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1.レベッカ 2.スケープゴート |
「レベッカ」 ★★☆ |
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2007年05月 2008年03月
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40年ぶりの再読です。ストーリィをすっかり忘れていると思っていましたが、読み終わった今、所々記憶に残っていたことを知りました。ただし、同時期に読んだ「ジェーン・エア」と似るところが多分にあるため、ごっちゃになっていた処もあります。
主人公は、寄る辺無く金持ち夫人の話し相手という仕事を始めたばかりの若い女性である“わたし”。 前半はそのマンダレーで、“わたし”が色濃く残る前妻レベッカの面影に萎縮しながら、自信無げに暮らす様子が描かれていきます。 そんな雰囲気が一転するのは後半に入って、レベッカに関わる、マンダレーに秘められた謎が明らかになってくるところから。
前半のまどろっこしさと、後半思わず一気読みしてしまうスリリングな展開。 600頁近い長篇作品ですが、読み終わってみるとその厚さは全く気になりませんでした。 |
「スケープゴート」 ★★☆ 原題:"The Scapegoat" 訳:務台夏子 |
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2025年01月
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本作題名は、「身代わりの山羊」。 フランスを旅行中のイギリス人歴史学者=ジョンは、ル・マンの街で自分に瓜二つのフランス人=ジャン・ドゥ・ギと出会い、互いに驚愕します。 その後二人で語らい、そしてジャンに誘われるまま同じ宿に泊まったジョンは、翌朝自分の服・荷物がすべてジャンに持ち去られていることに気付きます。 どうにもならない状況に立たされたジョンは、ジャン=伯爵を迎えに来た運転手ガストンに背中を押されるようにして車に乗り込み、ジャンの城=サン・ギーユへと向かいます。 そこでジャンの家族一同と会したジョンは、その複雑な家族状況と、一族が営んできたガラス工場の経営がのっぴきならない状況にあることに気付きます。 つまり、ジャンとは、家族を放り出して逃げ出した男。 そして自分は、その逃げ出した場所に足を突っ込んでしまったことに気付きます。 ハムレットの台詞ではありませんが、ジョンの選択肢は二つ、即ち去るべきか、留まるべきか。 つまり本作は“身代わりサスペンス”ではありますが、その本質は、身代わりとして窮地に陥れられた男の“悲喜劇”というべきでしょう。 孤独な身であった故にジョンは、次第にジャンの家族に愛情を抱くようになり、何とか事態を改善しようとしますが、それは上手くいきません。 ジョンの行動は、ジョンが思ったことと正反対のことを相手に感じさせてしまうのですから。それは、相手がジョンをジャンと見ている所為。入れ替わりという皮肉さがそこにはあります。 サスペンス小説ではありますが、昨今のようなエンターテインメントとは異なる、極めて文学的香りの高い作品。 情景描写といい登場人物描写といい、深いものがあります。その辺りがデュ・モーリア作品の魅力でしょう。 さて、本ストーリーの展開と結末は? それはもう予想すらつかないもので、流石は名作という処。 お薦めです。 |