逢坂冬馬
(あいさか・とうま)作品のページ


1985年生、明治学院大学国際学部国際学科卒。2021年「同志少女よ、敵を撃て」にて第11回アガサ・クリスティー賞を受賞し作家デビュー。同作にて2022年本屋大賞を受賞。


1.同士少女よ、敵を撃て 

2.歌われなかった海賊へ 

3.ブレイク・ショットの軌跡 

  


       

1.

「同志少女よ、敵を撃て ★★☆   アガサ・クリスティー賞・本屋大賞


同志少女よ、敵を撃て

2021年11月
早川書房

(1900円+税)

2024年12月
ハヤカワ文庫



2022/01/07



amazon.co.jp

1942年、モスクワ近郊の農村イワノフスカヤ村で母親と暮らす少女セラフィマの日常は、突如として村を襲って来たドイツ軍によって奪われる。
母親はじめ村人全員が惨殺され、セラフィマ自身の命も危うかったところ、赤軍兵士に救われます。
その中にいた女性兵士
イリーナから「戦いたいか、死にたいか」と突き付けられたセラフィマは、母親を撃ち殺したドイツ人狙撃手に復讐するため、狙撃兵となる道を選びます。
そこから始まる、狙撃兵としての成長と戦闘の物語。

イリーナが教官を務める訓練学校にて女性狙撃兵になるための訓練、後に狙撃専門小隊である「
第39独立小隊」の仲間となる同様の経験を経た女性たちとの出会いと確執、そして実戦であるスターリングラード攻防戦ケーニヒスベルク攻防戦へ。

セラフィマの冒険、狙撃手としての成長、そして復讐譚というストーリィ展開は、存分に面白い。
女性狙撃兵たち一人一人の人間性も、しっかり書き込まれていますし。
さらに、戦闘、そして狙撃場面のリアル感もたっぷりです。
この揺るぎない完成度、これがデビュー作?と驚かされます。

一方、今、何故この物語なのか?と考えざるを得ません。
戦争が如何に人を狂わせ、変えてしまうということか。
自分を見失わないためには何のために戦うか、という目的意識をもつことが必要、ということか。
戦争においていつも被害者にされるのは女性である、という問題提起か。
それは読者一人一人が自分で考えるべきことかもしれませんが、侵略側が相手を劣等民族として見下す姿勢、アジア太平洋戦争における日本軍に共通する問題ではないかと改めて感じます。


プロローグ/1.イワノフスカヤ村/2.魔女の巣/3.ウラヌス作戦/4.ヴォルガの向こうに我らの土地なし/5.決戦に向かう日々/6.要塞都市ケーニヒスベルク/エピローグ

            

2.

「歌われなかった海賊へ ★★☆   


歌われなかった海賊へ

2023年10月
早川書房

(1900円+税)



2023/11/15



amazon.co.jp

舞台は、ナチス敗戦間近のドイツ国内にある小さな町。
母親は既に病死、ヒトラーを誹謗した罪で父親が処刑されて一人となった少年
ヴェルナーは、犯罪人の息子という理由で少年団からも放逐されて居場所を失っていた。
 
そんなヴェルナーが出会ったのは、ナチス体制下の青少年教化に抵抗する
“エーデルヴァイス海賊団”と名乗る少年少女=レオンハルトエルフリーデの2人。
新たな仲間、居場所を得たヴェルナーは、2人と共にナチス体制への抵抗というべき活動を繰り広げていきます。
そして、町まで新たに鉄道が敷設されることになったと喜ぶ大人たちの傍らで3人は、その線路の先に強制収容所が設けられており、次々と大勢の囚人がそこに列車で輸送されている事実を知ります。
その事実を掴んだ3人は、どう行動するのか・・・。

“海賊団”、実際に存在したものだそうです。
ただ、組織化されたものではなく、各地で自然発生したもので、その行動はバラバラで、歴史に名を残すようなものではなかったそうです。
レオ、フリーデ、そしてヴェルナーも、抵抗運動などではなく、単なる“遊び”と自分たちの行動を標榜します。

歴史の傍らにあった事実を小説化したもの、というぐらいの認識で読み進んでいたのですが、本ストーリィに秘められた重大なメッセージに気づいたのは、最後の最後になってから。
「歌われなかった海賊へ」という不思議な本書題名に、何と大きな意味が籠められていたことか。
そこには、大人と子供、その間に横たわる永遠の課題があるように感じます。

前作「同士少女よ、敵を撃て」に優るとも劣らぬ圧倒力を持つ力作、是非お薦めです。

          

3.

「ブレイクショットの軌跡 ★★☆   


ブレイクショットの軌跡

2025年03月
早川書房

(2100円+税)



2025/04/10



amazon.co.jp

大きく分けて舞台は二つに分かれます。
片や日本、片や中央アフリカ共和国。

日本を描く一章から六章には、様々な人物が登場します。
・一章の主人公は、大学時代に出会った
宮苑秀直に誘われてファンド会社起業に参加、現在は副社長の地位にある霧山冬至
その冬至、息子の修吾に高学歴コースを歩むよう求めますが、修吾本人はプロサッカー選手の道を夢みている。
その修吾の友人でサポート役でもあるのが後藤晴斗。父親は板金職人であり、冬至はそんな晴斗一家との付き合いに否定的。
・二章は、晴斗の父親である
後藤友彦。真面目で善良かつ温厚な人物ですが、自動車事故で深刻な障がいを負ってしまう。
・三章は、
霧山修吾。晴斗の応援を受けてプロサッカー選手を目指そうとしますが、修吾・晴斗とも父親の事情が一転したことにより、窮地に追い込まれます。
・四章は、不動産会社の社員で詐欺的な投資用マンション販売を支社長から強要されている
十村稔。さらに盗難被害の自作自演まで強要されて・・・。
・五章は、
後藤晴斗。スカウトされて経済セミナーの講師になりますが、主宰者である志気和馬の意図に不審を感じ・・・。
・六章は、志気和馬。今に至る彼の背景が描かれます。

また、
「ホワイトハウス」はアフリカで反乱軍の兵にされた少年二人が思わぬ事態に陥るというストーリー。

要は、岐路に立たされた時、どう選択するか、の物語。
辛く困難が待ち受けていたとしても正しい道を選ぶか。それとも間違った道と知りながら、諦めて力に屈する方を選ぶか。

一寸先で何が起こるか分からない、そんな本ストーリーの展開はサスペンスといっても遜色なく、まさに読み応えたっぷり。
とくに「六章」における志気と晴斗の対決が圧巻!
読者は誰しも、もしそれが自分だったらどう選ぶか、とその都度考えてしまうに違いありません。この面白さ故に、お薦め!

※なお、表題の
「ブレイクショット」は、ビリヤードの用語を借りて、どう玉を打つかということであり、本ストーリーで所有者を転々とする日本製SUVの車種のことでもあります。

プロローグ/アフリカのホワイトハウス1/一章.マネ、ライフ、ゲーム/二章.取り柄は善良さ/アフリカのホワイトハウス2/三章.僕らの夢は/四章.狩り場の七面鳥/アフリカのホワイトハウス3/五章.後藤晴斗の野望/六章.闇から光へ/アフリカのホワイトハウス4/エピローグ

          

  

to Top Page     to 国内作家 Index