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1.海を見に行こう 2.UNTITLED 3.鏡よ、鏡 4.女の子は、明日も。 5.砂に泳ぐ(文庫改題:砂に泳ぐ彼女) 6.そのバケツでは水がくめない 7.見つけたいのは、光。 8.This is the Airport |
「海を見に行こう」 ★★ | |
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海辺の街を舞台にした短篇集。 どの篇も好い、と言い切れないところがちょっと残念ですが、冒頭の2篇+表題作が秀逸。 どの篇も、光り輝く海の景色がポイントになっているようです。多少苦味もありますが、海の景色を感じながら清々しく感じることの多い短篇集です。 海風/キラキラ/笑う光/海のせい/小さな生き物/海を見に行こう |
「UNTITLED アンタイトル」 ★★ | |
2015年07月
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何事にもそつがなく、職場でも優秀という評価を得ている女性、宮原桃子(とうこ)、31歳。 しかし、上記の展開は驚きや騒動より、むしろホッとするような雰囲気を生みだします。それは何故なのか。桃子の言い分は正論かも知れませんが、固っ苦しいのです。 宮原家の4人が二度目に揃った場面でのやりとりがすこぶる愉快、噴飯ものと言って良いかもしれません。 1.弟、帰る/2.弟の恋人/3.母の不審/4.母、貢ぐ/5.父の不在/6.父、笑う/7.私の家族/8.私の名前 |
「鏡よ、鏡」 ★★ |
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2016年12月
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同じ化粧会社に美容部員として入社した佐々木莉南(リナ)、仁科英理子(エリコ)の2人が主人公。 対照的な性格の2人は当初こそ理解できない相手のそぶりに反感を抱きますが、やがて自分にはない相手の長所を認識して、大の親友になっていく。 しかし、仕事上で起きたある事件をきっかけとなって、その性格と状況故に2人の進む道は分かれ・・・・。 鏡を見るという行為をモチーフに、化粧品会社の販売店という舞台を背景にて、若い女性2人の友情と訣別を描いた長編ストーリィ。 就職して同じ職場に配属される。性格が正反対だけに反目もしますが、目を変えれば相手の良いところがきちんと見える。 この辺りはテンポもよく痛快で、読み応えがあります。 しかし、職場とは理想通り、理屈通りにはいかないもの。そのことが2人の友情をまで分かちてしまうのでしょうか。 どちらが主人公、どちらが良い悪いとも言えかねるだけに、ハラハラすると同時に心痛む思いがします。 佳境に入った後の展開があっさり済まされてしまい物足りなくも思いますが、それを十分補っているのが、結末の見事さ。 苦汁を経てお互いに成長した後にまた向かい合うことのできる友情の、何と確かで美しいことか、と思います。 途中で目を覆いたくなる場面もありますが、それは全て最後のシーンのためと思えば、十分納得できます。 読み応え十分な、若い女性2人の友情と成長の物語。 |
4. | |
「女の子は、明日も。」 ★★ | |
2017年02月
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千葉の片隅にある公立高校の同級生、当時はさして親しい仲でもなかったが、32歳になった今、東京で再会してみるととても懐かしい。そんなことで月に一度定例的に食事会を行っている女子4人の夫々を描いた連作式長編小説。 同じ年代の女子を夫々に描いた作品はというと、今やそれ程珍しいとは思いませんが、本作品ではかつての同級生、4人とも結婚しており、子供はいない、という共通項があるのが特徴でしょうか。 4人の違いを象徴するのが夫々の夫像。実に多彩でそこに面白味があり。 女の子は、あの日も。/女の子は、誰でも。/女の子は、いつでも。/女の子は、明日も。 |
5. | |
「砂に泳ぐ」 ★★☆ (文庫改題:砂に泳ぐ彼女) |
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2017年06月
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主人公の蓮井沙耶加は、地元の国立大学を卒業して携帯販売会社勤務、過不足のない恋人もいる、というまずまずの状況。 |
「そのバケツでは水がくめない」 ★★ |
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2021年01月
