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1.ひとり日和 2.やさしいため息 3.かけら 4.魔法使いクラブ 5.お別れの音 6.わたしの彼氏 7.あかりの湖畔 8.花嫁 9.すみれ 10.快楽 |
風、ハッチとマーロウ、踊る星座、私の家、はぐれんぼう、前の家族、記念日 |
●「ひとり日和」● ★★ 芥川賞 |
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大学に行かず、かといって就職もせずといった主人公と、一人暮らしのおばあさんとの同居生活を描いた作品。
主人公の知寿が、遠縁にあたるおばあさん=吟子さんの家に同居することになったのは、高校教師をしている母親が交換留学制度で中国に行くことになったため。その間東京で暮らしたいという娘の願いを入れて、吟子さんの家への下宿を母親が決めたというもの。
親戚にあたるからといって吟子さんは保護者ぶる訳でなく、知寿も一緒に暮らす相手が年寄りだからといって特に遠慮する訳でもなく、たまたま一緒に住んでいるだけのくっつき過ぎず、でも離れ過ぎず、といったような関係。 そんなに急いで生きなくても良いのに、と思うことが時々あります。それならどんな風にしていたら良いのか?と問われたときの答えが、本書の中にあるように思います。 |
●「やさしいため息」● ★☆ |
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2011年04月
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友だちもなく、恋人は3ヶ月前に出て行ってしまい、毎日起伏の無い生活を繰返しているOL5年目のまどか。 そのまどかの前に、姿をくらまして以来久しぶりの弟・風太が現れ、しばらくアパートの同居させてくれという。 風来坊のような風太の、まどかの毎日を観察日記につけるという行為によって、ただ漫然と日々を過ごしているだけの彼女の生活ぶりが明らかになっていきます。 本作品はそんなOL・まどかの生活が、風太の同居によって少し風向きが変わる、変わることになるかもしれない、といったストーリィ。 「松かさ拾い」も「やさしいため息」と共通する雰囲気がありますが、ストーリィとしてはもうひとつ判りづらい。 やさしいため息/松かさ拾い |
●「かけら」● ★★☆ 川端康成文学賞 |
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2012年07月
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川端康成文学賞を受賞した「かけら」は、家族5人で参加する計画だった“さくらんぼ狩りバスツァー”に、父親と2人だけで参加することになった桐子を主人公として、年頃の娘とその父親の微妙な関係を絶妙に描き出した中篇。
年頃の娘からすると、父親と2人きりでバスツアー参加なんて、普通は嫌がるシチュエーションでしょう。 「欅の部屋」は、結婚による引越を目前に控えて、結婚相手の前に付き合っていた元恋人のことがしきりに思いだされる、という会社員を描いた中篇。 「山猫」は、新婚の杏子のマンションに、東京の大学を見学するため西表島から上京してきた従妹=栞が泊まるという、数日を描いた中篇。 3篇とも、微妙な関係を各々絶妙に描いて実に上手い。是非お薦めしたい一冊です。 かけら/欅の部屋/山猫 |
●「魔法使いクラブ」● ★★ |
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2012年04月
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これまで中篇という作品が多かったのですが、青山七恵さんとしては初めてと言っていい、かなりの長篇。
小学生時代を描いた第一章、主人公である少女=結仁は、幼馴染の葵、史人と3人で“魔法使いクラブ”を結成します。
いったい青山さんは本作品で何を書こうとしたのか。“魔法使いクラブ”というモチーフに捉われ、ストーリィの行き先を見失った気分です。 普通、子供の頃に抱くのはいろいろな夢でしょう。それが何故“魔法”だったのか。 読み終わった後に思い返す程、その重みを強く感じる、いささかの甘みもないシビアな、少女の成長小説。 |
●「お別れの音」● ★★ |
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2013年09月 2010/10/21 |
