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1.救われてんじゃねえよ 2.ほくほくおいも党 3.ぼくには笑いがわからない 4.海の底に雨は降らない |
| 「救われてんじゃねえよ SACHI There's No Place Like Home」 ★★★ | |
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リアルな介護小説。圧倒され尽くした感あり。 主人公の沙智は高校二年生。母親が難病で立ち居振る舞いが不自由となり、排泄等の介護に明け暮れる。 親子三人で住んでいるのは築50年の県営住宅で、八畳一間+ユニットバスというのが凄い。 父親は介護に知らんぷりしており、同じ部屋で住み暮らしているからには無視することなど到底無理、沙智が介護せざるを得ない状況。 そのうえに凄いと思うのは、高校生の娘が寝ている横で両親がセックスしていること。うわぁ、よくやるよなぁ。 ヤングケアラーというと健気さ故の悲惨さを感じてしまうことが多いのですが、この現場には笑いもあります。 母親を支えようとした沙智が、母親と一緒に倒れ込んでしまう、ちょうどその時TVから流れた芸人のネタに爆笑してしまう、という場面がその象徴。 修学旅行にも行けないと、沙智の状況は気の毒な限りですが、笑いと同衾しているから救われている、と感じます。 そうした笑いは、沙智が自分を客観視できているからこそ。そこに沙智の強さを感じますが、同時にリアルな介護小説として成立しています。 ※作者の上村さん自身、高校時に母親の介護経験がある由。 「救われてんじゃねえよ」は、沙智が高校二年時。 「泣いてんじゃねえよ」は、東京に進学した大学四年生時。 地元企業でのインターン研修のため帰郷した沙智に、両親は沙智のUターン就職、介護復帰を当然のこととして要求します。 「縋ってんじゃねえよ」は、東京で沙智が就職した3ヶ月目。母親は沙智の仕事中にもかかわらず電話してくる。 この両親のアホらしさが凄いというか、笑えるというか。おかげで悲惨さがすっ飛んでいる、という感じ。 両親と自分の状況を客観視できるからこそ、沙智は両親の娘への依存姿勢を突っぱねることができるのでしょう。 いやぁ、凄い小説を読んだ、という一言。 是非、お薦め。 救われてんじゃねえよ/泣いてんじゃねえよ/縋ってんじゃねえよ |
| 「ほくほくおいも党」 ★★☆ | |
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題名からコミカルな作品?と思ったのですが、いやいや、そんなことはなし。 面白く語られ、面白く読みながらも、内容は結構シリアス。その点は「救われてんじゃねえよ」と変わりありません。 本作、上村さんが大学の卒業制作として執筆した同名小説が基になっているとのこと。 連作ストーリーですが、軸となる主人公は、豊田千秋、高校生。 そして内容は“宗教二世”ならぬ“活動家二世”である子どもたちの苦労話。 父親の豊田正は共政党の専従。6年前から選挙のたびに立候補していて5連敗。選挙や活動費の支出で家計は火の車、母親は出奔して今は他の男性と一緒に暮らしている。 兄の健二は、18歳になって強引に入党させられた後、高校を中退し、以来部屋にヒキコモリして6年。 千秋の父親、娘が何を言っても全く耳に入らず、応えることといえば共政党や政治のことばかり。このズレがまぁ、余りにも徹底していて、凄い。 そんな父親に対して千秋が望むことはただ一つ、父親とちゃんと会話したい、ということ。 それだけなら、千秋と父親、あるいは千秋の家族物語という狭い範囲に留まりそうですが、本作は決してそうなりません。 千秋と高校の仲間である生徒を主人公とした篇もあれば、大学生を主人公として豊田正を彼の視点から見る、という篇も設けられています。 千秋の主観的である篇と、多角的に描く篇を並べる構成であることから、作者が豊田正という共政党どっぷりの人物を公平に描こうとしていること、さらに千秋が決して父親を見放している訳でない、優しさも備えているという書きっぷりが、実にお見事。 お薦めです。 ・「千秋と選挙」:主人公は千秋。父親への思いは・・・。 ・「佐和子とうそつき」:同じく活動家二世である佐和子(50歳前後)が抱える悔恨。 ・「和樹とファインダー」:高校生の浅間和樹、生徒会選挙で立候補者のドキュメンタリー映像を撮ってくれて頼まれ・・・。 ・「康太郎と雨」:大学生の岩崎康太郎、東北の被災ボランティアで豊田正と出会い・・・。 ・「健二とインターネット」:千秋の兄である健二、人生をめちゃくちゃにされたと父親を恨み・・・ ・「千秋と投票日」:選挙日前日、当日、千秋は・・・。 1.千秋と選挙/2.佐和子とうそつき/3.和樹とファインダー/4.康太郎と雨/5.健二とインターネット/6.千秋と投票日 |
