357−1.ケルゼンの多数決原理



川崎
河上イチローさんのコラムは、ものを考える上で参考になります。
その中に出てきた多数決原理と民主主義について再考する意味で、
ケルゼンの考え方を簡単にまとめてみました。多数決原理に関して
は新しい論理がありますが、原点に戻ってみるという意味で、(ケル
ゼンは日本の民主制論にも大きな影響を与えた)、見直してみるの
もいいかと。彼の考えをもとに、民主主義がなぜ多数決に結びつく
か、多数決=「多数派横暴=愚衆」をいかに防ぐか、私なりに考え
てみました。

〜ケルゼンの多数決原理
ケルゼンは「デモクラシーの本質と価値」の中で、民主制論の特徴
を次の4つにまとめている。

1、まず、民主主義を「価値相対主義」の世界観に根拠付ける
2、民主主義の理念は個人の「自由」の内にあるとする
3、民主主義の形態は議会制で、その機能は社会における諸利益の
    調整、「妥協」の形成であると見る
4、民主主義とは内容でなく「形態(形式)」であると考える

1、ケルゼンによると、政治体制を論じる際に、特定の価値を絶対
化することなく、多様な価値が多様に存在することを認める相対主
義的な世界観が民主主義には必要とする。相対主義の立場を取ると
いうことは、特定の価値を絶対化しないといことで、それは言いか
えると、他者の自由を広く認めるということであり、自らに帰すれ
ば、自分も他者から強制・拘束されないということになる。(これを
リベラル・デモクラシーとよぶ)。要するに、相対的なものの見方
をすることを民主主義の大前提とし、そこから「自由主義」が、平
等」という考え方が派生してくる。

2、平等で自由な発言の場としての「討論」の重要性は、民主主義
において不可欠な要素だが、相対主義的世界観にたてば、少数意見
も大事にされる。少数意見というのも、その時点での少数意見なの
であって、別の時点ではそちらの方が多数意見になるかもしれない。
少数意見も多数意見になる可能性を秘めている以上、保護されなく
てはならない。逆にいうと、多数意見も絶対的な正しさをもったも
のではないということになる。

3、「妥協」の重要性。ケルゼンの主張するようなデモクラシー・
システムの内部では、相対主義的世界観にもとづいて、他者の立場
にももっともなところがあるはずだ、と考えている人間同士が対立
するわけだから、妥協ということも当然起こりうるはずだというわ
けである。「対立」は「妥協」へと発展する要素なのだ。

4、「討論」、「少数意見の保護」、「妥協」がおこなわれたとし
ても、ある集団の内部では最終的には何らかの方法である問題に決
着をつけなければならない。そこででてくるのが多数決原理である。
ある問題について意思決定する場合、大事なことは、集団の成員で
ある自己の意思と、集団の全員で下した結論との間に距離がないと
少しでも多くの人が感じることである。

(ケルゼンの議論は、もちろん問題もある。たとえば、ケルゼンの
理論はあらゆるものを相対化することが前提だが、その理論自体、
「相対主義は相対主義を絶対化していないか」という疑問にいきつ
く。実際の政治の場でも、誰もが相対主義的な態度で話し合うとい
うのは、実現がかなり困難であろう。)

ケルゼンによれば、「民主主義=多数決」ではなく、「民主主義=
相対主義的世界観にもとずく議論の結果による妥協の結果」という
ことになる。要するに、民主主義のなかで、決定をおこなう際、そ
の前段階の議論が大切であり、その議論をおこなう際には、妥協す
ることも頭におきつつ、フレキシブルな態度でのぞむこと。自分の
自由を認めてもらうかわりに、相手の考えの自由をみとめるという
前提に立てば、感情的な議論になることや、徹底的な対立になるこ
とは避けることができる。多数決による決定は、「討論」、「話し
合い」という要素が満たされてこそ、効果的な結果をうむことがで
きる。

このように考えると、日本の場合、民主主義の前提である「個の確
立」という条件が見過ごされているのではないかとも思える。制度
ばかり導入されていて、その前提である、議論のぶつかり合い、そ
の議論の相克としての結果がうまれてこない。とはいいつつも、
ケルゼンのデモクラシー論はあくまで論理であり、理想であって、
現実にはなかなかそこまで行きつけない。それに少しでも近づく努力
をしつづけるのが、民主主義の理想かなと思う。

川崎
==============================
(Fのコメント)
 民主主義は、金が必要です。米国の大統領選挙でも、リーバーマ
ン氏を副大統領に選んでから、盛り返した。それは、ユダヤ人から
の献金が増えたことによります。だから、民主主義の選挙には、金
がかかり、そこから政治の腐敗が始まるというもう1つの問題点も
視野に入れていく必要があるのでしょう。


コラム目次に戻る
トップページに戻る