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1.頭のうちどころが悪かった熊の話 2.天のシーソー 4.呼んでみただけ 7.満月の娘たち 8.夜叉神川 9.ワルイコいねが |
●「頭のうちどころが悪かった熊の話」●(絵:下和田サチヨ) ★★ |
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2011年12月 2010/10/30 |
「小さな童話大賞」今江祥智賞を受賞した「いただきます」を含む動物寓話7篇。 いずれも生きる意味について考えるストーリィになっています。児童向け短篇集ですけれど、常にひとつピリリと、人生の厳しい面が隠し味として付け加えられているところが、本寓話集の妙味。 「頭のうちどころが悪かった熊の話」は、何かの所為で頭を打って一部の記憶を失ってしまった熊が、レディベアって何?と探しまわるお話。ユーモラスですけれど、意外に人生の深淵を感じる一篇でもあります。 旅人が出会ったトラから彼の悩みを聞いてあげる「いただきます」、オタマジャクシとヤゴの友情を描いた「池の中の王様」の2篇が私は好きです。 頭のうちどころが悪かった熊の話/いただきます/ヘビの恩返し/ないものねだりのカラス/池の中の王様/りっぱな牡鹿(おじか)/お客さまはお月さま |
●「天のシーソー」● ★★☆ 椋鳩十児童文学賞 |
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2012年08月
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小学生であるミオの、ごく普通の日々を描いた連作形式のストーリィ。 後から思えば何でもないような、ごく日常の出来事が積み重なって少女時代が築かれていく、本書を読んでいるとまさにそうしたことに気づきます。 そんなミオの日々の中にも、やはりミオの成長はあります。近所に住む年上の少女に労わられていた時期から、逆に幼い兄弟の相手をしてやり、同級生と心と心の触れ合いがあったり、妹のために勇気をふりしぼって行動しようとすることも。 理屈ではなく、家族との触れ合い、同級生との触れ合い、見も知らぬ他人との触れ合いを通じて、日々成長していく少女の姿を描く、瑞々しい作品。お薦めです! ひとしずくの海/マチンバ/針せんぼん/天のシーソー/ラッキーデイ/毛ガニ |
●「夕暮れのマグノリア」● ★★ |
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続けて読んだ所為か、「天のシーソー」の後にくる物語、という印象が強い。主人公も中学生になったばかりの少女=灯子という設定でもありますし。 1章ずつ、同級生等々との関わりを通じた成長物語の一片を積み重ねる、という構成が小気味良い。 また、灯子がひそかに意識している関田くんとの触れ合いを描いた「黒森の宵まつり」、同級生である凛さんの立ち位置といい、この篇もまた中々楽しい光景を見出すことができます。 プロローグ |
●「呼んでみただけ Just Called You」● ★★☆ |
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6歳の息子・遊太に請われてママが物語るお話の数々、等の趣向からなる12章。 自分で本を読むより、語ってくれるお話を聞く、という方が幼い頃には楽しかったと思います。 一見、子供向けのお話集と思えるかもしれませんが、本書は大人にこそ向けたお話し集。子供の頃にお話をしてもらった時の楽しさが、懐かしさいっぱいに蘇るようです。 私の好みからすると「へそまがりの魔女」が第一なのですが、冒頭の「星に伝えて」とか「冬の花咲いた」、「サメのいる海」、「大地のえくぼ」等も良いんだなぁ。(※要はどのお話も皆良いということですが。) 星に伝えて/永久歯/ストロベリーショートケーキ/月夜の影ふみ/冬の花咲いた/きょうりゅうのタネ/サメのいる海/モグラのねぐら/大地のえくぼ/へそまがりの魔女/ふっくらすずめ/あるところとないところ |
5. | |
「ワンス・アホな・タイム」 ★★ |
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「むかしむかし、あるところに・・・」といったお馴染みの出だしで始まる、童話的ストーリィ7篇。 「ワンス・アホな・タイム」というギャグ的な表題とユーモア交じりの各篇題名から、おふざけ的な短篇集かと思ってしまうのですが、いやいやとんでもない、どれもとても楽しく、そして温かさに満ちている優れもの短篇集なのです。 「むかしむかし・・・」童話で描かれたハッピーエンドって、実は短絡的にして単純、現代にもってくると展開や結末も随分と違うのだろうなぁとはっきり感じさせらたのが、本短篇集です。 「おめざめですが、お姫さま」のお姫さまの達観は見事な処世と思いますし、「バカなんだか利口なんだか」の若者の価値観は極めて現代的で思わず笑ってしまう。 また、「きみの助言」と「魔法のパンの実」では、思いも寄らなかった○○○で読み手を楽しませてくれます。 「呪われた王子たち」の王子兄弟も、現代若者像にそっくりと言って差し支えないと思います。 本書の登場人物の中では、「魔法のパンの実」の主人公である少女国王、「呪われた王子たち」の脇役である娘が、私は好きだなぁ。 なお、最後の飾る「木霊の住む谷」、いつまでもどこまでも響き伝わっていくような余韻に情趣があって、素敵です。 児童向け本ですが、お薦め。 おめざめですか、お姫さま/バカなんだか利口なんだか/きみの助言/魔法のパンの実/ウミガメの平和/呪われた王子たち/木霊の住む谷 |
6. | |
「ゆめみの駅 遺失物係」 ★★ |
