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1.うるうの朝顔 2.右から二番目の星へ |
「うるうの朝顔」 ★☆ 小説現代長編新人賞 | |
2025年06月
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霊園管理事務所に勤める日置凪という青年。 その青年が各篇主人公に手渡す不思議な朝顔の種。 “うるうの朝顔”というその花が咲くと、ほんの少し変わった過去をもう一度体験でき、その瞬間から心のズレが正しい位置に修正されるのだという。 ※「うるう」とは、「うるう年」のうるう、とのこと。 ・「チョコレートの種」:離婚し、息子を連れて実家へ戻った綿来千晶は、頼りにしていた母親に死なれ、自分に自信が持てないままでいる。 ・「ルビーの種」:映画配給会社勤務の国見頼(より)、採用面接時に親切にしてもらった先輩社員=香椎佐和に好意を感じているが、近づき難いものを感じている。 ・「汐の種」:男鹿三多介は、孤独に死んだ幼なじみ=マサこと森川雅勝との間に、誰にも打ち明けていない過去を抱え込んでいる。 ・「いろみずの種」:小五の小野木ひまりは、突然に死んだ担任のみかげ先生(御影麻希)の亡霊を見続けていて、何か苦しんでいる。 ・「雨粒の種」:日置凪自身を描いた篇。 何故、彼は不思議な朝顔の種を持ち、管理している霊園で出会った人たちにその種を渡したのか、そして、彼自身は、どんな問題を抱えているのか・・・。 過去の知らずにいた場面を知ることによって、一連の出来事が腑に落ち、そこから新しい一歩を踏み出すことができる、という再生ストーリィ。 ファンタジー要素をたった一つ持ち込み、それによって扉を開けていくという趣向による、再生ストーリィ連作。 ただ、頭では理解できるものの、ストーリィ展開がもうひとつ腑に落ちきれないでいる、そんな気持ちが残ります。 1.チョコレートの種−toxin−/2.ルビーの種−observation−/3.汐の種−spiral−/4.いろみずの種−colorful−/5.雨粒の種−alien− |
「右から二番目の星へ」 ★★ | |
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作品中に書かれずとも、「ピーター・パン」が根底にある作品。 プロローグ、<子どもの土地>から抜け出してきたらしい子どもが一人登場します。その子どもに対し、道案内人であり門番でもあるらしい子ガラスが、許してもらうためには<大人の土地>から子どもを一人連れてこい、期日は 8月25日だと告げるところから、本ストーリーは幕を開けます。 登場する子どもたちは、次のとおり。 ・青森、五所川原・弘前では、小五の見上理砂と吉澤環。 ・熊本、天草では、中二の古閑海璃と真藤きよか。 ・埼玉、大宮では、中一の簗詰太成と、小六の楓斗。 子どもたちそれぞれ元気そうですが、彼らなりに抱えている問題のあることが順次分かってきます。 しかし、だからといって、彼らが大人になりたくない、と思うような問題なのか。 大人になるというのは、良いことなのか、悪いことなのか。そもそも大人になるとはどういうことなのでしょうか。 本作によって、そうした点について考えさせられます。 自分たちが抱えてきた問題を解決するために、我々は大人になるのではないでしょうか。そのチャンスを掴むために。 本ストーリーとしては、冒頭に登場した子どもは誰なのか、本当に子どもを連れ去るのかという点が、ミステリ風味。 ただ、それは割と簡単にわかるように思いますし、子どもたちそれぞれの物語に充分読み応えあり。 「ピーター・パン」の<子どもの土地>が本当に子どもにとって良い場所なのかどうか、そう考えてみたことが新鮮でした。 Prologue/夏休み 第一週/夏休み 第二週/夏休み 第三週/夏休み 第四週/夏休み 最終週/Epilogue |