雪と文明 雪;絶えざる水の流れを支える存在 平成26年(2014)4月4日(金) 仲津英治 ペルーの砂漠と高山 去る2月末から3月中旬に掛けて南米はペルーとブラジルに妻ととも に行くことができました。初めて訪れる地ですので、ある旅行 エージェントのセットメニュー旅行で参りました。いずれの地も印 象に残っているのですが、ペルーは取り分け、豊富な水に支えらえ た耕作地が脳裏に焼き付いております。 最初に訪れた街ペルーの首都リマは、太平洋岸の赤道に近い都市で すが、そう暑くありませんでした。人口230万人、南米3番目の大都 市です。南半球の2月&3月は北半球の8月&9月に相当し、夏の終わ りです。しかし台風は来ません。年間雨量はリマで僅か30ミリ、 まさに砂漠のような気候です。現にリマを含め海岸線2500■のペルー の太平洋岸は砂漠で被われているとのことです。 何故か?現地ガイドの大森さん(男性)に拠れば、水温14度℃の フンボルト海流(寒流)が、南極から、チリ、ペルーなどの太平洋岸 を北上し、赤道に至っているからとのことでした。彼は中々インテリ の方で、色んな説明からその博識が伺えました。 水温14度℃の海水はあまり蒸発しないので、雨が少ないとのことです。 米国のサンフランシスコを訪れた時も同様のことを伺いました。水温 14度℃のカリフォルニア海流(寒流)が北極から北アメリカ大陸の太平 洋岸を南下し、4月から9月までサンフランシスコでは数ミリしか雨が 降らないとの解説を記憶しています。 日本など東南アジアの太平洋西岸の地域では暖流の黒潮が北上し、夏 では大変な暑さと雨をもたらします。台風がそれに輪を掛けます。災 害をもたらす台風ですが、これが来ないと水不足になるのです。雪の 少ない台湾では、そのことを特によく伺いました。詳しい理由は判り ませんが、太平洋の右端と左端でかくも気候が違うのは地球の自転の せいでしょうか。 地下水脈と井戸 ペルーに話を戻します。コスタと呼ばれる太平洋岸の砂漠の海岸線上 には随所に緑の畑を観ました。農耕に水は欠かせません。添乗員の 大森さんによると、答えは井戸でした。 ペルーの太平洋岸は雨こそ少ないが、6,000m級のアンデス山脈から 流れて来る川があるのです。 アンデスには万年雪があります。アンデスに源を発し、太平洋に注ぐ 河川はその数たった57本とのこと。我々が移動する間も、橋のかかっ た川は僅かに1本でした。少ないですね。一周660■の琵琶湖に注ぐ一級 河川数は118本。用水路等まで含めると琵琶湖に注ぐ流れは500本以上に なると言います。 全長2,500■の海岸線なら600本程度の河川が海に向かっていてもいい はずです。 大森さんの答えは地下水脈でした。アンデスに端を発した水流は、多く は表面水ではなく伏流水となって太平洋に注いでいると言うのです。 リマから汎太平洋道路(名前は立派ですが、多くは2車線の生活道路)を 自動車で南下した折、砂漠の海岸線に多く見かけた緑地(耕作地)に は井戸の水が供給されているとの事でした。砂浜をちょっと掘れば、 水が出て来ると言うのです。高山が連なるアンデス山脈の雪が解けて 地下水脈に連なっているのです。これらが耕作地を潤している写真を 飛行機の窓から撮ることもできました。 アンデス山脈の東側はアマゾン川に繋がるジャングルです。 古代インカ文明の象徴、地上絵を多く残したナスカの現地をヘリコプ ターで上空から見ることができました、少し高めの大地にあるナスカ の地を多くの水が流れた跡が見られました。同文明も雪によって支え らえた存在であったのかな、と機上で思いました。 比良の雪と琵琶湖 ペルーから琵琶湖畔の我家に帰って来て、改めて水に恵まれている 日本を認識しました。近畿の人の生活を支えている琵琶湖も、雪に よってその水量、水質が保たれています。 滋賀県は、本年2月17日に実施した琵琶湖水質調査において、琵琶湖 北湖(琵琶湖大橋より北側の湖を指します)の今津沖(北湖第一湖 盆内)で、表水層から深水層までの溶存酸素濃度が同程度となる全 循環が確認されたと、発表しました。 この全循環は琵琶湖の深呼吸とも呼ばれる現象です。水は摂氏4度で 一番密度が濃い、つまり重くなります。比良山、伊吹山等に積もった 雪が解け、4度℃前後の水流となって琵琶湖に注ぎます。たっぷりと 酸素を含んだ融雪水です。その重い水が琵琶湖の湖底に沈んで行き、 酸素が行き渡るのです。そして湖底の生き物にも酸素が供給され、 琵琶湖の水質が維持されるのです。 平成19年(2007)の冬は、大変な暖冬で2月までこの琵琶湖の深呼吸が 起こらず、水質の悪化が懸念されましたが、3月の降雪で全循環が 発生し、湖底の水質が保たれました。 「今、地球は温暖化どころか寒冷化が進んでいる。石油も石炭も じゃんじゃん使って炭酸ガスを出して、地球を暖めた方が良い」等 と無責任なことを言う学者がおられますが、雪が生命を支える存在 であることが、念頭にないのでしょうね。 滅んだことが無い、日本文明を支えて来たのは、琵琶湖水系に代表 される日本列島の河川でしょう。人々は森林を伐採し尽くす愚を犯 さず、今日まで水流を維持して来ました。 世界の4大文明という考え方を否定する意見もあるようですが、いず れも川の流れのあるところに生まれました。エジプト文明はナイル の賜物と言われます。その源流は赤道に近いタンザニアなど3か国に 跨るヴィクトリア湖と青ナイル川です。青ナイルの源流の最高峰は 積雪もある4,000■級のエチオピア高原です。 メソポタミア文明はチグリス・ユーフラテイス沿いに発生し、両河川は 5,000■級のトルコ東部高地(アララト山=5,135m等)に端を発します。 インダス文明は発祥地にはインダス川が流れており、その源は世界の 屋根、ヒマラヤ山脈でさらにチベット高原に連なっていると言います。 中国の黄河文明を生んだ黄河は、現在の青海省にあるチベット高原に 源流があります。 文明の原点には絶えざる水の流れを支える雪があり、その水流が農耕を 可能にし、農耕が文明を生んだのです。 しかし、多くの説では4大文明はいずれも、森林の過剰伐採による 砂漠化そして塩害で亡びた、と言われております。 長文お付き合い、有難うございました。 以上 「地球に謙虚に運動」代表