坂崎かおる作品のページ


1984東京都生。2020年「リモート」で第1回かぐやSFコンテスト審査員特別賞、25年「箱庭クロニクル」にて第46回吉川英治文学新人賞を受賞。


1.嘘つき姫 

2.海岸通り 

3.箱庭クロニクル 

 


                    

1.
「嘘つき姫 ★★☆


嘘つき姫

2024年03月
河出書房新社

(1700円+税)



2024/05/05



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内容も作者も何も知らないまま、書店で目にする度、何となく惹きつけられるものを感じてずっと気になっていた一冊です。
幸いにして読む機会が得られたので迷わず手を伸ばした次第。

いやはや、何と多彩な趣向の作品集であることか。
これはもう、是非読んでおくべきでしょう。
収録作品は皆、短篇、掌篇といったものですから、舞台設定が十分に説明されていない処もあるし、結末がはっきりしないままという篇もあるのですが、だからこそ瞬間的な魔法を見せられているようであり、魅せられ、また惹きつけられます。
魅力というより、魔力と言った方が良いのかもしれません。
 
「ニューヨークの魔女」:奇想かつ窺い知れない奥行きがありますが、面白い! 冒頭作には恰好の篇。
「ファーサイド」:Dたちの存在に妙に惹かれます。“月の裏側”というイメージが忘れ難い。
「リトル・アーカイブス」:戦闘用補助ロボットを巡るストーリー。成程なぁ・・・。

「リモート」:ふと石持浅海「フライ・バイ・ワイヤを思い出したのですが、結末に滑稽さと謎を遺したのがお見事。

「私のつまと、私のはは」:“疑似育児キット”という題材が素晴らしい。スイッチオフの方法には絶句。結末には強烈な皮肉を感じさせるユーモアあり。
「あーちゃんはかわいそうでかわいい」:二人の少女の関係が微妙な変化していく様を描く手管が秀逸!
「電信柱」:電信柱に恋? お見事!の一言に尽きます。

「嘘つき姫」:表題作。戦時中、二人の少女の出会いから始まる、長い年月にわたるストーリー。果たして二人は敵対したのか、それとも心底で通じ合っていたのか。嘘もまた真実に通じる?と感じさせられます。

「日出子の爪」:異色だがあっさりとした篇。きれいに本作品集の幕を閉じているという印象です。

・ニューヨークの魔女
・ファーサイド
・・・日本SF作家クラブ賞
・リトル・アーカイブス
・リモート
・・・・・第1回かぐやSFコンテスト審査員特別賞
・私のつまと、私のはは
・あーちゃんはかわいそうでかあいい
・電信柱より
・・・・第3回百合文芸小説コンテスト、SFマガジン賞
・嘘つき姫
・・・・・第4回百合文芸小説コンテスト大賞
・日出子の爪

             

2.
「海岸通り ★★


海岸通り

2024年07月
文藝春秋

(1400円+税)



2024/07/31



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前作嘘つき姫がかなり刺激的な短篇集でしたので、本作の乖離に驚きました。
坂崎さん、こうした趣向の引き出しもあるのだな、と。

本ストーリーの主要人物は、海に近い場所にある老人ホーム<雲母園>で出会った4人の女性。
主人公は
クズミ(久住)、派遣の清掃員として働いており、掃除能力は高い。でも生活はかつかつ。
元同僚となった
神崎は気の良い女性だが、掃除はかなり雑。
神崎の代わりに雇われたのが、日本人と結婚して来日したウガンダ人の
マリア
そして、ニセモノのバス停で、毎日来るはずのないバスを待っている、入居者の
サトウさん

ストーリーは、主人公とマリアさんの出会い、交流、仲間意識を抱くという展開が主として描かれます。

主人公と神崎さんの性格は対照的。では、主人公とマリアさんの関係はどうかというと、当初は遠く感じられたその関係が、あることがきっかけとなって欠かせない仲間へと変化していきます。
しかし、そんな二人の関係は突然に断たれます。
 
是非はともかくとして、二人ともそれなりに生き方を貫いている、ただ漠然と生きている訳ではないということが感じられるところが、印象深く、心に残ります。

             

3.
「箱庭クロニクル HAKONIWA Chronicle ★★     吉川英治文学新人賞


箱庭クロニクル

2024年11月
講談社

(1900円+税)



2024/12/15



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何とも言えない味わい、何故か魅了される短篇集、5篇。

本当に何と伝えれば良いのか、私の文章力では手に余ります。
これは現実社会をベースにしたものなのか、それとも仮想世界をベースにしたストーリーなのか、何とも判然とせず。
そして主人公の行動は、これは裏切りなのか、反逆、それとも単なるすれ違い、勘違いに過ぎなかったのか。この顛末をどう理解するのが適切なのでしょうか。
どうとも言えず、という処なのですが、それでも何故か惹きつけられる魅力を感じる短篇集。

「ベルを鳴らして」:戦前、邦文タイピストの学校から始まる長いストーリー。
「イン・ザ・ヘブン」:学校に対する禁書運動に熱中する母親と、それに反抗する娘。
「名前をつけてやる」:とらえどころのない後輩社員とのやりとりに奮闘する先輩社員。
「あしながおばさん」:飲食店の学生バイトへ親しみを感じてしまった水道検針員をしている中年女性の顛末。
「あたたかくもやわらかくもないそれ」:ゾンビ病に感染した友人を見捨てた悔いを抱える主人公が出会ったのは・・・。
「渦とコリオリ」:死んだ姉に今も囚われる女性・・・。

ベルを鳴らして/イン・ザ・ヘブン/名前をつけてやる/あしながおばさん/あたたかくもやわらかくもないそれ/渦とコリオリ

         


   

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