日常の中に潜む様々な別れの時を描いた短篇集。
別れと言えば別れ。そう思わなければ、ただそれだけのこととして終わってしまうこと。要は、受け留める側の人の気持ち次第、と言うべきなのでしょう。 殆ど何もしゃべらずに過ごしてきた先輩女性社員の退職、靴の修理を頼んだ相手の靴修理人、学食でよく見かける女子学生、間違いメールか?と思う相手、等々。 何故それらが「別れ」かといえば、それだけの想いがいつの間にか主人公側に生まれているからに他なりません。 ごく普通の日常生活から、ふとした一瞬を切り取る、というところに巧さがある青山さんらしい、短篇集と言えるでしょう。 新しいビルディング/お上手/うちの娘/ニカウさんの近況/役立たず/ファビアンの家の思い出 |
●「わたしの彼氏」● ★★ |
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2015年02月
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青山さんとしては初めてと言って良いのではないでしょうか、本格的長篇・恋愛小説。 ただ、一風変わっています。美男で人に優しい大学生の鮎太朗、何故か突然別れを告げられたり、突然年上の恋人に刺されたり、散々貢がされた女子高校生から突然ポイされたり、と。 一方、そんな鮎太朗が好きで好きで、諦めて他の学生と恋人付合いしたものの、それでもやっぱり鮎太朗のことが忘れられないでいる女子学生のテンテン。 山越え谷越え、時々は海に近づくという、線路のように延々と終わらない問題だらけの恋愛ばかり続ける鮎太朗。 そしてそんな鮎太朗に対し、いつまで経っても平行線という、これもやはり線路のような恋愛感情を持ち続けるテンテンという、2人を2軸にしたそれぞれの恋愛模様を描いたストーリィ。 鍵は鮎太朗の、青年としての人格にあるのですが、どうも幼少の頃から3人の姉たちに、好きなようにいたぶられ、もて遊ばれてきたトラウマにありそうです。 そしてそれは、大学生になっても余り変わりない様子。 じれったくもあり、アホらしくもなり、それでもどこかユーモラスで、不思議と温かさの伝わってくる恋愛作品。 恋愛とは、理不尽、不条理なのだから仕方ないのだ、と受け入れるべきなのでしょうか。 どうとも分類できない、新しくも風変わりな雰囲気が、本作品の面白さ、魅力と言ったら良いでしょうか。 |
7. | |
●「あかりの湖畔」● ★★ |
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2014年11月
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主人公の灯子(とうこ)は26歳、山の上の湖畔にある食堂を父親から引き継いで営んでいる。夏のシーズン中だけは賑わうが、それ以外の季節は閑散としているのが実情。 三姉妹の長女でもあるその灯子、ことさらに変化のないことを拒否するかのように願い、また自分を今の状況に縛りつけているという風。何故か。そこには彼女が家族に対して抱えている秘密があるらしい。 三姉妹の母親は、今から15年前に何も言わずに家を出ていったきり。その事情に灯子が何らか関わり、彼女は自分が母親を家から追い出し、また家族を壊したという自責の念をずっと抱いているらしい、と判ります。 本書は灯子、悠、花映という三姉妹を中心に、家族、彼女らの周辺にいる人々との繋がりを描いた長篇作品です。 本書の主人公である灯子が、全てに亘って消極的、変化を拒むという風で、そのうえ何かとはっきりせず、そのくせ頑迷という印象。 ですから読んでいてじれったくも、面白くないとも感じ出します。 その印象が一転して変わるのは、終盤、ストーリィが急転回し、ちょっとスリリングな様相を見せる為です。 そこに至って初めて、この長篇ストーリィをしっかり読まされていたことに気づきます。そう気づいて故に知る満足感、中々の味わいです。 ごく普通の長篇小説と感じられるのですが、どこかに青山さんらしさが隠れている筈。青山七恵さんが新たな一歩を踏み出した、と感じられる作品です。ファンにはお薦め。 |
8. | |
●「花 嫁」● ★☆ |
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2015年04月
