵巻ということ自体に興味を惹きつけられざる得ませんし、私としては数々の小説の中で描かれる東福門院和子という女性が好きなので。 ・「さくり姫」:舞台は頼朝時代、さくり姫とは頼朝の妹=有子のこと。そして主人公は、累代絵仏師の家の三男=詫磨為久。自信の無さから言い訳ばかり、逃げてばかり・・・。 ・「紅牡丹」:松永弾正久秀の人質となった苗姫、育った城から携えた牡丹ですが、一向に花を咲かせず。その謎は・・・。 ・「しらゆきの果て」:江戸時代の浮世絵師、喜三治が主人公。その師である宮川長春は有名になってもなお恩ある師の子たちに義理を欠かさない篤実な人物。それなのに・・・。 唯一の市井ものですが、その結末については微妙な思い。 ・「烏羽玉の眸」:幕末もの。勅命を受けて僧からあっさり還俗し神職に転身した亮珍が行ったことは・・・。 廃仏棄釈という流れの凄まじさを感じさせられます。 さくり姫/紅牡丹/輝ける絵巻/しらゆきの果て/烏羽玉の眸 |
「梧桐(あおぎり)に眠る」 ★★☆ | |
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8世紀の奈良、聖武天皇の時代が舞台。 唐に留学し17年を経て日本に帰国する僧の玄昉と、下道真備。 その玄昉に半ば騙されるようにして日本に連れて来られたのが、唐で下級役人の息子に過ぎない袁晋卿(えんしんけい)。 ところが日本に着いた途端、二人から放り出され、言葉も通じぬ日本で晋卿は途方に暮れてしまう。 とりあえず役所から住む邸を与えられ、漢語の通じる母子を奉公人として付けられたものの、この先どう身を処せばよいのか、そしてまた、どうしたら唐に帰れるのか。 そんな晋卿が出会ったのは、親も住む処もない浮浪児たち。奪われた荷の中にあった書類「位記」を翌日、狭虫(さむし)という少女が返しに来たことをきっかけに、自分と似た境遇である狭虫のことに晋卿は無関心でいられなくなります。 主人公の袁晋卿、身分がある訳でも特殊技能に長けている訳でもなく、何故日本に連れて来られたのか、訳が分からない。 それもあって、どういう物語になるのか、読者にとって皆目分からないままストーリーは進みます。それは晋卿自身が見る景色と同じなのでしょう。 それでも疑問は謎として残り、そこに何か深い理由がある筈と晋卿の身辺を窺う人物たちも登場し、その辺りはミステリ風。 でも晋卿に限れば、ドタバタ劇という印象も受けます。 その一方では、晋卿が寄寓した邸の嫡男である藤原広嗣を軸に、当時の宮廷の勢力図が繰り広げられ、興味は尽きません。 紆余曲折を得ての終盤に至り、ようやく本ストーリーの意図が分かってきます。 晋卿、狭虫、日本人と唐人の混血児である志邑、そして広嗣邸で侍女勤めをしていた千里、彼らが見つけた景色は・・・。 人は与えられた場所で生きるしかない、それでも自分で選び、誰かの役に立つことができることほど、幸せなことはないのでしょう。 読後感はすこぶる爽快です。 お薦め。 1.異郷/2.邂逅/3.火宅/4.夜鳥(よどり)/5.夏雨(かう)/6.潮騒 |
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