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1.工場 2.穴 3.庭 4.小島 5.最近 6.ものごころ |
「工 場」 ★★ 新潮新人賞・織田作之助賞 | |
2018年09月
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表題作「工場」は、巨大な工場で契約社員、正社員、派遣社員という立場で働き始めた3人を主人公にした作品。 「ディスカス忌」はさらりと読み終わってしまう小篇ですが、理由のはっきり判らない不気味さ・・・あり。 「いこぼれのむし」は、会社内、女子社員たちのワイワイガヤガヤとしてお喋りを描いた篇。そこでは誰もが陰口から逃れられないし、その輪の一員といえども姿がなければ的となることを避けられない。 工場/ディスカス忌/いこぼれのむし |
「 穴 」 ★★☆ 芥川賞 | |
2016年08月
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夫が転勤となり、主人公の松浦あさひはパート先を辞め、通勤に都合が良い夫の実家が隣に持っている借家に引っ越す。周りには何もないため、差し当たり専業主婦。これまではパート先で残業が常習化していて忙しい思いをしていただけに、何をしていいのか判らずあさひは少々困惑気味。隣に住む姑は仕事を持った女性でさばさばした人柄であり付き合い易い。 獣、穴、さらに○○と、思いもよらぬ不思議な存在を主人公はこの土地で目にします。それは現実なのか、それとも幻想なのか。 「いたちなく」「ゆきの宿」2篇は、連作もの。 穴/いたちなく/ゆきの宿 |
「 庭 」 ★★ | |
2021年01月
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庭等々から、様々な生き物たちがストーリィ中に顔を覗かせる、日常生活の中にふと非日常の姿が、という短篇集、15篇。 最初、不気味さも感じて内田百「冥途」のような作品集かと思ったのですが、不気味な印象はすぐ影を潜め、むしろカラッと乾いた印象を受けます。 庭から不思議な生き物というと梨木香歩「家守綺譚」を連想しますが、そんな不思議な世界との境界を描くような作品ではない。 ごく日常的な生活の中に、ふと非日常といった光景が触れ合う、そんなストーリィと言って良いのではないかと思います。 彼岸花やどじょう、クモ、おたまじゃくしやカエル、といった生き物は特にどうこういうような生き物ではありませんが、扱い方によっては不気味ともなる、そんな趣向でしょうか。 ストーリィから何か意味をくみ取ろうと、頭をひねる必要はないのでしょう。 ちょっと不気味でちょっと不思議な雰囲気を味わえられたのならそれだけでいい、と思います。 15篇の中で私の印象に残ったのは、「うらぎゅう」「彼岸花」「うかつ」「どじょう」「蟹」「家グモ」といったところ。 うらぎゅう/彼岸花/延長/動物園の迷子/うかつ/叔母を訪ねる/どじょう/庭声/名犬/広い庭/予報/世話/蟹/緑菓子/家グモ |
「小 島」 ★★ | |
2023年11月
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様々な日常の生活を描いた作品集。 最初の方は丹念に読んでいたのですが、次第に読むのがしんどくなりました。なにしろ一頁の中に文字がぎっしり、そのうえ大きなドラマがある訳ではないので。 その節目となったのが、中編「かたわら」。 各篇主人公たちの日常生活を綴った作品ですから、どういったストーリィなのか、それを説明するのは難しいところです。 それでも、何となく読まされてしまう処が、本作品集の力と言って良いのでしょう。 特筆したいのは、どの篇にも人間以外の生き物が登場し、強い印象を残しているところ。 バッタやカエルだったり(「小島」)、ヒヨドリ(「ヒヨドリ」)だったり、ネコ、イヌ、さらに植物まで。 地球上の生物は人間だけではないのですから、そうした生き物が小説の中に登場しても何ら不思議はないのですが、人間以外の生き物もまた確かに存在しているのだと感じさせる作品は珍しい、と思います。 ちょっと不気味で、奇妙なオカシサを感じる処もあり。 なお、「異郷」「継承」「点点」は、プロ野球の広島東洋カープ絡みのストーリィ。この3篇に辿り着くころには、正直なところもう疲れ果てていました。 小島/ヒヨドリ/ねこねこ/けば/土手の実/おおかみいぬ/園の花/卵男/子猿/かたわら/異郷/継承/点点/はるのめ |
