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21.はるひのの、はる 22.トオリヌケ キンシ 23.我ら荒野の七重奏 24.カーテンコール! 25.いつかの岸辺に跳ねていく 26.二百十番館にようこそ 27.空をこえて七星のかなた 28.1(ONE) |
【作家歴】、ななつのこ、魔法飛行、掌の中の小鳥、いちばん初めにあった海、ガラスの麒麟、月曜日の水玉模様、沙羅は和子の名を呼ぶ、螺旋階段のアリス、ささらさや、虹の家のアリス |
コッペリア、レインレイン・ボウ、スペース、てるてるあした、ななつのこものがたり、モノレールねこ、ぐるぐる猿と歌う鳥、少年少女飛行倶楽部、七人の敵がいる、無菌病棟より愛をこめて |
「はるひのの、はる」 ★★ |
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2016年04月
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「ささらさや」「てるてるあした」に続く、“ささら”シリーズ第3作。そして残念ながら最終巻だそうです。 主人公は、各章毎に入れ替わりますが、全体を通しての主人公は「ささらさや」で小さな赤ん坊だったユウスケであると言って間違いないでしょう。 「ささらさや」のユウスケが成長した姿を見るのはファンとしては嬉しい限り。でも本作品の良さは、そのユウスケが前に出過ぎることなく、脇役として、そして最後で主役になるといった寄り添うような存在として登場しているからこそでしょう。 プロローグ/はるひのの、はる/はるひのの、なつ/はるひのの、あき/はるひのの、ふゆ/ふたたびはるひのの、はる(前)/ふたたびはるひのの、はる(後)/エピローグ |
22. | |
「トオリヌケ キンシ」 ★★ |
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2017年06月
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加納朋子さんらしい、優しさと温かさ溢れる連作短篇集。 本書収録の6篇、いずれも何らかの病気がストーリィ上の重要な鍵となっています。 「トオリヌケ キンシ」は、高校生になって部屋にヒキコモリとなった主人公の元に、かつて小学校で同級生だった女子が訪ねてきます。主人公に助けてもらった、というそのこととは・・・。 6篇の中でも私好みなのは 「トオリヌケ キンシ」「フー・アー・ユー?」の2篇。「空蝉」は現代的で余りに切ない。そして「この出口の無い、閉ざされた部屋で」は別格の一篇。 トオリヌケ キンシ/平穏で平凡で、幸運な人生/空蝉/フー・アー・ユー?/座敷童と兎と亀と/この出口の無い、閉ざされた部屋で |
「我ら荒野の七重奏」 ★★ |
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2019年09月
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「七人の敵がいる」にて圧倒的な存在感を知らしめた“ミセス・ブルドーザー”こと山田陽子が再登場。 愛息子の陽平が公立中学に進学して吹奏楽部に入部、その結果として今回の舞台は吹奏楽部員の親たち、保護者の会です。 相変わらず陽子、陽平のこととなると瞬間湯沸かし器のように激情、周囲のことがまるで見えなくなったまま突進して紛議を来すというパターンは相変わらず。 主人公が陽子ですからストーリィは当然にして陽子の視点から進みますが、非陽子の視点から見たら、こんな親がいたらさぞはた迷惑だろうなぁと感じます。 そんな功罪相半ばする陽子ですが、後半に至るや陽子のパワーがさく裂し始め、ストーリィも俄然面白くなります。それでこそ山田陽子、ミセス・ブルドーザー!といった感じです。 それにしても子供が吹奏楽部に入ると親ってこんなに大変なの?と思う状況が目白押し、呆然とする程です。 子供を人質にとられると親は弱いもの。今やこの時代、親も大変なんだよーというストーリィ。 一方、そうした主ストーリィの裏で、陽平ら子供たちがそれなりに成長している姿もちゃんと描かれている処が好ましい。 “怪傑−陽子”第2弾! お楽しみに。 ※それにしてもこの陽子、「レインレイン・ボウ」第2話が初登場(小原陽子)だったとは、まるで気付いていませんでした。 独奏(ソロ)/二重奏(デュオ)/三重奏(トリオ)/四重奏(カルテット)/五重奏(クインテット)/六重奏(セクステット)/七重奏(セブテット)!/エピローグ |
「カーテンコール! Curtain Call」 ★★☆ |
