|
|
「正しき地図の裏側より」 ★★ 小説すばる新人賞 |
|
|
主人公の井口耕一郎は冒頭、定時制の高校生。 母親は耕一郎が生まれてすぐ離婚して家を出て行き、ずっと父親と二人暮らし。真面目な父親だったが、仕事上で事故を起こして失職、それ以来酒と賭博浸り。 ある日、耕一郎の貯金を持ち出して賭博でスッたばかりか、とんでもない事を言い出したため、耕一郎が激昂。父親を散々に蹴とばし、夜の雪の中に放置。 父親を殺してしまったと思い込んだ耕一郎は、家から出奔、東京へ出ますが、仕事を得られないばかりか所持金を奪われ、ついにホームレスの仲間入り。 そこから始まり数年にわたる耕一郎の、都会の片隅で生き抜いていく彷徨記、というストーリー。 なお、時代は1990年代。 決して罪からの逃亡というだけのストーリーではありません。偽名を名乗り、社会保険の恩恵は得られないという、何も持たない処からどう自分の生きる道を築いていくか。 その辺り、読み応えもあり、また興味深く、面白さもあり、という処。 その過程で耕一郎が出会う、三浦、浜さん、相葉のおっちゃんという人物たちがいずれも味わい深い。 長い年数を経て耕一郎は、自らの意思で故郷に戻るのですが、そこで待っていたものは・・・。 ドラマチックな展開はありませんが、何もないところから懸命に生き抜いて自分の道を開いていった青年を描いた本ストーリー、面白かった、という一言。 お薦めです。 |