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「あのころの僕は」 ★★★ 河合隼雄物語賞 |
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5歳で母親を喪った男の子=天(てん)。 母親の死という現実をきちんと認識する間もなく、周囲の大人たちから愛情や気遣いが間断なく天に注がれ続けていく、と私は感じました。 一方、出張も多い仕事をしている父親は、自身も妻を亡くした衝撃から立ち直れないでいるのか、天と話すことは少ない。 天は四つの家を行き来して日々を過ごします。 父親と暮らす家、父の妹であるえり叔母さん(独身)の家、にぎやかな父方の祖父母の家、物静かな母方の祖母の家。 幼稚園では、同じ組の園児の母親たちが交替で天のためにお弁当を作ってくれます。 そうした渦中にある天の中に、母親への思いは感じられません。というか、その感情を処理する工程に辿り着けていない、という感じ。 そんな天の救いとなったのは、父親と離れ、母親と一緒にイギリスから帰国してきた少女さりかちゃん。 日本が流暢ではないさりかちゃんを世話しようとする園児たちの親切を受け止めきれずにいるらしい。 自分と同じだと共感したらしい二人は仲良くなり、いつも二人で遊ぶようになります。 大人たちは天やさりかちゃんに愛情を注いでいるのですが、当の本人である5歳の子どもたちは、どう感じ、どう思っているのでしょうか。その辺りが濃やかに描かれていきます。 天とさりかちゃんは本当に仲良し、いつも一緒でしたから、当然そのまま進んでいくと思ったら、二人の間に大きな違いがあることに気付かれます。それは天だけでなく、読者にとってもショックでした。 最後、高一となった天は、さりかちゃんの今を聞いてどう行動するのか。 5歳から高一までの間、天の確かな成長を見た気がして、嬉しくなります。 幼い子どもたちの胸の内を描いた佳作。是非お薦めです。 |