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「筏までの距離」 ★☆ |
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ストーリー展開があるようで、ないような、8篇。 戸惑いながらも、さてどのような意図を持った作品なのかと考えてみると、共通項が見えてきました。 各篇、いずれも登場人物が、一時あるいは一時期、縁をもった女性との関わりが描かれています。 一時期親しくなっても、その関係が終わってしまえば、単なる他人というか知人でさえなくなるのか。 そう言われれば当たり前のことではあるのですが、そこにちょっと懐古、寂しさが漂うのが感じられます。 もうひとつの特徴は、主人公が小説家あるいは小説を書いている人間で、自分が経験したことを小説にして欲しいと頼まれる、というストーリーが幾編か。 小説が書かれる前の経緯を聞かされるようで、興味惹かれます。 ・「ロング・スロウ・ディスタンス」:私は小説家仲間である七市から、彼がかつて出会った女性とのことを聞かされ、小説にして欲しいと頼まれる。 ・「マスキングテープ」:マスキングテープをあちこちに貼る、元恋人の癖、今も主人公に影響が残る。 ・「植物園にて」:大学時代、植物園へ一緒によく行った恋人との、関係と別れ・・・。 ・「回して削る」:離婚、そして会社を退職して郷里に戻った男性、木工仕事をしながら今も元妻のことを思い出す。 ・「坂で会う」:就職して以来、故郷に戻ることのない私。 ・「筏までの距離」:取材旅行にでかけたリゾート地で出会った女性。関係を持つのか持たないのか、微妙・・・・。 ・「台風一過」:大学時代から今も古書店でバイトする私は、小説書きも。彼女の笑いが忘れられず。 ・「沙貴のこと」:沙貴は大学時代の恋人の妹。久しぶりに再会した彼女から、自分のことを小説に書いてほしいと頼まれる。 表題作「筏までの距離」に、一番惹きつけられます。 その他、「ロング・スロウ・ディスタンス」「沙貴のこと」が面白く感じられました。 ロング・スロウ・ディスタンス/マスキングテープ/植物園にて/回して削る/坂で会う/筏までの距離/台風一過/沙貴のこと |