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21.サイレントシンガー |
【作家歴】、博士の愛した数式、ブラフマンの埋葬、ミーナの行進、海、博士の本棚、科学の扉をノックする、猫を抱いて象と泳ぐ、原稿零枚日記、妄想気分、人質の朗読会 |
最果てアーケード、ことり、いつも彼らはどこかに、琥珀のまたたき、不時着する流星たち、口笛の上手な白雪姫、あとは切手を一枚貼るだけ、小箱、掌に眠る舞台 |
「サイレントシンガー Silent Singer」 ★★ | |
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小川洋子作品を読むのは久しぶり。 本作で描かれるのは、これまた独特の世界です。 主人公であるリリカの母親は、彼女を産んですぐ自殺。 乳飲み子を抱えた祖母は、内気な人々が集まって暮らす<アカシアの野辺>に雑用係兼外部との連絡役として雇われ、リリカはその門番小屋で育っていきます。 野辺の会員たちは言葉を口にせず、簡単な指言葉でコミュニケーションをとるのが常。 したがって、祖母とリリカが暮らすのは、静かな世界です。 いつしかリリカは歌を覚えますが、その歌声は決して人の邪魔にならず、静かに流れていく。 祖母が死去した後、その仕事を当然のように継承したリリカですが、その結果外部の人間と接するようになり、またボイスレッスンの先生から様々な歌の仕事を依頼されるようになります。さてその結果は・・・。 音になる、ならないに関わらず、様々な音や、暴言、TVのお笑い、SNS等々、喧騒に満ちている現代社会と比較して、リリカたちが暮らす世界の静かさは、何と心地良く、安らかであることか。 静けさと歌声、それら故の優しさ、情感をしみじみと感じる作品です。 お薦めしたい佳作。 |
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