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2020年09月
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経営不振から閉校の時を迎えた萌木女学園大学、最後の学生を卒業式で全員送り出し無事閉校となるところ、出席不足等による単位不足で10人程が卒業できないという予想外の事態が発生。 そこで理事長兼学長である角田大造が考え出したのは、半年間にわたる特別補習講。 三食食事付きでの寮生活、但し外出禁止、ネット環境もなし、というまるで拘置所同然。しかし、学生の親たちは感激して娘たちを補習講に送り込んでくる、という次第。 ある舞台設定の下に数人の主人公が登場してくる、という連作ものは、加納さんお得意のところですが、本作も同様。 何故単位不足となったかについては、それぞれに深い事情あり。 加納さんの連作ものの魅力は、各ストーリィの主人公がそれぞれに人間的魅力を持っているからなのですが、それは本作も例外ではありません。 「佐藤壺は空っぽ」の恋愛話は切なくも甘酸っぱく、ミステリ風味あり。 「萌木の山の眠り姫」と「鏡のジェミニ」は、2人一部屋の寮生活という設定を活かした妙味ある展開。 そして「プリマドンナの休日」では、何故優等生が単位不足だったかについて、呆気に取られる真相が待ち受けていました。 どの篇も魅力に富んだストーリィなのですが、上手い! なんて上手いんだ!と、嬉しい思いと共に唸らされたのは、最終章「ワンダフル・フラワーズ」に篭められた、角田理事長たちからのメッセージ。 こんな秘密が隠されていたとはなー。細部の仕掛けもお見事。 しかし、それ以上に見事なのは、理事長たち、学生たちそれぞれの思いが輪のように繋がった処でしょう。 お薦め! 砂糖壺は空っぽ/萌木の山の眠り姫/永遠のピエタ/鏡のジェミニ/プリマドンナの休日/ワンダフル・フラワーズ |
「いつかの岸辺に跳ねていく」 ★★☆ | |
2021年08月
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「フラット」は、典型的な青春ストーリィ。 主人公は、森野護。 その護には気になる幼馴染がいる。親同士が仲良く幼い頃は一緒に遊ぶことも多かった平石徹子。 その徹子、自分のことはさておいて、いつも周囲の人が幸せでいることばかりに一生懸命な女の子。中学、高校、卒業後、いつも護の視線の先には徹子がいる。しかし、2人の関係はいつも幼馴染のままであって恋人関係には進展しません。 その徹子についに結婚が決まった、という知らせ。 健やかで、平穏で、物足りないくらい気持ちの良い青春譚。でもこれって加納朋子さんらしくないストーリィだな、と感じざるを得ず。 「レリーフ」は、上記を平石徹子の側から、彼女を主人公に据えたストーリィ。 まったく同じ出来事が繰り返されますが、しかし、徹子の視点に立つと全く違った様相が見えてきます。 それらはすべて、徹子が懸命に努力してきた結果だったのですから。 やがて、徹子の前に、影山堅利(カタリ)という人物が姿を現します。高校時代からの親友である林恵美の結婚相手として。 そのカタリが、悪魔のような人物。そして徹子さえ、逃れようのない窮地に追い込まれます。 「フラット」が健全な青春小説であったのに対し、「レリーフ」は息も詰まるような恐ろしいサスペンス。 この2篇の格差が凄すぎて、叩きのめされてしまいました。 護も徹子も、純粋で善意しかもっていないような好人物。 その2人と親しくなるのが、ヤンキー夫婦の高倉正義・弥子、大城健治らの仲間たち。 その組み合わせの妙が、2人にとって強烈な支えとなるのですから、この辺り、加納さんはやっぱり上手い! やぁー面白かった! 彼らと出会えてとても幸せな気分です。 フラット/レリーフ |
「二百十番館にようこそ」 ★★ | |
2023年08月
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就活に挫折して以来、実家で<ネトゲ>化した主人公=俺、会ったこともない伯父から離島にある館一棟を遺贈されたと知ってびっくり。 ともかくもこれでオンラインゲームの課金を気にせずにゲーム三昧の生活を送れると、喜んでその離島に向かったのですが、そこは何もない子島で、総人口は僅か17人、それも老人ばかりと聞いて早や不安に。 という訳で実家に連絡を取ろうとすると通じず。既に両親、スマホを解約し、家も売却して引っ越したという。 そこに至って主人公、親から見放され、捨てられたのだと自覚します。 もう他に行くところも金もない。何とかここで暮らしていくしかないと、主人公はそのために頭をひねり出します。 