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1.杉森くんを殺すには 2.アリーチェと魔法の書 3.この世は生きる価値がある 4.ぼくのシェフ |
| 「杉森くんを殺すには」 ★★★ 野間児童文芸賞 | |
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野間児童文芸賞受賞作と知って読んだ作品。 とはいえ、本作題名には驚きました。ショッキング、と言って良い程に。 一体、主人公と「杉森くん」の間に何があったのか、杉森くんとは殺したいと思われるような人物なのか、と。 主人公は15歳、高校一年生の「ヒロ」こと広瀬結愛(ゆあ)。 冒頭、信頼する相談相手である義兄ミトさん(大学三年生)に、ヒロが「杉森くんを殺すことにしたの」と打ち明ける処から始まります。 ミトさんからのアドバイスは二つ。ひとつは、やり残したことをやっておくこと。もうひとつは、杉森くんを殺さなきゃいけない理由をまとめておくこと。 そこから各章、ヒロの現在進行中の日々と、杉森くんを殺す理由が、順次語られて行きます。 ストーリーの進展に連れ、ヒロが杉森くんを殺そうと決めた深い事情、理由が徐々に分かってきます・・・何と切ない。 ヒロにも至らない処はあったでしょう、でもだからといってヒロが重荷を背負わされて言い訳はありません。 そうした中で、ヒロと新たに友だちとなったクラスメイトたちの関りも描かれて行きます。 それによってどれだけヒロが救われたことか。ヒロは決して孤独ではなかった、だからこそ・・・と感じられます。 驚きに満ちた、そしてこれ以上ないくらいに切ない、高校生の青春記。 本作に出会えてよかった。 是非お薦めしたい一冊です。 |
| 「アリーチェと魔法の書 Alice and the Grimoire」 ★★ | |
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魔法、魔法使いに関わる難題、少女たちの冒険行、といったストーリー。 児童向け作品ですけれど、設定の面白さに惹かれます。 それにしても魔法、魔法使といったストーリーは、作品の数だけバリエーションがあるな、と感心する次第です。 主人公のアリーチェは、ありふれた書店の娘。 しかし、その書店にはある秘密があり、そのために夜な夜な、魔法使いたちが店を訪ねてきます。 彼らの目的は、<守り手>の一族である祖母が保管している“魔法の書”を読むため。 魔法使いたちが魔法を習得する手段は、その本に書かれている呪文を知ること。魔法使いそれぞれの特性に応じて読めるページは特定され、それ以外のページは白紙にしか見えない。 そして、守り手の一族はその本を一切読むことができないから、中立的な立場にあり、魔法使いたちによって保護されている。 13歳になったアリーチェ、自ら望み祖母を継いで<守り手>となりますが、最初に迎えた魔法使いが、学校で同級生のオルガ。 ただし、守り手は特定の魔法使いと仲良くなってはいけないと教えられてきたため、同級生といっても親しくはない。 ところが、とんでもない事態が本について発生し、自分たちだけで解決しようと二人は家を抜け出すのですが・・・。 黒魔術師、白魔術師、錬金術師、祈祷師、呪具師という五つの魔法族があり、過去には呪術師、予言者もいたらしい。 アリーチェとオルガは、彼らと絡み合いながら行動する処が面白い。 結局、性悪な魔法使いは登場しないところが、楽しめる所以。 そして、二人の思い切った行動により、新たな世界の扉が開く、という顛末が嬉しい。 児童向け作品は、楽しくあることが一番です。 1.<守り手の一族>/2.<本>/3.予言/4.<守り手>の日誌/5.<祈祷師>/6.<錬金術師>/7.<黒魔術師>の双子/8.<呪具師>/9.テトラ/10.<黒魔術師>/11.<白魔術師>/12.予言の手紙/13.<呪術師>/14.魔法使いの<守り手> |
| 「この世は生きる価値がある」 ★★ | |
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長谷川まりる作品は本作を含め、まだ2冊を読んだだけですが、本当に発想が面白いなぁと感心します。 冒頭、どこからか逃げ出した“ある魂”、捕まるまいとして飛び込んだのが、インフルエンザで死んだばかりの14歳、中学二年の高梨天山の身体。 ただし、死んでしまった体であるが故に、天山として生きられるのは一年限り。それでも実体験する現世は、友人、学校と、輝きに満ちて楽しいことばかり。 当然ながら魂、天山自身や現世について何も知りませんから、そこは記憶喪失になったと誤魔化すことに。 しかし、その“天山”の周りには常に、魂を連れ戻しに来た<アイツ>(天山は「キツネ」と呼ぶ)が出没し、天山に警告を発します。 さて、天山の学校生活は如何なるものになるのか。 そもそも天山、どういった生徒だったのかということが問題になる筈なのですが、記憶喪失して“新・天山”と称し、過去は気にせず、今を楽しもうとする。 その中で天山が気になったのは、不登校の同級生・・・。 奇想に基づくストーリーですが、作者、そして魂が語ろうとしているのは、苦しいことや嫌なことがあろうとも、生きるということの素晴らしさ、大切さ。だから、それを自分から手放すようなことをしてはいけない、ということ。 本ストーリーの中で、いつのまにか魂が、見事な成長を遂げている処が楽しい。しかもしたたかに。 児童向けですけれど、大人が読んでも十分に感動できる作品。 お薦めです。 プロローグ/三月/四月/五月/七月/八月/九月/十月/十二月/一月/二月/三月/最後の夜/プロローグ |
| 「ぼくのシェフ」 ★★☆ | |
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長谷川まりるさんには毎度驚かされます。 本作品、ファンタジー世界において、料理の道を究めようとする二人の少年の切磋琢磨するストーリーかと思って読み進んでいたのですが、終盤になってガラリと、そこに見える世界が一変しました。 本作の狙いは、最初からそこにあったのでしょうか。 長谷川さんにちょっと訊いてみたい気持ちになります。 13歳のシャールは、国一番の料理人である父親の跡を継ぐため、日々修業中。 ただ、思いやりが欠けている処があるという忠告を受け、父親はシャールに、慈善団体が貧しい人々たちに食べ物を提供する活動に参加するよう命じます。 その貧民街でシャールが出会ったのは、汚い身なりながら、天才的な料理の才能をシャールに見せつけた少年、アズレ。 それからシャールは、アズレの家に通い、彼に文字と料理を教え始めます。 そして2年後、「食死病」(食べ物から死の臭いを感じてしまい食べられなくなる病)に掛かって父親が死んだため、シャールは15歳の身でレストランのオーナーシェフとなり、アズレを雇い入れるのですが、次第に二人の間には大きな溝があったことが明らかになっていき・・・。 料理とはどうあるべきか、その考え方をめぐって決別した二人が本当に大事なことに気づくまでのストーリーという感じ方もあると思います。 しかし、私が強く感じたのは、自分と異なるところのある人間を理解するのは本当に大変であること、でも諦めなければいつか互いに分かり合える時が来る、ということです。 そのことに、胸を揺さぶられるような感動を覚えました。 児童向け作品ですが、物語の奥深さ、そこに籠められたメッセージは大人向け作品に全く引けを取りません。 お薦め! |