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和菓子屋を営む仲の好い4人家族、その一人一人を各篇の主人公としながら、家族が離散していく行程を描いた連作風長篇小説。 「離散」という言葉を使いましたが、それは“家族”というものが永遠ではなく時間が経てば変わっていくもの、そして最後にはこれまでの家族がバラバラになりその代わりに新しい家族が生まれていくという、いわば当然のことを意味しています。 しかし、巣立っていない子供としてみれば、家族は永遠に続くものと信じていても何ら不思議はないことでしょう。 本書冒頭の篇「大福御殿」は、21歳の大学生である娘=若宮麻紀が主人公。兄が婚約したと知り、家族に異分子が入り込んできて家族に変調が起きるのではないかと恐慌にかられます。 その麻紀、兄のベッドにもぐりこんで一緒に眠ることもあるという。この辺りちょっと危ういものを感じさせる設定です。 それから、兄の和俊、父親の宏治郎、母親のさおりと各篇の主人公を代えつつ語られる中で、実は一家には秘密があったこと、そして和俊の結婚を機に大きな転機を迎えることが描かれていきます。 冒頭妖しいものを感じさせるところから始まった本ストーリィ、後半では予想もしなかった衝撃的な展開へと変わっていきますが、俯瞰してみればそう驚くことではないのかもしれません。 親子はいつまで経っても親子ですが、子が成長すれば離れていくのは当然のこと。そして夫婦は、別れてしまえば元の他人関係に戻るだけ。 それが“家族”というものの正確な姿。 本書は、そんな当たり前でありながら普段見過ごされている事実を、改めて直視してみせた作品でしょう。 「あかりの湖畔」の姉妹編と言ってよい作品ではないかと思います。 大福御殿/愛が生まれた日/お父さんの星/旧花嫁 |
9. | |
●「すみれ」● ★★ |
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2015年03月 2012/06/27 |
1996年秋〜97年冬にかけ、レミちゃんは榎木家に居候した。 レミちゃん=37歳の元文学少女と、密かに小説家を志望している15歳の藍子(主人公)が共に過ごした切ない1年間を描いた物語。 藍子の両親が学生時代からの友人であるレミちゃんを我が家に迎え入れたのには、事情があるらしい。 そのレミちゃん、やせ細って不安そう。37歳という年齢にもかかわらず、その心の有り様はまるで藍子と同年代の少女のよう。 友人らが気遣うレミちゃんの事情は、終盤になって漸く藍子に打ち明けられますが、現実は善意だけでは済まないもの。 両親にとってはレミちゃん以上に一人娘である藍子を含めた家族が大事であり、受験生で志望校にD判定を受けている藍子にとって受験はやはり大事。そしてまた、レミちゃん自身にも問題はある。 人に手を差し伸べること、それがどんなに難しいことであるか切々と語った長篇小説。 しかし、誰かを直接救うことができなくても、そういう気持ちを持ち続けていればたとえ微力であろうと人は何かを誰かのためにすることができるかもしれません。 そう信じることができる限り、希望はある、そう告げられているように感じます。 |
10. | |
「快 楽」 ★★☆ |
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2015年04月
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二組の夫婦がヴェニスに旅するストーリィ。 実業家であるらしい榊慎司と耀子、その榊が常連客となっている喫茶店を営む小谷徳史と芙祐子。 榊夫婦が後からヴェニスに着いて小谷夫婦と合流する、その冒頭から不穏な空気に満ちています。 そもそもそれ程親しい仲でもなく、境遇や性格も異なる二組の夫婦が一緒に外国旅行をするなどと・・・。 一緒に定番の様な観光地巡りを始める二組の夫婦ですが、次第に各自の胸の内が明らかにされていきます。 実はこの旅行、慎司がある目論見をもって小谷夫婦を誘った、と判ります。その目論見自体が極めて不穏当なもの。 4人の中で唯一平凡な存在だったと思われる芙祐子が後半、突如失踪してしまうという小さな事件が起こったことをきっかけに、トライアングルのようだった他の3人のバランスが崩れ、3人それぞれが魔窟に落ち込んでしまったような展開へ・・・。 本書題名となっている“快楽”とは一体何を示しているのでしょうか。快楽を得ようとしてもそれは本来人の手に余るもの。逆に自分の内を揺すぶられ、足元を崩すことにもなりかねない、そんな気分に襲われます。 それ故に最後、4人の姿には不気味さえ感じます。 決して読んで楽しい作品ではありません。でも本書に満ちている不穏さは読み手を惹きつける力ともなっています。 青山七恵さんがこうした作品を書いたことに驚く思いです。 |