宮崎県および宮崎市における
多文化共生社会実現への取り組みについて


高柳香代/まちんなか国際交流会 副事務局長

 移住労働者と共に生きるネットワーク・九州で、活動の空白地帯だった宮崎県ですが、2004年に開催された、日弁連主催の「第47回人権擁護大会・第1分科会?外国人の人権基本法を制定しよう」で、私がネットワーク九州の関係者の方とお会いしたことがきっかけで、私自身も2005年に京都市で開催された「移住労働者と連帯する全国フォーラム」及び、第8回福岡入管との意見交換会に参加、昨年はネットワークの会員となって、会報等を通じて活動について理解を深め、つながりが持てるようになりました。
 宮崎県は、九州・沖縄8県の中で佐賀県についで外国人登録者数が少ない県で、平成17年12月末の登録者数は4,457人(前年比0.7%増)です。
 内訳は、中国籍1,749名、フィリピン籍710名が最も多く、ついで韓国・朝鮮籍、インドネシア籍、米国籍で、これらが全体の9割を占めています。
 一番の集住地域は宮崎市で1,565名ですが、県南の日南市(246名)、南郷町(165名)は、人口に対する比率がもっとも高い地域です。
 これは、漁業研修生が最も多い地域であることによります。研修生数は平成16年度で508名です。(宮崎県国際政策課調べ、宮崎県国際化の現状より)
 集住地区である宮崎市では、県・市の国際交流協会が中心となって、生活情報や相談業務についての多言語化(中国・韓国・英語・タガログ語)が実施されていますが、支援団体のすべてが宮崎市内に拠点を置いているため、他市町村とは、支援体制、情報の伝え方などにかなり差があるのが実情です。
 また、留学生数は平成17年12月末で237名で、平成15年の315名をピークに平成16年からは減少に転じています。
 これについては様々な理由が考えられますが、主な留学先の1つである宮崎大学が、宮崎市街地から車で30分〜40分ほどかかかる郊外に位置していること、大学周辺や市内の主要な地域でのアルバイト先や卒業後の就職の条件が厳しいことなどが考えられます。
 この様な現状の中で、宮崎県内の国際交流・協力団体116団体(宮崎県国際交流協会調べ)の内、5団体が在住外国人支援や日本語教室運営を行っています。
 その一つ、私が所属する「まちんなか国際交流会」は、平成15年3月に設立された任意団体です。
 活動の柱は大きく2つあり、ひとつは「日本語教室の運営」もうひとつは「地域の人々と外国籍の人々をつなぐ交流事業の実施」です。

 私達の活動は、「まちんなか」の名称どおり「まちのなか」を活動拠点とし、基本的に宮崎市内だけに焦点をおいています。
 組織は、会員26名(内外国籍会員7名)、事務局5名で、毎月第1火曜日をミーティングの日と定めて、会員と事務局が事業や運営についての話し合いを行っています。
 また、メーリングリストを活用し、会員や事務局に関わる人々の連絡を密にできるようにしています。
 比較的新しい団体ではありますが、日本語教室運営と交流事業が活発な団体だと思います。
 日本語教室の運営は、7名で週に7回行っており、昨年度の生徒数は35名でした。
 実施場所は、宮崎市内の「ジョイルーム」というフリースペースで、宮崎駅から徒歩で3分という場所を確保し、参加者の交通の利便性を図っています。
 また、地域での活動を広げるため、昨年および今年にかけて、宮崎県留学生推進協議会と一緒にボランティア育成の講座を開催しています。
 今年は8月に「多文化共生活動ワークショップ」を開催し、九州ネットワークより中島真一郎さんにも講師としてお話いただきました。
 交流事業は、「てげてげイベント」と題し、在住外国人の文化紹介もかねて行っています。
 名称の「てげてげ」とは、宮崎弁で「いい加減」「適当な感じ」の意味です。(よい意味でも悪い意味でも文脈によって捉えることができますがここではよい意味で捉えています)
 宮崎の県民性のひとつであるこの精神を表すように、ゆるいけれども地域の人たちがつながるきっかけ持ってもらえることをねらいに企画しています。
 昨年は、全7回開催、延べ200名の参加でした。開催の毎、留学生を中心に多様な住民の参加が増えてきています。
 今後の課題は、それぞれの参加者をエンパワーメントして、単なる文化紹介に終わらないよう、地域に還元できるような場の提供と環境をつくることです。本年度から来年度にかけて、更に取り組みを工夫して行く予定です。
 前述の通り、この「てげてげイベント」は留学生の参加も多いのですが、留学生及び家族は、主に宮崎大学周辺に集住しており、地元地区の民間団体が中心となって、地域住民との交流活動を定期的に行っており、外国籍児童に関しても、地区にある小学校に宮崎県下で一番在籍数が多く、宮崎市教育委員会からの通訳派遣(中国語)などの取り組みが行われています。
 まちんなかでは、留学生の家族に向けた日本語クラスの運営を行った実績があるので、地域ニーズに応えられるよう、自分たちのできる範囲で対応していくことを考えています。
 このような活動だけでなく、まちんなかの事務局では「多文化共生社会の実現に向けた」地域の教育現場に講師として出向き、ワークショップ等を通した啓発活動も行っています。
 これからの日本の在り方のひとつとして挙げられている「多文化共生社会の実現」に関して、宮崎県の現状では数字的には九州の中でも少なく、地域の課題も集住都市に比べるとそれほど多いものではないのですが、「言葉」「心」「制度」の壁は確かに存在します。
 例えば、昨年の9・6宮崎水害の際には、日本語のみの災害情報が流れましたが、避難勧告地域に外国籍住民がいて、友人が訪ねて初めて自分たちの置かれている状況がわかったという事例や、断水情報が最初は日本語だけで掲示されていたものを、支援団体や私自身を含む関係者の働きかけで、宮崎市役所のHPに英・韓・中国語での同じ情報が掲示されるようになった事例などがありました。
 また、避難先となっていた宮崎市内のある地区の公民館では、被災地での窃盗事件報道の翌日から「外国人注意」の張り紙が貼られていた事例もあり、日常から非常時への流れの中で、それぞれの課題が浮かび上がってきたと感じています。
 地域の「内の国際化」の実状にあった課題解決や活動などを、民間だけでなく、行政や地域住民も合わせて、それぞれが役割を果たせるような取り組みが宮崎県下でも行われることが理想であり、外国籍住民を含めて個々がそれぞれもっているものを出せるような地域づくりを、多様な活動を通じてこれからも行えればと考えています。
 この様な活動が九州での大きな動きへとつながっていき、全国へ波及するようなダイナミックな動きになることを期待しながら、私自身もこれからの活動及び取り組みを行っていきたいと思っています。