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2.四畳半神話体系 3.きつねのはなし 6.有頂天家族 7.美女と竹林 8.恋文の技術 9.宵山万華鏡 |
ペンギン・ハイウェイ、四畳半王国見聞録、聖なる怠け者の冒険、有頂天家族−二代目の帰朝、夜行、ぐるぐる問答、太陽と乙女、熱帯、四畳半タイムマシンブルース、シャーロック・ホームズの凱旋 |
●「太陽の塔」● ★☆ 日本ファンタジーノベル大賞 |
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2006年6月
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京大生の妄想が京都の街をかけめぐる、青春グラフティ。 ファンタジーノベル大賞の選考会では「美点満載、文句なしの快作!」「一番強烈で一番笑いこけた作品」という評価だったそうです。 主人公は、ぼろアパートに住み、古自転車に乗り、折角付き合った女の子には袖にされ、大学にも行かずバイトばかりの生活をしている、という京大の五回生。
そんな主人公と、その友人たちの頭の中に描かれることは、社会一般の見方からすると、ズレている、妄想と言わざるを得ない。 |
●「四畳半神話体系」● ★☆ |
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2008年03月
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デビュー作「太陽の塔」には面喰い、4作目の「夜は短し歩けよ乙女」には狂喜した記憶は今も鮮やかですが、当時この第1作目から4作目への飛躍が驚きでした。 しかし今、本作品を間に挟むと、経緯が良く判ります。 そう、本作品こそ「太陽の塔」と「夜は短し歩けよ乙女」の間にあって2作を繋ぐストーリィ。 主人公は、下鴨幽水荘というもはや廃墟同然というべきボロアパート、その四畳半の部屋に住む京都の大学三回生。 愚かしい限りというべき大学生活で、その愚かしい部分ばかりが強調され繰り返される展開ですが、それもまた大学時代でしか味わえない経験と思えば、納得できるところもあり。 この作品だけを読んだのであれば「太陽の塔」に引き続き面喰うだけだったかもしれませんが、「夜は短し歩けよ乙女」に繋いでいく作品と思って読むと、その意味、手応えは十分あり。 四畳半恋ノ邪魔者/四畳半自虐的代理代理戦争/四畳半の甘い生活/八十日間四畳半一周 |
●「きつねのはなし」● ★ |
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2009年07月
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京都を舞台にした怪奇譚、4篇を収録した短篇集。
これまで森見さんの古典的な語り口+奇想なストーリィに魅せられてきましたが、本書はそれらの作品に比べるとあれれ?と思うくらいオーソドックスな語り口。 各篇の中で、狐のようで胴体の長いケモノという存在が度々登場します。それが本書をして怪奇譚にならしめているのですが、京都を舞台にすると何と似つかわしいことか。 きつねのはなし/果実の中の龍/魔/水神 |
●「夜は短し歩けよ乙女」● ★★★ 山本周五郎賞 |
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2008年12月
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本書については、恋した相手=黒髪の乙女を追い求め、乙女の先輩にあたる主人公が京都の街並み、はたまた大学構内をさまよい歩く物語といったら良いでしょうか。 いやいや、それではとてもこの物語を語るには足りません。そんな言葉をはるかに超えた作品なのですから。 ファンタジーというべきか、荒唐無稽というべきか、はたまた前代未聞というべきか。そのどれひとつとして本書をぴったり言い表す言葉はありません。 本書は、ありきたりな青春+学園ラブ・ストーリィの如き平凡さなどどこかに蹴っ飛ばし、奇人変人が次々登場するわ、目を見張る展開が次々に繰り広げられるわといった、類稀な面白さを備えた快作なのです。 あとはもうご自分で読んでみてください、と言う他ありません。本書の面白さは、ストーリィそのものより、その醸し出す雰囲気にこそあるのですから。
