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1.ジャン・クリストフ 2.魅せられたる魂 4.愛と死との戯れ |
●「ジャン・クリストフ」●
★★★ 1915年度ノーベル文学賞受賞
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1969年10月 1986年6月
1976/09/05 |
天才的作曲家ジャン・クリストフの、社会に抗して真実を貫くとする闘いの生涯を、芸術上の苦悩や友情、恋愛などを絡めて描いたヒューマニズム溢れる大河小説。 クリストフは、ライン河畔の小さな町に、飲んだくれの音楽家を父として生まれますが、天才的なひらめきを幼少の頃から示す。しかし、彼は社会に妥協することなく、自分の音楽を貫こうとする為、社会と真っ向から対立し、苦難の道を歩む事になります。 本作品は、一音楽家の生涯を描いた小説というより、ロマン・ロマン自身の社会への挑戦である、と感じます。 クリストフの激しい生命力と率直さは、周囲の人々に影響を与えずにはいない。彼の生み出す音楽よりも、彼自身の存在によって彼は人々に生をもたらす。 |
1978/04/30 |
ジャン・クリストフの生涯は、闘争の一生である。 クリストフは常に戦いの中に自ら飛び込み、そして孤独に苦悩し、闘争する。 全編を流れる大きな力は、抵抗の、戦いの力である。それは、ロランのもうひとつの代表作「魅せられたる魂」のアンネット・リヴィエールの母性的な広い愛情と異なり、男性的で、孤独性の強いものである。 クリストフの子供時代の部分には、何かぎくしゃくしたものを感じる。作者があまりにストーリィを描こうとし過ぎたからのように思える。本作品で最も力強いのは、パリ時代のクリストフである。もはや何にも束縛されないクリストフの強い精神と、自分の目的に向かって一途に突き進む彼の姿に魅せられる。 その過程で、クリストフはその強い精神力によって、他人にも感化を及ぼしている。最後の日々に孤独な生涯を送った筈のクリストフが、実は自分は孤独ではなかった、幾つかの魂と共に闘い歩んできたと悟るように、彼は意識しないうちに大きな流れを起こし、幾つかの魂を流れに乗せて運んでいたのである。クリストフ同様に孤独な戦いを強いられ、若く死んでいったアントワネットが、クリストフの魂にすがる思いを抱いていた部分には、涙せずにいられない。アントワネットの内には、後に大きな流れをなすに至るアンネット・リヴィエールの源泉を見ることができるのである。 後半、ドイツとフランスという2国の愛国心が警鐘されているようなところがある。クリストフは、ドイツ民族の素朴さと力強さをもって姿を現した。一方、オリヴィエ・ジャナンは、独り立ちできない弱さがありながら、フランス民族の聡明さと自由な精神をもっている。この2人の結合は、ロマン・ロランの理想ではなかったかと思うのである。後に、作者は、クリストフにイタリアの明るさと、大地に根付く力強さを与えている。これらのことから考えると、ロランは民族を超えた新しい時代の精神であり、その文学的表現が「ジャン・クリストフ」だったような気がするのである。 クリストフは、本作品の中で幾つかの稀な魂に出会っている。ゴットフリート伯父、女優コリンヌ、シュッツ老人、オリヴィエ、女優フランソワーズ、人妻アンナ。 これらの人々が内部にもつ善と誠実さを、クリストフは残らず吸収し、力強く明るい精神を周囲に発散し、人々を新たな明るい時代へと先導するのである。 オリヴィエの息子ジョルジュ、グラチアの娘オーロラの生活には、一切の苦しみも悲しみもない。クリストフは、「生まれ出ようとしている日」を自らの肩に担い、苦難の河を渡るのである。 その為、クリストフは一生を闘いに送り、孤独であり続けなくてはならなかったのである。 |
1980/04/13 |
大きな流れ、ドイツの片田舎、周囲の無理解、旧弊な社会の中で窒息し、苦悩し、反抗を試みる魂。孤独な闘い、絶望的な戦い故の苦しみ。 そしてパリ。であったオリヴィエの静的な均衡のとれた魂。2つの新たな魂は、お互いに補完し合い、徐々に周囲の人々に共に戦う輪を広げていく。 オリヴィエの死、再び死の淵まで覗き込む苦悩に充ちた魂、アンナとの狂おしい情熱。そして、そこから解脱したクリストフの魂は、落ち着いた、自我を捨てた、悠々とした魂の源泉である。 彼は、苦しみ、孤独な闘いから共に闘う仲間を得る。そして、ひとつの仕事、新たな世界を築く礎としての役目を終える時、彼は「生まれ出ようとしている日」を背負って、河を渡るのである。 本作品は、偉大な魂、人間としての尊厳を追求する魂の、闘いの物語である。作者の巨大なニューマニズムは、次第に力を増し、最後には大河となって、読み手の心を圧倒するのである。その渾身の迫力、巨大さ、熱情は、他に比べる作品がない。 |
●「魅せられたる魂」●
★★☆ |
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1922〜33年 新潮社版 1989年11月
1980/06/15 |
主人公アンネット・リヴェエールの成長を描いた長編小説。「ジャン・クリストフ」の女性版とも言える、同じくヒューマニズムに溢れた大河小説である。 本作品は「ジャン・クリストフ」より充実しているし、芸術度においても優っているように感じる。 アンネットは、自分というもの、その本質たる魂の自由を求めて、ロジェとの婚約を破棄する。 自分自身への強い欲求、魂への欲求から、彼女は反抗を企て、苦しい生活の中で、自分の内部に強い力を生じせしめていく。彼女の孤独な闘いにおいて、異母妹シルヴィの存在が欠かせない。 アンネットは、人間の生における魂の崇高さを求めている。 アンネットという女性は、最後にはその具体的存在の影を薄くし、大きな魂のリヴィエールでしかなくなる。この大河小説を脈々と流れる大きな果てがそこに現れる。最初は小さな流れにすぎなかったものが、今は大きな流れとなって目の前を過ぎていくのである。シルヴィもまたひとつの流れである。しかし、それは最後までアンネットの流れと合することはなかったけれど、常にその傍らを流れていたのである。 本作品は「ジャン・クリストフ」に比して女性的である。自分の子供たちに乳をやり、育てあげる。女性独自の魂の働きである。「ジャン・クリストフ」には、このような要素はみられない。しかし、クリストフにはアンネットにない、激しく、強い力がある。すべての障害を打ち壊し、自分を強引に推し進める力がある。クリストフの魂は子供を産むことはないが、芸術を、音楽を生み出す。それは、男性、女性の本能的な違いだろう。 |
●「ピエールとリュース」●
★★ |
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角川文庫刊 |
「ジャン・クリストフ」「魅せられたる魂」に比較すると、ごくささやかな一篇であるが、そこに謳われている愛の美しさ、戦争の醜悪さは、胸をうつものがある。 |
●「愛と死との戯れ」●
★★ |
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1927年10月
1977/02/27 |
フランス革命当時の社会を背景とした戯曲作品である。 |