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読み始めてすぐ、あぁ、もう読みたくないなぁ、と思ってしまいました。 ファッション業界が舞台、若い女性2人が主要登場人物となるストーリィ、何となく予感が働いてしまったということか。 決して作品がつまらない、嫌な作品ということではありません。ただ、やりきれない思いに囲い込まれてしまいそうな作品、という不穏さを感じてしまった次第。 主人公は佐和理世。転職して4年前に中途入社した中堅アパレルメーカーで、2年前に本社の企画・生産課へ異動、現在はマーチャンダイザーの職にあります。 今回新たなブランドを立ち上げることになり、理世はそのメンバーの一人として選ばれます。 その理世が偶然出会ったのは、“kotori”という名で活動する同世代の無名デザイナー=小鳥遊美名。 彼女の感性に惹きつけられた理世は彼女を早速スカウト、その期待に応えるかのように美名のデザインは人気を博し、新ブランドは好調に滑り出すのですが、次第に美名は・・・。 人を傷つけることに、何の痛みも感じないどころか、そもそもそうした感覚が欠如している人物、次第に増えているのではないかという危惧を感じさせられるストーリィです。 現実問題として、ストーカー、モンスターペアレンツという例もありますし。 優しい人ほど、自分にも悪い点があったのではないかと思うからこそ、自分自身が追い詰められてしまう。 難しいことなのでしょうけれど、誰かに相談する、時には逃げることも最良の選択肢。 現代社会では、そんなリスクがあちこちに横たわっているのかもしれません。本ストーリィ、ひとつの教訓として受け止めたという気持ちです。 途中、やり切れない思い、キツイ思いもしたストーリィですが、最後は安らいだ気分を与えてもらえて、思わずホッ。 1.この雨の名前/2.雨が止んだら/3.私の名前は美名(みな)/4.ねえ、リーゼ/5.There's a hole in the bucket/6.一滴、一滴、水がこぼれ落ちる/7.そのバケツでは水がくめない/最終章.やさしい雨 |
「見つけたいのは、光。」 ★★★ | |
2025年02月
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亜希、35歳。一歳の息子を育児中。 かつて妊娠を告げた途端に派遣止め、現在は休職中であるものの保育園が見つからない。夫の英治は育児に協力的だが、勤務先の料理店がブラック職場でままならず、亜希のストレスは増すばかり。唯一の慰めはシングルマザーのブログ“Hikari's Room”だったのですが・・・。 茗子(めいこ)、37歳。結婚して6年経つが子供はいない。会社でチームリーダーを務める茗子の配下にいる若手社員は子持ちが多く、産休や育休、育休シフトとその度に負担は茗子にかかり、ストレスと疲労は増すばかり。そのうえ、恋愛結婚した夫、実は自分勝手なろくでなしと今では分かっている。唯一のストレス発散先が“Hikari's Room”だったのですが・・・。 亜希と茗子、状況は対照的ですが、それぞれの苦労、葛藤、実にリアルでよく分かります。それだけでも十分読み応えがあるのですが、後半に至ってからが素晴らしい。 2人の子供を育てるシングルマザーの美津子・40歳と、上記2人が偶然にも出雲のホテル内にある小料理店で一堂に会するのですが、そこから始まる3人のトークが、抜群の面白さ。 最初こそ、お互いに遠慮し、警戒し合って軽くジャブという感じだったのが、お互いに通じる部分があると分かると、本音バトルが延々と続いていく、という感じ。 この場面で妙と思うのは、3人の本音トークに立ち会う人物として、ベテランの板前を一人」を配していることです。 この板前さん、まさに読者のアバターと言って良いでしょう。 会話は面白いもの、まして言い辛いことも、思い切って口に出してしまう、受け取る、この3人の位置取りが実にいい。 エピローグも楽しいのですが、必然的なおまけ、です。 是非、お薦め! |
「This is the Airport」 ★★ | |
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空港を舞台にした連作ものは、村山早紀「風の港−再会の空−」を読んだばかりという気がするのですが、それでも作家が異なれば趣きも違いますし、空港が舞台となればいつも心弾むものがありますので、本作も楽しみに読んだ次第です。 繰り返して言うまでもなく、空港を舞台にした連作ストーリー。 空港とは様々な人が行き交い、出会う場所であり、同時に旅立ちの場所でもあります。 そうした空港は私も大好きな場所で、度々利用したいと思うものの、中々そうは行かず、というのが残念なところ。 収録6篇中、冒頭篇と最終篇を除き、あとの4篇は空港では働くひとたちを主人公にした篇。 その点では<お仕事小説>といった面もあり、楽しみが膨らみます。 村山作品にはファンタジー要素を感じますが、本作はごく日常の一コマという印象です(但し最終篇を除く)。 ・「外国の女の子」:フランス人の女子高校生を一週間ホームステイさせることになった夫婦は空港に来るのも初めて。彼女と平気で会話する高校生の娘に感嘆。 ・「扉ノムコウ」:海外ツアー添乗員歴10年の加藤早織、彼女を待ち構えていたサプライズは・・・。 ・「空の上、空の下」:国際線ターミナル内にある書店の書店員である矢崎萌絵。うっかり売ってしまったのは・・・。 ・「長い一日」:グランドスタッフの東雲菜緒、高校時の夢はCAだったのですが・・・。 ・「夜の小人」:ディスプレイ業者の内田徹平。話題の空間プロデューサーからの依頼は、作業+製作ショー。 ・「This is the airport」:唯一、長年にわたるストーリー。空港に来ることができなくなった藤井瑠美、再び空港に足を運ぶまでにどれだけの半生があったのか・・・。 外国の女の子/扉ノムコウ/空の上、空の下/長い一日/夜の小人/This is the airport |