クラブの後輩である黒髪の乙女に恋した男子学生。不器用な彼はちっとも彼女に近づけないまま、ひたすら彼女の後を追い求めます。その彼と、そんな先輩の気持ちを知りもしない彼女とが、交互に主人公となり第一人称にて物語を語っていく、という構成です。 夜は短し歩けよ乙女/深海魚たち/御都合主義者かく語りき/魔風邪恋風邪 |
●「【新釈】走れメロス 他四篇」● ★★ |
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2009年10月 2015年08月
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中島敦、芥川龍之介、太宰治、坂口安吾、森鴎外の名作を森見風にアレンジ、というより、奇矯なる森見ワールドに引きずり込んだうえで「夜は短し歩けよ乙女」的世界に再構築した、と言うべき短篇集。 途中、詭弁論部とか、パンツ総番長、象の尻の展示物なんていう言葉が飛び出してきますので、これはもう「夜は短し」と同じ京都の大学を舞台にしているなと、同作品の愛読者なら判る筈。 本書もまた奇人たる学生が幾人も登場しますが、その代表格が冒頭「山月記」の主人公たる斉藤秀太郎。奇人も奇人、ここまで至ってしまえばもう何をか況や。と言っても「夜は短し」程楽しめないのは、同作品のような青春の色香が感じられず、奇矯ぶりばかりが目立つ所為です。 そんな物足りなさも、「走れメロス」に至って吹き飛びました。これはもう、思わず吹き出してしまう面白さ!と言う他ない作品です。太宰の「走れメロス」は教科書にも取り上げられた名作ですから、ご存知の方も多いことでしょう。でも読んだ時、その余りの奇麗事さにかえっていかがわしさを感じたことはありませんでしたか? ※他の3篇もそれなりに楽しめる森見ワールドです。 山月記/藪の中/走れメロス/桜の森の満開の下/百物語 |
●「有頂天家族」● ★★ |
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2010年08月
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桓武天皇遷都の御代から、京の都には狸と人間と天狗が住まうという。元々狸の所領地だったとか。 「人間は街に暮らし、狸は地に這い、天狗は空を飛行する」。さらに、天狗は狸に説教を垂れ、狸は人間を化かし、人間は狸を鍋にして喰わんとする。 そんな現代の京都を舞台に、狸、天狗、人間が入り乱れてのファンタジー+滑稽で仰々しい騒動記。 狸界の頭領“偽右衛門”を務めた偉大な父・総一郎を金曜倶楽部なる人間どもに鍋にされ、残された4兄弟の中の3番目、下鴨矢三郎(もちろん狸)が本書の主人公。 今は呆けたが昔の師である天狗・如意ヶ嶽薬師坊こと赤玉先生の世話を焼き、かつて鈴木聡美、今や強力な半天狗となった弁天を追い・追われ、下鴨家を敵視する叔父の夷川一家と攻防を繰り広げるという、一見古風ながら如何にも森見さんらしい大風呂敷の広がったストーリィ。 ただ、それなりに面白くあり、それなりに熱い家族物語ではあるのですが、最後までそれなりで終わってしまった観もあり。 ※本書に続く第二部の連載が既に始まっているとのこと。 納涼床の女神/母と雷神様/大文字納涼船合戦/金曜倶楽部/父の発つ日/夷川早雲の暗躍/有頂天家族 |
●「美女と竹林」● ★★ |
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2011年01月
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常識という枠にはまりきらない作品を世に送り出し続けている森見さん、エッセイとなればきっとその辺りの胸の内を読ませてもらえるのかと思ったら、これが大間違い。 あくまでも常人とは違う道を行くのが森見流であって、それを予想できなかった私が愚かだったと言うべきか。(笑)
