路面電車と歩行者地域による街の活性化 −ドイツの中都市 カールスルーへ と ブラウンシュヴァイクの例に見るー 平成27年(2015)7月1日(水) 「地球に謙虚に運動」代表 仲津 英治 去る5月15日(金)から20日(水)まで、ドイツの大学で「自然に学ぶ」 と題して500系新幹線の開発と走行試験の経験を踏まえた講演を行なう 機会を頂きました。その際、訪れた3都市の内、今回は人口30万人前後の 中都市が、路面電車と歩行者地域により活性化し、街の賑わいを維持・ 発展させている例をレポートさせて下さい。 1. カールスルーへ カールスルーへは、人口30万人でドイツ南西部にあり、フランスと隣接 するバーデン=ヴュルテンベルク州の第2の都会です。 第2次大戦後、東西に分断を余儀なくされた西側の国家、ドイツ連邦共 和国の最高裁判所に当たる連邦憲法裁判所 や連邦裁判所が置かれている街 です。 カールスルーエは、300年前にカール3世ヴィルヘルムが建設した宮殿を 中心に道路網が放射状に伸びる計画都市で、宮殿の近くでは、町が南側に 扇形に広がっているので、「扇都市」とも呼ばれている由。 ドイツは連邦国家で、イギリスのロンドン、フランスのパリ、日本の 東京に当たる人口が1,000万単位となるような巨大都市はありません。人口 数十万の中小都市が多い国です。いずれの都市も、それなりの規模があり、 交通網としては連邦鉄道の中央駅があり、路面電車網&バス網が維持・整 備され、高速道路のアクセスもよく、都心部にはスーパーも兼ねた百貨店 なり商店が軒を連ねており、賑やかで高齢者、交通弱者にも住み易い街と 言えましょう。 カールスルーへの都市交通システムの特徴は、ハード&ソフト両面にお ける交通サービスの提供にあるでしょう。特に高速鉄道と路面電車が相 互乗り入れするシステムは、世界でも初の試みのようですね。 路面電車が、郊外において鉄道、市街ではトラムとして走るこのような システムは、カールスルーエモデル と呼ばれ、1992年に初めてKVVに 導入されたものだそうです。 日本でも、路面電車と普通鉄道が相互乗り入れしているケースが増えてお り、下記の事例が挙げられます。これらの中で富山と高岡の例は、在来鉄 道線を路面電車方式に転換したもの、広島と松山の例は、郊外線と都心の 路面線を相互乗り入れしているものです。大津と京都の例は、相互乗り入 れを前提に設計施工されています。いずれの場合もご担当された方々は、 相当のご苦労をされたこととは思いますが、相互にそれほど大きなシステ ム差はありません。 ドイツの場合は、路面電車と高速列車を走らせるDBとでは、速度、電化 システムと信号システムが全く異なっており、その差を生めるための技 術陣の努力と、技術開発の進展により、実現したものでしょう。 ・富山ライトレールー富山港線(富山市) ・万葉線―新湊港線(高岡市・射水市 ・広島電鉄―宮島線(広島市・廿日市市) ・伊予鉄道―城北線(松山市) ・京阪電鉄大津線―京都地下鉄東西線 郊外電車同士の相互乗り入れの先駆例としては、東京の京成・都営 浅草縁&京浜急行が挙げられます。そしていまや全国的に相互乗り 入れは展開されていますね。 鉄軌道の再評価、復活・整備&相互乗り入れが進められることによる、 利便性の向上、都市の活性化は、環境改善にもつながり、世界共通 の方向性となって来ました。 そしてカールスルーへではKVV(カールスルーへ運輸連合)が組織 されており、運賃体系の異なる路面電車、バス路線&DBの制度を ベースに共通運賃制度が導入され、ソフト面でも旅客への利便性が 図られています。これは、ハンブルク、フランクフルトなど大都市 と同様のゾーン別運賃システムです。 日本ではSuica、PASMO、ICOCA、PiTaPaなどの鉄道・バス用電子 マネーカードが、私鉄、地下鉄、バス&JR等に相互利用できるよう になっていますが、それぞれの区間内運賃で利用せざるを得ず、 旅客にとって割得なゾーン制の共通運賃制度にはなっていません。 次回はドイツ北部の元ハンザ同盟都市 ブラウンシュヴァイクです。 以上 「地球に謙虚に運動」代表