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11.娘が巣立つ朝 12.常夏荘物語-なでし子物語No.4- 13.鎌倉茶藝館 |
【作家歴】、風待ちのひと、四十九日のレシピ、なでし子物語、ミッドナイト・バス、カンパニー、地の星、彼方の友へ、天の花、雲を紡ぐ、犬がいた季節 |
「娘が巣立つ朝」 ★☆ | |
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伊吹有喜さん初の、新聞連載小説だそうです。その単行本化。 主婦業の傍ら、着物着付け教室の講師等をしている智子(53歳)。 最近気になっていることは、夫の健一(54歳)がいつも不機嫌そうにしていて、ため息ばかりついていること。 その高梨夫婦の元に、就職して家を出ていた娘の真奈(26歳)が、渡辺優吾という青年を紹介したいと連れてきます。 予想どおり、結婚の申し込み。加えて、結婚までの間、実家に戻ってきたいとの申し出。 それから明らかになっていくのは、優吾の両親が共に有名なインフルエンサー=「カンカン」と「マルコ」という変わり種であるうえに、高梨家と渡辺家の歴然とした経済的格差。 また、真奈と優吾の結婚生活観も食い違っているのが明らかになっていく。 一方、健一と智子の夫婦間の軋みも大きくなっていき・・・。 ストーリーは、交互に智子、健一、真奈、それぞれの視点から描かれていきます。 新しく夫婦になろうとする真奈と優吾、長く夫婦を続けてきた健一と智子、その2組を描きながら、夫婦とは何か、を考えようとした作品だろうと思います。 よくあるだろう問題と感じますが、伊吹さんのストーリー運びが上手い。 様々な登場人物を配しながら、そこには様々な要素、問題点があることを浮かび上がらせています。 ただ、もう一つ気持ちが踏み込めず、残念だったという気持ちが残ります。それぞれの登場人物への共感が今一歩だったからでしょうか。 1.一月/2.二月/3.三月~四月/4.四月~五月/5.六月/エピローグ |
「常夏荘物語」 ★★☆ | |
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“なでし子物語”第4巻。 これまでの3巻で主人公の耀子が積み上げてきたものがここに集約され、ついに結実する、という印象の巻。 ストーリーとしては第2巻「天の花」から続き、その10年後。 耀子の娘=瀬里は東京で大学浪人。しかし、自分が何をしたいのかわからず、受験勉強そっちのけでバイトにいそしんでおり、耀子との間にも距離が生じている。 父親の龍治は病で倒れた後ずっと米国在住、形ばかりの夫婦仲も瀬里の不信感を募らせている。 そうした中、友人が暴力被害を受けたことから、大叔父である立海の世話になることとなり、それまで縁のなかった遠藤の分家である<上屋敷>の辰美や沙也香兄妹、さらには龍治の前妻である千香子とも関わることになります。 一方、耀子は峰生で女性たちと惣菜・弁当・スイーツの店を起業し、その会社<なでしこ屋>の事業は順調。 しかし、耀子たちの起業成功を妬み、嫌がらせや陰口も増えている。 そんななでしこ屋に思わぬ危機が。恰好の機会と、耀子を「長屋の子」と呼んで見下す辰美は、なでしこ屋の事業を我が物にしようと触手を伸ばしてきます。 そうした危機に思い切った決断をしたのは、大奥様の照子。その行動は予想外に大きな波紋を広げ・・・。 耀子と瀬里と母娘問題、耀子と龍治の夫婦問題、峰生という山奥の集落での事業展開という要素を絡めながら、 主軸は、自分たちこそ主役と思い込む上から目線の男たちと、地道に努力を重ねてきた耀子たち峰生の女性たちの闘いを描いたストーリーと感じます。 終盤の展開、余りに上手く行き過ぎという感じもしますが、それと同時に感動も尽きません。 耀子が大事にしてきた“自立と自律”、それはすべてに通じることであることに間違いありません。 瀬里、そして耀子と立海、さらに峰生で生きる志の溢れる人々の姿から、元気を与えられる気持ちになります。 全ては努力の結果と、爽快感に満ちた物語。お薦めです。 |
「鎌倉茶藝館(さげいかん) Kamakura Tea House」 ★★ | |
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主人公の相生美紀は48歳。16年前に夫が死去して以来独り身、ずっと働いてきた和装関連の会社も倒産して職を失う。 喪失感を抱え、残りの人生をどう過ごしていいのかと迷う時に訪れたのは、若い頃に恋人と訪れた鎌倉。山中で道に迷った挙句に出会ったのは、台湾茶カフェ<鎌倉茶藝館>。 店のオーナーである「マダム」こと林淑恵がスタッフを募集していたところから、美紀は東京から鎌倉に引っ越し、茶藝館で働き始めます。 ところがマダムが転倒して足を骨折、入院することになったことから、店の運営が美紀に委ねられます。 そんな美紀の前に現れた男性が、マダムの孫で茶藝館の経営を引き継いだ同い年の高橋紫釉(しゆう)、IT関連企業の経営者で息子程にも若い篠崎直哉という二人。 自分に向けて好意を示す二人の登場によって美紀、自分にもまだ性欲が失われていないことを気づかされます。 伊吹有喜さんというとアットホームな雰囲気の作品が多かっただけに、まるで違った趣向に驚かされます。 しかし、新たな境地を開く挑戦という点を高く評価したい。 要は、人生の終盤という気持ちでいた美紀が、ビジネス、性愛と新たな局面にぶつかり、自分の人生はまだ終わりではなかったと気付き、新たな人生に向かって足を踏み出すという、意欲的なストーリー。 性愛という部分は少々辟易してしまうのですが、鎌倉という土地を舞台にして、台湾茶、花、着物という要素を散りばめていて、楽しめる作品になっています。 特に、台湾茶。台湾茶の種類やその味わいについて深く語られていますので、興味あるある方にはさぞ楽しめることでしょう。 霜降の青竹-生態東方美人/冬至の山茶花-凍頂烏龍茶/麋角解(さわしかつのおる)-蜜蘭香烏龍茶のチョコレート/春分の桜-抹茶と碧螺春/紅始見(にじはじめてあらわる)-茉莉花茶/芒種の紫陽花-白毫銀針/菖蒲華(あやめはなさく)-桃の酒・烏龍茶割り/大暑の夏水仙-原住民野生茶/大雨時行(たいうときどきふる)-紅烏龍茶/秋分の曼珠沙華-四十九年物・包種茶/桃始笑(ももはじめてさく)-Oriental Beauities |