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Pat Barker 1943年英国ノースヨークシャーの労働者階級の家庭に生まれる。大学で国際関係史を学び、歴史と政治の教師となる。82年処女小説「アイリスへの手紙」を発表、文学賞受賞ならびに映画化され、一躍注目を集める。第一次世界大戦を題材とする“再生”三部作にて作家としての地位を確立、第三作「The Ghost Road」にて1995年ブッカー賞を受賞。2000年大英帝国勲章を受賞。 |
1.女たちの沈黙 2.トロイの女たち |
| 1. | |
| 「女たちの沈黙」 ★★☆ 原題:"The Silence of the Girls" 訳:北村みちよ |
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2023年01月
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ギリシア連合軍と都市国家トロイア(イーリオン)との間で10年もの長きに亘って繰り広げられたトロイア戦争。 その最終年を描いたホメーロスの叙事詩「イーリアス」を、母国陥落の結果奴隷とされた女性視点から語り直した逸品。 主人公であるブリセイスは、トロイアの近隣都市リュルネソスの王妃。 敗戦により夫・兄弟たちは無論のこと、兵士たちだけでなく、男の子、妊婦たちも殺害された。 自死を選んだ女もいたが、ブリセイスは生きる道を選び、ギリシア連合軍の奴隷に、英雄アキレウスの戦利品とされた。 そう、奴隷=<モノ>なのです。 モノになるとは実際どういうことなのか。 それはその後の、ブリセイスに対する扱い、アキレウスと総大将アガメムノンとの対立模様から、実感されます。 モノであっても女である以上、所有者と奴隷の間に気持ちが通じ合うこともあります。 しかし、たとえそうであっても、モノである立場が変わる訳ではありません。 男は敵、すなわち人間扱いされるのでしょう。でも敵側の女となれば、そこはもう単なるモノ扱い、戦利品として扱われるだけ。 ならば、自分たち側の女性についてはどう思っていたのでしょうか。是非そこも知りたいところですが、残念ながら本ストーリーの枠外。 男たちが主役となってきた歴史の裏側で、女たちはどう生きて来たのか。その悲哀を強く感じさせられる傑作です。 ※なお、続編「トロイの女たち」は2026年 3月に刊行済。こちらも是非読もうと思っています。 |
| 2. | |
| 「トロイの女たち」 ★★ 原題:"The Women of Troy" 訳:北村みちよ |
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2026年03月
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「女たちの沈黙」の続編。 オデュッセウスの奇略<トロイアの木馬>が功を奏し、ついにトロイアは陥落、10年間に渡るトロイア戦争は決着が付きます。 本作はその後を描いた巻。 ギリシア側の将たちは帰郷を切望しますが、荒れた天気が続き、船を出せず、引き続き戦地に留まったままとなります。 それは、敗れたプリアモス王の亡骸を捨て置いた不敬に神々が怒っている所為なのか。 プリアモス王の亡骸を馬車で引きずり回し、無惨な姿にしたうえで埋めることも禁じたのは、故アキレウスの一人息子であるピュロス。 本作の主人公も引き続きブリセイスですが、ファザコンであるピュロスの本人語りも度々挿入されます。 ブリセイスはアキレウスの命でその側近だったアルキモスの妻となったことから、ギリシア側の将から尊重される身となりましたが、それはあくまでアキレウスの子を孕んでいるからのことで、トロイアの女たちが尊重されるようになった訳ではない。 それよりも驚かされるのは、男たちの女たちを見下す、その様にあります。 女はその夫に忠誠するしか脳がなく、トロイアの王に対する敬愛の念、男たちに対する抵抗など、考える能力などある訳がないと決め込んでいるのですから、唖然。男たちとはそんなにも愚かな存在だったのかと呆れてしまう。 それと対照的に、身は支配されても、矜持は失うまいとするブリセイスたちの姿は圧巻です。 トロイアの女たち、ブリアモスの王妃だったヘカベ、その娘カッサンドラ、息子ヘクトルの妻だったアンドロマケ等々、ギリシア諸将たちの戦利品とされた女たちの在り様が様々に描き出されていますが、その中でも特に鮮烈なのは若い娘アミーナ。 社会を支配する男たちに対する女たちの抵抗は、こんな昔から始まっていたのかという感慨を覚えます。 女性たちの闘いを圧倒的に描き出した歴史小説の第2巻、読み応えは前巻に劣らず。 ※なお、本三部作の第3作は、2024年に刊行済。カッサンドラの物語となるそうです。翻訳刊行されたら読むつもりです。 |