皆様、 現代という芸術をお届けいたします。 得丸 現代という芸術 草もヒトも、DNAは歌っている! ひところ、人間の遺伝子のDNA構造をすべて明らかにするヒトゲノ ム計画について、何かとてもすごい情報がわかるかのように騒いで いたけれど、あれはどうなったのだろうか。 2000年6月26日、ビル・クリントン合衆国大統領は、ヒトゲノム概 要解読完了宣言の中で、「今日、私たちは、神が生命を創造すると きに用いた言葉を知ろうとしています。この大いなる新知識によっ て、人類は計り知れない癒しの力を得ようとしているのです」と、 まるでヒトが神に近づいたかのように語ったが、神の言葉に接した 感想はどうだったのだろう。神は何と語ったのだろうか。 実はDNAは、ヒトも、動物も、植物も、すべて生物はひとつである ということを語ったのだった。これは禅語である、悟りである。 それをストレートに言葉にすると都合が悪い連中は、あまりこのこ とに触れなくなった。 フランスのパスツール研究所の元所長で、ノーベル生理学賞を受 賞したフランソワ・ジャコブは正直に語る。 「すべての生物は、もっとも単純なものからもっとも複雑なものに いたるまで、みな親戚なのである。わたしたちが思ってきた以上に 、全生物は互いにいとこ同士なのだ。同じ要素と構成単位を用いて 、生物界は進化の過程で無限に多様化した。つねに危険にさらされ る生命は、自己保存のために、あらゆる多様な形態と行動様式を取 り、地上の隅々に散らばらざるをえなかったかのようである。」 (F. ジャコブ著「ハエ、マウス、ヒト 生物学者による未来への証 言」(みすず書房、2000年, 原1997)) チンパンジーとヒトの遺伝子が99%同じだというが、ネズミやウ サギとも90%以上同じなのだ。おそらく木や草ともかなりの部分同 じである。 生命とはDNAであり、それが3つずつ集まって形成するアミノ酸の 配列である。それは地球上のすべての生物に、植物動物を問わず、 かなりの部分共有されている。多様な生物がすべてあつまって、 ひとつの生命を構成しているといってもよいだろう。 こう思ったとき、ハタと納得がいった。藤枝守の「植物文様」か ら聞こえてくる植物の歌が、なぜなつかしく聴こえるのか、なぜあ のように聴くものをやさしくつつみ、心に染み入るのか、その理由 が。 きっと我々の体を構成する60兆個の細胞組織の核にあるDNAは、 我々がまだ植物であった頃の記憶に触れて懐かしんでいるのだ。 はるか昔に分化した親戚のDNAからメッセージをもらってうれしい のだ。もしかすると、植物の遺伝子も、我々に語り聞かせることが できることを喜んでいたのだろう。 得丸公明 (写真:東京工業大学 下平英寿研究室HPより) http://www.is.titech.ac.jp/~shimo/class/enshu200309alignment.html フクロネズミ、ネズミ、ウサギ、ヒト、チンパンジー、アザラシ、ウシのアミノ酸配列を並べたもの。 参考:2006年3月のコラム「現代という芸術 撃ち方やめて、心身を脱落せよ」 http://www.milestone-art.com/MILESTONES/issue61/htm/p8tokumaru.html