エッセイとは言いながら、冒頭から小説作品に少しも引けを取らず、妄想みなぎりっぱなし。 「美女と竹林」という題名なのですから一体美女は何処で登場するの?と思えば、本題名は美女と竹林が等価関係にあることを示しているだけで・・・云々。はぁ? まーったく煙に巻かれてばかりのエッセイ本ですが、読んでみればこれが面白く、訳もなく楽しくなってきます。 |
●「恋文の技術」● ★★☆ |
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2011年04月
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ノウハウ本のような題名ですが、れっきとした小説。それも、私の好きな書簡体小説です。ただし、基本的に手紙の出し手は主人公一人のみ。 元々森見さんの小説スタイルは一人称、さらに突き詰めれば書簡体小説に向いているのです。だからこそ、ファンとしてはこの上なく楽しい一冊。 京都の大学研究生である守田一郎、獅子の子が谷底に突き落とされるが如く(?)に能登半島にある臨海実験所へ飛ばされます。 当然ながら、相手によって口調ならぬ文調も変わるのです。とくにこの主人公、妹に言わせると「手紙を書くと人格が変わる」性格らしい。また、いかにも森見作品らしく、主人公のみならず相手方にも型破りな人物は不足しません。とくに主人公が“女帝”と呼ぶ、大塚緋沙子女史が傑作。 久しぶりに、綴られる文章のひとつひとつを楽しみ、森見作品の醍醐味を存分に味わった、という思いです。 外堀を埋める友へ/私史上最高厄介なお姉さまへ/見どころのある少年へ/偏屈作家・森見登美彦先生へ/女性のおっぱいに目のない友へ/続・私史上最高厄介なお姉さまへ/恋文反面教師・森見登美彦先生へ/我が心やさしき妹へ/伊吹夏子さんへ失敗書簡集/続・見どころのある少年へ/大文字山への招待状/伊吹夏子さんへの手紙 |
●「宵山万華鏡」● ★★ |
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2012年06月
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祇園祭の興奮が最高潮に達する宵山を舞台とし、相も変わらず人を喰ったような、幻想的なファンタジーと壮大な悪戯が渾然一体となった、まさに夏の宵にふさわしい森見ファンタジーの楽しい一冊。 この組み合わせ、シェイクスピア「夏の夜の夢」の現代版・日本版と言っても良いような気がします。 なお、これをアホらしいと思うか楽しいと思うかは、所詮人の好み次第なのですけれど、私は楽しいです。 お化け屋敷を楽しむと同様、夏の暑さと夕闇の和みに心を委ねて楽しむに似ています。 「宵山姉妹」は、宵山の混雑に巻き込まれて姉とはぐれた小学生の妹が、ファンタジーな世界に誘われそうになる篇。 夏の宵には幻想的ファンタジーが相応しい。読み終えて時間が経つ程に、そんな楽しさが膨れ上がってきます。 宵山姉妹/宵山金魚/宵山劇場/宵山回廊/宵山迷宮/宵山万華鏡 |
●「奇想と微笑−太宰治傑作選−」●(森見登美彦編) ★★ |
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何故「太宰治傑作選」なのか?というと、「新釈走れメロス他四篇」で太宰治「走れメロス」をやりたい放題に書き換えて顰蹙を買っていたところ、太宰治生誕百年ということで太宰治の作品集を作りませんか、という提案があったのだという。 傑作選とはいえ、そこは森見さん、「ヘンテコであること」「愉快であること」に主眼を置き、暗い作品は殆ど選んでいないということで出来上がったのが本短篇集。 私が太宰治作品を読んだのは中学生の時。「津軽」や「晩年」はともかく「人間失格」「斜陽」の暗いイメージにそれ以来太宰治を敬遠してしまい、以後関わったといえば井上ひさし戯曲「人間合格」くらい。 冒頭の小品「失敗園」がファンタジスティックで軽く愉快。 失敗園/カチカチ山(お伽草紙より)/貨幣/令嬢アユ/服装に就いて/酒の追憶/佐渡/ロマネスク/満願/畜犬談/親友交歓/黄村先生言行録/「井伏鱒二選集」後記/猿面冠者/女の決闘/貧の意地(新釈諸国噺より)/破産( 〃 )/粋人( 〃 )/走れメロス/編集後記−森見登美彦 |