報告
06年九州ネット
福岡ブロックの政策提言

岩本 光弘 移住労働者と連帯する全国ネットワーク共同代表



 2003年に始めた福岡ブロックの政策提言は、’03年は広範囲に問題を提起した、総合的なものを提出しました。’04年は問題点を絞っての提言となりましたが、昨年は準備ができなかったことと、「多言語による運転免許証試験の実施」という緊急課題があったため、これを求めたものになりました。
 今年は3回目の提案を準備し、10月24日に北九州市と福岡県、31日に福岡市に提出しました。今年の提案は4項目に分けて行いました。

1.生活・労働問題
 福岡県は大企業があり、在留外国人が九州他県より多い状況にありますが、労働者としての外国人の比率は関東・中部・関西に比べて、未だ低い状況です。
 しかし、近年の九州北部の産業では自動車産業の事業拡大が続いています。今年の生産状況を見ると、トヨタは41万台の予定が43万台、日産は40万台の予定が56万台、ダイハツは15万台が25万台となっており、126万台の生産規模になっています。産業界は150万台を目指しているようですが、ダイハツは次年度に工場を新設して生産規模を倍増することを発表しましたので、次年度以降には150万台体制が実現します。
 昨年から北九州市が中心となって「パーツネット」ができました。日本の自動車産業は部品の在庫を持たない生産体制が特徴ですが、北部九州の自動車メーカーへの部品の供給率は50%にとどまっています。「パーツネット」は、部品供給率を70%に引き上げるため地場の産業が受注しようというものでした。
 部品供給率を上げることは可能であるとしても、愛知や静岡で部品を供給しているメーカーには外国人労働者がたくさん在籍しています。部品メーカーが進出してくるということは、移動が簡単である外国人労働者が流入することであることは、十分予測されることでもあります。
 今回の提言では、「部品の供給率を上げる」ことは外国人労働者の流入が予測されるので、外国人が少ない市町村に、急に外国人労働者とその家族が来た時、混乱が無いような対策を事前から取っておくように要望しました。実例として昨年スペイン語圏の生徒が2人編入しただけで大混乱した地方の学校の例もあることも説明しました。

2.教育問題
 今までも取り上げてきたこの課題については、いまだに解決されていません。政府がプロジェクトチームで協議している内容には「外国人児童の義務教育」も提言されています。そのことも考慮するならば、外国籍児童・生徒に対する施策を早急に改善するように要望しながら、過去にも提言した内容も含めて改めて提言を行いました。

@通訳の配置について
 これまでの提言でも要望してきたとおり、外国籍の児童生徒のために、通訳の配置を増やしてください。今までの通訳は英語と中国語があったようですが、生徒の状況に合わせて言語数を増やしてください。
 通訳者については、教職員の範囲だけでなく、ボランティアなどの民間活用も含めて地域住民の皆さんの協力を受けられるような施策を取られるようにしてはどうでしょうか。
民間には語学能力がある人材が埋もれていることが分かっています。各自治体毎に協力者を公募するなどの施策を取ってください。

A入学後のサポート体制
 外国籍児童生徒の問題は生徒だけにあるのではありません。外国籍児童生徒の保護者も、日本の教育事情が理解できないための悩みを持っています。多言語による学校案内を作成して対処してください。
 また、日常的な学校との連絡や学校行事についても身近なアドバイスをする人が必要です。通訳と同じように、保護者会やボランティアの協力をお願いします。
また、居住している地域の人たちに協力しもらうことも必要です。このことは地域の人たちに良い結果をもたらすと確信します。