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2017年09月
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がっかりすることに慣れ切ってしまった女子中学生の主人公、電車の中でふと独り言を呟いてしまった時、乗り合わせたおばあさんが「いしつぶつがかりに行ってみたらいいですよ」と言われます。 いつもの由米美濃駅で降り、駅舎の奥にあった渡り廊下のような長い通路を進むと、つきあたりに「遺失物係」という看板の掛かっていたドア。 遺失物係の男の人に訊ねられて、主人公は自分が失くしたものが「おはなし」だったと気付きます。 「拾得物語台帳」を取り出した係の人が曰く、「拾われて届けられた物語は、ぜんぶここに保管してあります」と。 月曜日に始まり、主人公は毎日のように遺失物係に通い、係の若い男の人に拾われた様々な物語を読み聞かせてもらいます。 それは主人公だけでなく、様々な人が失くした物語を探しに遺失物係を訪れてきます。 そこで語られた幾つもの物語、果たして主人公は自分の物語を見つけることができるのでしょうか・・・。 拾われた物語が届けられる場所、という不思議なシチュエーションも魅力なのですが、主人公が訪れる度に遺失物係が読んでくれる不思議な物語の数々も、何とも魅力。 それに連れて主人公の心が少しずつ解けていくような歩みにも、心がほんのり温まる気がします。 月曜日(冬のひだまり)/火曜日(飛べない鳥)/水曜日(バク)/木曜日(夢のおうち)/金曜日(幸福の蝶)/土曜日(まっくらけっけ)/日曜日(青い人魚とてんとう虫) |
「満月の娘たち」 ★★ 野間児童文芸賞 |
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母親と娘との関係って、どこでも同じような傾向があるのでしょうか。母親はいちいち干渉したがり、娘はその度に煩がり、反抗心をもたげる、といったような。 (我が家の母娘関係も、似たところがありますねー。) 本作の主人公は中一の志保。 同じ中一生の美月は、同じ病院で同じ日に生まれたことから、幼いころからの親友づきあい。 美月から誘われて志保は、近所で幽霊屋敷と噂されている古い洋館、今は誰も住んでいない<昭和邸>に忍び込みます。 すぐバレて叱られた志保は、母親に命じられ、昭和邸の現在の持ち主であるという五嶋繭の元へ謝罪に行かされます。 おかげで、ドールハウス作りをしている若い繭と知り合った志保は、ちょうど保育園からの付き合いである祥吉が繭と親しげなところに受け入り、自分も美月と共に繭のところへ出入りするようになるのですが・・・。 何かと干渉しいつも命令口調の母親に反感を覚える志保、兄ばかり大切にし自分を軽視する母親に寂しさを抱えている美月、そして亡くなった母親に対して繭も・・・。 母娘関係が本作の主テーマだと思いますが、それだけでなく、志保と美月の友情、中一生の幽霊屋敷冒険というストーリィ要素も魅力充分。 女性読者なら共感を覚えるところ多い作品だと思いますが、男性である私としては祥吉が好きだなぁ。 |
「夜叉神川(やしゃじんがわ)」 ★★ | |
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ごく普通の子供たちの胸の中にも、鬼が潜んでいることがある、本書はそんな景色を描く短篇集。 「夜叉神川」という題名、各ストーリィに登場する夜叉神川が象徴的。夜叉=鬼神。鬼でもあり、神でもあるのですから。 考えてみれば、人間を超越した存在を“神”とか“鬼”とか区別するのは、人間の勝手な所業なのでしょうから。 ・「川釣り」:友人と一緒に川釣りに出掛けた主人公、そこで気付いた友人の姿は・・・。 ・「青い金魚鉢」:心を傷つけられた不登校になった従姉が頼ったものは・・・。 ・「鬼ヶ守神社」:同級生のためにと思う余り、彼女がとった行動は・・・。 ・「スノードロップ」:いつも不機嫌な松井老人、吠えてばかりの老犬=ゴン、そこに秘められた思いは・・・。 ・「果ての浜」:中学入学前の春休み、岳は弟の翔を連れて西表島の自然と歴史を学ぶツアーに参加します。その島で岳が弟と共に出会ったものは・・・。 “鬼”とは人間の心の中にある暗部なのかもしれません・・・恐ろしさとスリリング、そして<暗>だけでなく<明>もあるのが人間、と思いを新たにする短篇集です。 川釣り/青い金魚鉢/鬼ヶ守神社/スノードロップ/果ての浜 |
「ワルイコいねが」 ★★ | |
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主人公は小学校六年生の山之内美海(みみ)。 美海が通う書道教室に新しく入ってきた津田アキト(亜希人)から友だちになりたいと言われ、友だちに。 そのアキト、少し前に隣のクラスに転校してきた女子。 幼なじみの小太郎がいうには、相手の気持ちを考えずに口を利くので、クラスの皆から引かれている、ちょっとやばいやつかも、と。 そのうえ、他所の家の法事を窺っていたり、葬式に入り込んだりするといった奇矯な行動も。 美海、アキトは自分の思いにバカ正直なだけ、と思うのですが。 津田アキトという転校生女子がユニーク。 思ったことをそのまま何でも口にしていたら、さすがに人間関係はこじれそうですが、だからとって周りを気にして口をつぐむ、自分を隠して我慢してばかりで良いのか、とも思う処です。 子どもが子どもらしくなくなっているのか、今はそういう時代なのかと思うと、むしろ危惧を感じます。 そんなアキトと美海の、時々秋田弁が入り交じる友情ストーリーは、結構楽しい。 題名の「ワルイコいねが」は、秋田の伝統行事“なまはげ”が口にする脅し文句。 いい子とか、悪い子とは、何でしょうね。そう簡単に決めつけて欲しくないと思います。 ただ、そう決めつけさせているのは、大人なのかも? 子どもも今は大変です。 |