琵琶湖の深呼吸 平成19年(2007)4月1日(日) 「地球に謙虚に」運動代表 仲 津 英 治 東京では桜が満開になったところの映像を見ました。こちら関西ではまだ、 つぼみ、咲き始めのところが多いのに、東西が逆転していますね。 今日は少し肌寒い琵琶湖から便りを送らせてください。 今年は大変な暖冬で、ここ琵琶湖湖西の小野の里でも30センチ程度の積雪 があったのは遂に一回きりでした。今比良山系の打見山、蓬莱山あたりの山 頂を眺めても僅かに細く残雪が光っている程度です。そこで気になることが 一つ。 先日の嘉田由紀子滋賀県知事との対話による県政勉強会で伺ったことです。 琵琶湖には春にたっぷり酸素を含んだ融雪水が湖底に流れ込んで水の縦循環 が発生します。そして琵琶湖の湖底に酸素が供給されるのです。彼女はこれ を琵琶湖の深呼吸と表現しました。雪解け水は重いので(水は水温4度℃で 最大密度)、軽い表層、中層の水より深層へ沈み込んで行き、対流が起こる のです。 実際近江今津の沖合いで水深90メートル(湖底から1mの深さ)のところで、 水質検査(水温、溶存酸素量のほか、各種データ)が月に2回、最近では週1 回のペースで行われています。以前からの水温測定データによると、地球温 暖化により湖底の水温がこの25年間で5度℃から8度℃に上昇しています。 湖底水温は年間を通じで変わらないので高値安定になってしまっているのです。 最新の酸素量測定結果によると今年は、2月でも気温が高かったので、例年な ら沈下する表層水が湖底まで還流しなかったことで、2月の湖底溶存酸素量は 1リッター当り平均5mg(本来12mg程度)しかなかったそうです。そして3月の 降雪による雪解け水によってやっと、溶存酸素量は12mg/Lのレベルに回復した とのことです(滋賀県環境管理課)。1ヶ月ほど琵琶湖の深呼吸が遅れたこと になります。しかも面積にして50平方キロくらいの低酸素水(7mg/L)が湖底 に残ったままとのことです. そして琵琶湖には最近外来種の藻であるコカナダモが大量に発生し、ちぎれ て浮遊した藻が、主に湖岸と南湖(琵琶湖大橋以南)さらには北湖にも沈み こんで滞留しているのです。滞留した植物の残骸は分解するときに大量の酸 素を消費するので、湖底に酸素の希薄もしくは無酸素の湖水が発生するこ とが懸念されています。例年ならこれからも融雪水による縦の水循環により、 酸素が補給されるのですが、今年はそれが期待できません。この無酸素水が 風などの作用により、浮揚してくると煤水(スス水=黒っぽくなるのでこの 呼び名がある、海の青潮に相当)になり、大量の水中生物の死を招くことに なります。 また滋賀県琵琶湖環境科学研究センター(以下 琵琶湖研)によれば、底層 付近が無酸素状態になると、湖底の堆積物からアンモニア、リン、硫化水素 などが溶出し、水質悪化がさらに懸念されるそうです。 琵琶湖の水は、天水の流入により5−19年で入れ替わると推計されていま す。その内積雪による分は過去のデータによると、変動が大きく7−43% だそうです。雪の多い年は、表面の水温も下がり、水の縦循環による溶存酸 素は上述のように回復するのです(琵琶湖研)。今年は3月に冷え込みがあり、 比良山系などに降雪があってその雪解け水で多少回復したようですが、 今後長く雪の絶対量が少ないままの状態が続けば、琵琶湖の水質の恒常的悪 化が懸念されます。昨冬は大雪でありましたが、これも地球温暖化で海水温 度が高くなっていて水分蒸発が多いところへ、シベリアから冷たい空気が流 れ込んできたので、日本列島に雪の恵みをもたらしたのです。従って背景に じわじわと進む地球温暖化があり、今後かつてのような降雪は期待できない でしょう。 琵琶湖は昭和40年代後半から富栄養化が進み、昭和52年には遂に赤潮が 発生し、主たる原因が洗剤にあることが判って、県民上げて有機リン入りの 洗剤の不使用、禁止運動が展開されました。結果昭和55年(1980)に琵琶 湖の富栄養化防止条例が施行され、琵琶湖の水質の維持改善が図られました。 今は琵琶湖の表面水の水質はほぼ一定に保たれていますが(但しCOD=化学 的酸素要求量は少しづつ上昇中)、琵琶湖の深呼吸が止まるといずれは大変 な事態になる可能性があります。 背景に地球温暖化という地球規模で進んでいる現象があるので、一県の条例 だけでは、解決のつく問題ではありませんが、地域から一歩づつでも改善し ていく姿勢、努力が必要でしょう。 先ほどのCOD上昇も懸念材料です。滋賀県でも原因はよく判らずこれから本 格的に調査分析するようです。水中に分解されない化学物質が増加している 可能性が大で、人工的な原因が考えられるそうです。分解されない界面活性 剤を含んでいる家庭洗剤も問題です。しかしこれらは滋賀県で解決できる問 題です。将来を見据え、環境を大事にする知事、議会、行政を期待するもの です。もちろん県民も動く必要があります。 そして琵琶湖で起こっている事象は全国の湖沼でも起こることです。鹿児島 県の池田湖の湖底は完全に無酸素状態になっているとの事です(水深233 メートル)。 また全国的な今冬の暖かさにより、日本列島全体の積雪量は大幅に減りま した。このことは雪が徐々に溶けることによって高山が保有してくれる伏流 水という保水量が減少することを意味し、今後雪の少ない事態が続けば、い ずれは全国的な水不足の状態に至るのでは無いでしょうか。「地球に謙虚に」 運動の代表発信欄に記載している通り、台湾のようになってしまうと懸念さ れます。台湾の雨量は日本より多いのに水不足の国なのです。「雪の少ない 島」だからです。 以上 ******************* 仲津英治 「地球に謙虚に」運動代表