| 「ぼくには笑いがわからない」 ★★☆ | |
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主人公である耕助は、言語学を研究科目にしている京都の大学3年生。しかし、優秀なれど生真面目過ぎて冗談も通じず、笑うポイントが全く分からない。 そんな耕助が恋したのは、同じアパートに住む芸術大学の4年生である百合子。 その百合子から、面白い人が好き、好きなのは私のことを笑わせてくれる人と言われた耕助、百合子からキスの約束を取り付けたことから、幼なじみの将吉を巻き込み、M−1グランプリ優勝を目指して暴走を始めます。 どう考えたって無理だろ、と誰でも思う処ですが、それが分からず突進してしまうのが耕助の面白さ。とはいえ本人は大真面目なのですが。 自分には笑いがわからないと自認したうえで、少しでも笑いに近づこうとする。 それこそ耕助にとって貴重な青春物語と言えるでしょう。初恋が実るかどうかなんてどうでもいいこと、それよりそこから実を得ることの方がどれだけ大切なことか。 大学お笑いサークルの実力者である<ミーレンズ>の坂本四郎やサトウと関わり合ったり、チェーン餃子店の副支店長だが実は売れない芸人と知るや「師匠」と呼んでまとわりついたりと、暴走は止まらず、笑えるというより呆れるばかり。 当初こそ何だこの小説は?と思ったものの、本作の構図が見えてくると、やってくれるなァ、と感心した次第です。 そのうえで、さて笑いとは? 単なる漫才小説に留まらず、独自の世界を切り開く青春譚、お薦めです。 1.耕助/2.四郎/3.耕助 |
| 「海の底に雨は降らない」 ★★★ | |
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冒頭から痛ましくてなりません。 ストーリーは、主人公である若市光莉(20歳)が半年ぶりに拘置支所から出てくる処から始まります。 光莉が9歳の時、母親に難病が判明。その一年後、父親は出奔して戻らず。そのため、光莉は北九州の自宅で、頼る人もなくずっと一人で母親を介護してきた。 そして半年前、母親は自殺。光莉は自殺幇助の罪に問われ、懲役2年、執行猶予4年の有罪判決を受ける。 出所後、母親の死まで会うこともなかった叔母に引き取られ、光莉は東京へ。 働く先も中々見つからない中、何とかケアホームで仕事を得ることができ、光莉はそこで働きながら中学の勉強をもう一度やり直そうとします。 そうした中で出会ったのが、同世代の作家である日比谷ヒビ。その日比谷友だちになろうというヒビから、これまでのことを物語として書くことを勧められるのですが・・・。 人生に何の目標も持っていなかった光莉は、これからどう生きていけばいいのか。 光莉の日々は、まるで手探りしながら前に進むようです。 ただ日々を過ごしていこうとしているだけなのに、そんな光莉を世間は放っておいてくれず・・・。 そんな光莉を支えるのは、自分も元ヤングケアラーだという日比谷の存在と、光莉の可能性を信じる人たち・・・。 果たして光莉は、その過酷な現実から、青春を、自分の人生を、取り戻すことができるのか。 寄り添えば、優しくしたら救えるのか、と言えば、決してそんなことはないでしょう。結局は、自分で立ち直ってもらう他ありません。そこに他者はどこまで絡むことができるのか。 光莉が立ち上がるために必要なのが、物語ることなのか。 本作の凄さ、圧倒力は、その現実感にあります。 本作の現実は、光莉においてのものですが、それ以外に数多くのヤングケアラーの現実がある筈。 その意味で、決して絵空事ではないストーリー。 是非多くの方に読んでもらいたい、渾身の力作です。お薦め! |