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1.完璧じゃない、あたしたち 2.ババヤガの夜 3.君の六月は凍る 4.他人屋のゆうれい |
「完璧じゃない、あたしたち」 ★☆ We are not perfect. We are perfect,aren't we? |
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2019年12月
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ポプラ社のWEBマガジンに連載された14作品に、書下ろし作品を加えての計23篇からなる掌篇集。 内容はというと、いずれも女性が主役。 女性同士が関わり合う様々な姿、女性と女性による本音トーク等々、小気味良く描かれた23篇。 どの篇も、いろいろスパイスが効いた作品ばかりですから、それなりにたっぷりと、面白く読みました。 その中でも特に面白かったのは、「ばばあ日傘」と「あなたのこと考えると無駄になる」という2篇。共に、描かれたストーリィだけに収まらない広がりを持っていると感じた故です。 他の作品よりちょっと印象に残ったのは、「北口の女」、「十本目の生娘」、「イエローチェリー・ブロッサム」、「ヤリマン名人伝」という辺りでしょうか。 また、唯一のSF宇宙ものである「姉妹たちの庭」の冒険内容には興味惹かれるなぁ。 唯一の戯曲作品である「戯曲 グロい十人の女」はリアルな滅茶苦茶さに、思わず仰け反る思い。そして「夢で見た味」は、余りに不気味過ぎるぅ〜〜。 小桜妙子をどう呼べばいい/友人スワンプシング/ばばあ日傘/Same Sex,Different Day./北口の女(ひと)/しずか・シグナル・シルエット/姉妹たちの庭/十本目の生娘/だからその速度は/陸のない海/春江のトップギア/イエローチェリー・ブロッサム/腹の町(落語 頭山より)/あなたのこと考えると無駄になる/ときめきと私の肺を/戯曲 グロい十人の女/夢で見た味/ヤリマン名人伝/シオンと話せば/カナちゃんは足が無い/ファー・アウェイ/東京の二十三時にアンナは/タイム・アフター・タイム |
「ババヤガの夜」 ★★ | |
2023年05月
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暴力団相手に闘い、相互に暴力が炸裂するストーリィ。 主人公は新道依子、22歳。北海道で幼い頃から祖父に武術、というよりケンカの仕方を徹底的に仕込まれていた女性。 通りすがりにちょっかいを出してきたチンピラを叩きのめした依子は、暴力団からケンカの強さに目を付けられ、拉致されてしまう。 奴らの目的は、暴力団会長である内樹の一人娘、女子高生である尚子のボディガードを依子に勤めさせようというもの。 なお、尚子の母親は、内樹が可愛がっていた若頭と共に逃げ出し、内樹は10年間もその行方を追っているらしい。 それ故に婚約者と結婚す前にムシがつかないように見張り役を付ける、ということらしい。 お嬢様育ちの尚子と、暴力に興奮する性質の依子。対照的な互いに本音を語り合うようになったとき、何が起きるのか・・・。 一方、目立たぬように暮らしている正と芳子は、ずっと長く逃走生活を送ってきているらしい。ところが、ある事故に巻き込まれて顔が知れてしまい・・・。 とにかく格闘シーン、暴力シーンが目立ちますが、ついつい興奮させられてしまう処が、本作のミソでしょう。 まさに暴力が炸裂し尽くすストーリィと言って過言ではありません。 最後は、あっと驚かされる展開へ。 弱々しかった尚子が、意外や意外の変貌を遂げている姿が、読み処と思います。 ※題名の「ババヤガ」とは、鬼婆のこと。 |
「君の六月は凍る」 ★★ | |
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君の六月は凍った、という変わった出だしで始まる表題作。 最後に君を見たのは30年前、共に生まれ育った、何もない町での出来事が語られていきます。 固有名詞だけでなく、性別も一切記されないまま、飼い犬はJ、年上のきょうだいはB、君のきょうだいはZと呼ばれます。 共に学校では孤立した存在、わたしと君は仲良くなっていきますが、私が君に寄せる気持ちと、君が私に感じる気持ちには差があったのか・・・。 恋情、そして離反・・・そして忘れ難い思い出、そこに叙情を感じます。 昔どこかで似たような叙情を味わったことがある、と思い出したのは、ツルゲーネフ「はつ恋」。 時代も変われば設定も違いますから、比べることはできないのでしょうけれど、両者には似た叙情を感じます。 「ベイビー、イッツ・お東京さま」の主人公は、駐車場警備員の仕事で食いつないでいる28歳の女性、大滝喜楽理。 ろくな着替え場所も用意されず、それでいて身体に触られたり痴漢被害にあったにも関わらずこの仕事にしがみついているのは、他に採用された仕事がなかったため。 東京という都会で、頼る人のない孤独、貧困、不当な扱いを受け続ける彼女の寂しさが、胸に凍み込んで切るような気がします。 君の六月は凍る/ベイビー、イッツ・お東京さま |
「他人屋のゆうれい」 ★★ | |
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王谷晶作品としては、割とユーモラス。 さて、「他人屋」とは、そして「ゆうれい」とは何ぞや? 東京に出て派遣社員暮らしの南大夢(ひろむ)。 兄からの電話で、殆ど会うこともなかったおじさん=小野寺春夫の急死(クモ膜下出血)を知らされると共に、同じ東京だからと借りてた部屋の片付けに行くよう指示されます。 そこでその部屋に赴いたところ、ドアには「他人屋」という看板が。そして、とても一人で片づける状況ではないと判明。 そこに来た大家の女性から、撤去費用額を提示されて脅され、結果として大夢はその部屋に引っ越してくることになります。 住み始めてから見つけた春夫おじさんの「日誌」には、<ゆうれい>が度々訪れてくるような記載あり。 そして風邪を引いてベッドに潜りこんだ時、その足元に黒い人影が・・・それは本当に幽霊なのか。 その幽霊、足があるだけでなく、腹も空かせるし、トイレも利用している様子。いったい幽霊の正体は? 向かいの部屋は、<BOOKS 小石>という書店を経営している小石川という男性、そしていきなり「他人屋!助けてくれ」と飛び込んでくる常連客?たち。 何となくユーモラスな展開ですが、幽霊の存在を除けばのこと。 そしてその幽霊の真相はというと・・・途轍もなく切ない。 ユーモアと切なさ(春夫おじさん&幽霊)を両立させている点が読み処です。 中身は実のところとても切ないのですが、大夢と幽霊のやりとりは面白い限り。 なお結末、こうした処で良いのではないかな、そう思います。 1.小さい夢/2.メゾン・ド・ミル/3.404号室/4.幽霊の手紙/5.謎と生活/6.見えないもの/7.他人屋とゆうれい/8.エピローグ |