主人公が見知らぬ世界に放り出され、生き抜くための冒険が始まる・・・とまではいきませんが、まるでゲーム世界のようです。ですから主人公の困惑顔とは別にして、読み手としては何やら楽しくなってきます。冒険の一種が始まるのでしょうから。 主人公がまず始めたのは、ニートあるいはネトゲの入居者を集め、その入居料を当てにしようというもの。 その結果集まって来たのは、母親から強引に放り込まれたニートのヒロ、ネトゲ仲間である元医者のBJ、遊び好きなカイン、マッチョなサトシ・・・。 その結果として、老人ばかりの島住人と、ニートの若者たちとの共存共栄離島生活が繰り広げられるのですから、楽しき哉。 また、何かと自分は何もできない、落伍者だと自嘲する主人公、離島での暮らしを営むため、結構マメに活動し出すのですから、これまた楽しい。やればできるじゃないか>俺。 最初から最後まで、ストーリィ全篇を包み込むような加納さんの優しさが、良いなぁ。 オンラインゲームにも後れを取らぬ辺り、流石です。 改めて再認識しました。加納朋子作品、今も大好きです。 心優しくなれるストーリィが好きな方に、是非お薦め。 なお、「二百十番館」、2と10で「ニート」というダジャレとのこと。 |
「空をこえて七星(ななせ)のかなた Over the Sky Beyond the Universe」 ★★☆ | |
2025年05月
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温かでユーモラス、そして辛いことがあっても未来、希望を感じさせてくれる連作ストーリィ。 そして、星が各篇を紡ぐモチーフになっています。 なお、出版社紹介文には「星を愛し星に導かれた人々が紡ぐ七つのミステリー」とありました。 そういえば加納朋子さん、元々日常ミステリの名手。 紹介文にも書かれていましたし、何処かにミステリがある筈?と思うくらい、ミステリを感じさせないストーリィばかり。 ストーリィ自体が、どの篇も温かさに満ちていて気持ち良い。その中にミステリの種を探すというのも、宝探しをするようで楽しい限りです。 読んでいて気付くことがあります。各篇でその名前がはっきり明かされない主要登場人物がいることを。 小学生の美星が出会った“王子様”、スーパー生徒会副会長、彗子の「お兄ちゃん」、ドクター・マイア、等々。 本作のミステリ、ストーリィの内容というより、むしろ読者相手に仕掛けられたものなのです。 それはどんなミステリなのやら。 最後の章は、それらミステリの全て、まるで手品の種明かしを披露してくれるよう楽しく、とことん面白い。 そして究極の最後に残るのは、希望、そして夢。 ・「南の十字に会いに行く」に登場する、七星の祖母が爽快。 ・「箱庭に降る星は」に登場する、生徒会副会長のスーパー女子が格好よく、探偵並みの活躍を見せてくれます。 ・「木星荘のヴィーナス」では、主人公の彗子と祖母、アパートの住人である金江さんの曲者ぶりがすこぶる楽しい。 ・「星の子」では、再び七星が主人公。 ・「リフトオフ」は、何をか況や。是非お楽しみに。 南の十字に会いに行く/星は、すばる/箱庭に降る星は/木星荘のヴィーナス/孤舟よ星の海を征け/星の子/リフトオフ |
「1(ONE)」 ★★ | |
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表紙絵から察せられるとおり、本作の重要な登場人物?は、犬!です。 「1(ワン)」とは犬の名前。そして、「ゼロ」という名の子犬も登場します。 冒頭の篇は、玲奈のナイト(騎士)を自称する大型の黒犬であるワンとその後継者である仔犬ゼロが、大学生のレイちゃんをストーカーから守る話。 そして中盤の3篇は、一家がワンと出会って家族となるまで、生まれたばかりのレイちゃんをワンがお守り役を務める話。 一家が飼い犬を同じ家族として大事にすると、こうも温かい雰囲気になるものなのか。犬を飼ったことのない私には、残念ながら到底分からないところです。 ともあれ、加納さんらしい、そしてこれまで以上に温かな連作ストーリィとなっています。 なお本作、短大生の駒子が主人公であった「ななつのこ」「魔法飛行」「スペース」から連なる新しい物語、とのこと。 それらと作品と本作はどう関わっているのか。 本ストーリィからその鍵を見つけ出すのが、ファンとしては大いに楽しいところです。 是非、見つけてみてください。 初めに読んでいただきたい前書き プロローグ/ゼロ/1<ONE>前編/1<ONE>中編/1<ONE>後編/エピローグ/ 読み終えてから読んでいただきたい後書き(もしくは蛇足) |
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