「最 近」 ★★ | |
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著者曰く「本当に平凡で当たり前の人の 本当に平凡で当たり前の日常」を描いた連作長編。 読み始めた当初、うわっ読みにくいな、と思ったのは、改行が余りにも少ないため。そのため、時間や人物の変動が分かりにくく苦労させられました。 しかし、それは最初だけ。そうしたものだと理解してしまえば、特に読む上での支障とはなりませんでした。 描かれる「日常」の中身は本当に細かい。これほどひとつひとつの時間を密に描いた小説は他にないのでは、と思うくらい。 そしてその日常に、格別なドラマが設けられている訳ではありません。誰にあっても不思議ないような、本当に日常的なことばかり。 ですから、もしストーリーの流れがつかみ切れなかったり、乗れなかったりしたら、適当に読み流して良いと思います。 そうして読み終えた後になって本作を振り返ると、じわじわとその良さ、温もりがこみあげて繰るのですから、面白い。本作の、魔法のような魅力です。 ストーリーは、ある家族を中心としたもの。最初の方では名前がはっきりわからなかったのが、章毎に名前がはっきりしていくという仕掛けが面白い。まるで謎解きのようです。 最終篇「えらびて」では、すべての人物の名前がはっきるするのではと思っていたら、別の家族の話となり、期待を削がれてしまったところもまた面白き哉。 7篇中、「遭遇」「ミッキーダンス」が楽しいものでした。 ・「赤い猫」:聡明の妻。心臓が変と夫が言い出し、深夜に救急車で病院へ。人気のない病院で思い出したのは・・・。 ・「森の家」:聡明の妻の弟=登、はとこのタケフミさんと呑むことに。 ・「カレーの日」:聡明。昔通ったカレー屋が閉店間近と知り久しぶりに食べに行くと、そこで出会ったのは・・・。 ・「おおばあちゃん」:聡明の妻。大伯母の見舞いに聡明と一緒に赴く。 ・「遭遇」:登、タケフミさんのセッティングで、タケフミ知り合いの女性と3人での町中華へ。 ・「ミッキーダンス」:聡明。妻の大伯母の49日に列席した帰りに寄った道の駅で遭遇したのは・・・。 ・「えらびて」:ある祭りの夜。小四の娘と夫婦が味わった出来事は・・・。 赤い猫/森の家/カレーの日/おおばあちゃん/遭遇/ミッキーダンス/えらびて |
「ものごころ」 ★☆ | |
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出版社紹介文では、「植物や花、虫やさまざまな生き物が乱舞する、色鮮やかで心躍る子供の世界へ」ということだったので、割と気楽に読み始めてしまったのですが、う〜ん、私の印象はかなり異なるなぁ。 たしかに植物、花、虫等は登場してくるものの、私の中では無色だったと言うか。 これはひとえに私の感受性が低いせいか、あるいは読み急ぎじっくり読んでいなかったからか。 殆どの篇で、文章の改行がない、というのは前作同様。 それでも前作ではあまり気にならなかったのですが、本書では苦労してしまった、詠み辛かった、というのが正直な処。 大人の部分と子どもの部分の切れ目がはっきり分かたれていなかったのも、原因だったかも。 なお、「心臓」と「ものごころころ」は少年二人の心うちが分かり易く、犬の描き方も巧妙で、面白かったです。 また、「種」での展開には、仰天。 ・「はね」:中一の少年、従兄と結婚したばかりのホナミさんとヤゴの孵化を見守ることに。 ・「心臓」:小五、幼なじみのエイジと宏、怪我した野良犬を捕え救おうとしますが。 ・「おおしめり」:公園、雨。最初から最後まで、たった一つの文章で語られます。 ・「絵画教室」:小学生の頃通った絵画教室のことを思い出す。一方、母が持ってきてくれたアジサイの扱いがわからず・・・。 ・「海へ」:コロナ渦中、家族三人で海水浴場手前の浜辺に。そこで見たものは・・・。 ・「種」:娘のサク、スモモの種を呑み込んでしまう。自然排出される筈というが・・・。 ・「ヌートリア過ぎて」:中学・大学で一緒だった友人と五年ぶりに再会。おっと、途中で主人公が入れ替わり・・・。 ・「蛍光」:ココちゃん母から、娘の利穂も一緒にホタルを見に行かないか、との誘い。 ・「ものごころころ」:「心臓」の続き。 はね/心臓/おおしめり/絵画教室/海へ/種/ヌートリア過ぎて/蛍光/ものごころごろ |