インドの自然エネルギー戦略 平成20年(2008)11月2日(日) 「地球に謙虚に」運動 代表 仲津 英治 去る9月29日、京都でインドの自然エネルギーへの取組みに関する講演会があり、 大いに勉強になりました。講演者は、インド・エネルギー資源研究所のプロサント パル氏と、地球環境保全研究所の和田 武氏(前立命館大学教授)のお二人で、 和田氏の夫人で名古屋学院大学教授 和田幸子氏が通訳を務められました。概要 を紹介させて下さい。 インドは、伝統的に牛の糞に稲藁や麦藁を混ぜて乾燥させた牛糞燃料や薪を燃 料に使うなど、古来の形の自然エネルギーが使われて来たことは知っていまし た。仮に牛糞燃料が無かりせば、原子力発電所を何十基?も必要とするとのテ レビドキュメントを見た記憶があります。しかし、それをより進んだ形で活用 するシステムに切替え、かつ新たなエネルギー源を開発するべく「新・再生可 能エネルギー省」(MNRE)を設置していることは初めて知りました。自然 エネルギー=再生可能エネルギーのために「省」まで置いている国は、他にな いようで、インドは温暖化対策に取組み、かつエネルギーの自主供給を目指し ている国であるのです。日本も参考にすべき国だと思いました。 インドの現状と将来を概略箇条書き的にまとめてみましょう 1.飛躍する経済力 インドは近年、経済成長が著しく、2025年にはGDPが3〜5兆ドルに成長する と見込まれています(日本約5兆ドル2007年1ドル=100円として)。同じく人口 は14億人と中国を凌ぎ、しかも25歳以下の人口が42%と予測され、高齢化社会 とは無縁の社会のようです。 2.克服すべき課題 現状は低所得層が多く、人口の77%が1日当たり2ドル以下(77ルピー)で生 活しており、電力を使用する農村の世帯数は31%に過ぎません。 これまで農村の主たるエネルギー源は、バイオマスで牛糞燃料が主役でした。 今は割合が低下して来ましたが、それでも総エネルギー量の28%を占め、水力 2%を合わせ、自然エネルギーは30%も占めています(日本では自然エネルギー =再生可能エネルギーは1%)。しかし、石炭、石油の消費は増え続けており、 石油は75%が輸入依存です。 インド政府は、1970年代の石油ショックの事態に、自然エネルギーの重要性 を認識し、1982年非伝統的エネルギー庁を設立し、2006年に世界で唯一の新 ・再生可能エネルギー省に昇格させたのです。 前述の牛糞燃料には、大きな問題があります。燃焼効率も悪く、燃やす際に 猛烈な煙を出し、その煙の影響で農村では健康障害が多く発生しているから です。さらに足らざる分を薪で賄っており、森林破壊が進行しています。 そこでインド政府は、農村の貧困状態から脱却を目指し、牛糞燃料をバイオ ガス化するプロジェクト(発電にも活用)と自然エネルギーによる発電を積 極的に進めることにしました。 2000年以降、多様な財政機関による助成制度免税、減価償却割引、有利な系 統連繋電力供給による民間投資の促進を図り、BOO「建設、所有、運転」方 式に基づく自然エネルギー発電計画への外資の導入を促進しています。 電力の系統連係などに向かない僻村では糞尿を嫌気性発酵させてメタンなど のガスを発生させるバイオガスプラントの設置費用(100ドル前後)に60%の 政府資金援助を行なっています。既に400万箇所のバイオガスプラントが設置 され、農村部での調理や照明のエネルギー源となっています。設置費の元本 は2年で回収可能であり、10万箇所のプラントで40万トンの薪が節約可能との ことです。バイオガスプラントは1200万箇所の潜在容量があります。 自然エネルギー発電では太陽光と、小水力そして風力に力を入れています。街 灯用(蓄電して夜間照明に使う)と電化製品の普及していない農村部向けに家 庭用照明とテレビ受像に使える分散型の太陽光発電装置の設置に新・再生可能 エネルギー省が通常、設置費用の3分の2の補助金を支出しています。ソーラー街 灯が設置されたところでは、その下で夜11時まで勉強している若者が見られる ようになりました。 大規模な系統連係電力に再生可能電力を普及するため、設置費用への補助制度 と24州中13州では電力買取補償制度が導入されています。例として大型風力発 電の場合は、20〜30%の補助率です。電力は8州で1KWH当り12.25〜3.5ルピー (1ルピー=2.9円)の買取制度があります。小水力と風力発電が飛躍的に増加し てきました。例として、風力発電の772万KWの容量を持ち、日本の5倍以上で世 界第4位です。 インド政府は2007-2011年に再生可能電力を2500万KWに増加させる計画を進め ています。達成できれば総発電力の12.5%にもなり、日本を完全に凌駕しつつあ ります。 また、太陽の熱エネルギーで料理するソーラークッカーは世界一普及が進んで います。 さらに農業、建設機械などに欠かせないデイーゼルエンジン用として、食料と競 合しないナンヨウアブラギリ(ジェトローファ)という樹木の活用が進められて います。 ナンヨウアブラギリの種子から採れる油脂は、毒があり、食用に適さないが、燃料 用には使えるそうです。しかも農耕に適さない乾燥荒れ地でも栽培できるとの特徴 をもっているので、食糧と競合しないバイオ燃料資源となりえます。 インドの現在人口は10億人強ですが、炭酸ガス排出量は一人当たり年間1.1トンです。 日本並みの約10トンを排出するようになれば、世界の4割強の炭酸ガスを出す国に なってしまいます。インドが炭酸ガス排出を増加させないで経済発展できれば、 途上国の発展モデル例になりましょう。 もうひとつ大事な視点は、エネルギー自給率です。石油の海外依存が高いインド でも自然エネルギーの維持発展努力などにより、2006年時点で81%のエネルギー 自給率を維持しています。日本はわずか4%。食糧自給率は穀物ベースで29%、本 当に脆弱な基盤の上に立っている国です。エネルギーと食糧こそ、国民が生活で き、国家を維持させる根本的資源です。 国政の中枢のおられる政党、行政の方々に今後この重要な資源への政策をどうさ れようとしているのか、問い質したいところです。 以上 別添絵図 インドの大水力発電以外の自然エネルギー発電設備容量の推移 (MNRE,”Annual Report”,2001~02から2007?08の各年度版のデータに 基づき和田 武さん作図) 以上 「地球に謙虚に」運動代表 仲津 英治