B不就学児童生徒について
 日本の学校に入学しながら不登校になっている子どもや、学校へ入学していない外国籍の子どもがどのくらいいるのか調査したことがありますか。
 この子どもたちがこれから先も日本で生活するために基礎的な学力は日本の子ども達と同様に必要なことです。日本の教育を受けていないため、日本社会に溶け込めなくて非行に走る子どももいます。
 政府が現在検討している案には、日本に居住している子どもにも義務教育制度を適用することが出されています。政府も子どもたちが日本に滞在するためにはある程度の学力は必要と見ているのでしょう。日本に居住している外国籍住民の子どもたちにも、日本人の子ども達と差別なく、教育の機会を与えることに取り組んでください。

C高校進学枠の拡大
 日本の学校に入学しても高校進学までの期間が短い生徒は、日本語能力が十分でない場合がよくあります。そのために本人の学力がありながら、一般入試での合格は難しい例が出ています。
 県内には特別枠のある学校がありますが、特別枠のある学校が少ないため、この高校への通学が難しい例もあります。県内各地域毎に特別枠がある高校を配置して、進学を希望する生徒を受け入れるようにしてください。

D新入学の児童・生徒への案内について
 一般に在日外国人の子どもたちが小学校に行く場合、「外国人には義務教育が課されていない」ことから、以前は「就学案内」が出されていませんでした。
 しかし、「子どもの権利をうばう」「外国人差別だ」との批判から、外国人登録をしている外国人家族に対しては、小学校の就学案内を出す行政が多くなっているというのが一般的になっていると聞いています。
 小学校はおろか、中学校に入学する場合にも就学案内は出されず、わざわざ親が行政窓口へ行って手続きをしないと入学できない自治体はないでしょうか。
 他県では、自治体から出されている文書の中に「外国人は教育を受ける義務がないので、学校に行きたい場合には手続きをするように」と書いてあったそうです。
 これが事実とするととんでもない話だと思うのです。外国籍の児童・生徒には義務教育ではないとしても、すでに政府関係プロジェクト案にも義務教育が検討されています。国籍が違っても、日本に居住する全ての子どもに等しく教育を受けさせてください。

3.自動車運転免許試験の多言語化への要望
 この件については’04年から要望してきましたので、’05年4月に英語の学科試験が導入されました。しかし、いまだに英語だけの試験しか実施されていません。
 日本語はもちろん英語での試験にも対応できず、かといって母国で免許取得するため3ヶ月も日本を離れることもできないで苦しんでいる外国籍住民が多々いることを主張し、多言語の試験の実施を要望しました。

4.自治体の国際交流協会の活動について
 私たちは、地域に居住している外国籍住民が、その地域で自立して居住できることを願って、彼らの課題を当事者と一緒に解決しながら活動してきました。
 近年、県内各地の自治体に国際交流協会が設立されています。各自治体の国際交流協会の活動を詳しく点検してみてください。
 協会の活動は、お祭りの開催、日本人に対する外国語講座、交流している外国への派遣などが取り組まれている自治体があり、開店休業の協会もあるのではないでしょうか。
 しかし、私たちの調査では、一番取り組んで欲しい居住している外国籍住民へのサービスについての取り組みが見えてきません。
 自治体窓口の多言語対応、妊婦やお母さんたちへの相談会の案内を外国語でも出す、日本語読み書き教室の開催など取り組むことはたくさんあります。
 NGOの視点から見る国際交流は、まず居住している外国籍住民との交流と、この人たちへのサービスから出発すべきだと考えます。日本語読み書き教室を実施することだけでも、地域との交流問題や教育問題解決の一助になることもあります。
 また、地域に居住する外国籍住民をスタッフとして採用することも検討してください。外国籍住民をスタッフとして採用することで、良い結果が出ている自治体の例もあります。
 このような取り組みをすることによって、外国籍住民も住み良い多文化共生社会が実現するのではないでしょうか。この協会に対して多額の予算が準備されていることも聞いています。自治体の財  政事情が厳しくなっているのに、NGOから見ると有効に予算を使っていないとしか見えません。適切な施策を強く要望します。
 ※今回の提言については、事前にFAXで送付していましたので、各自治体は内容をしっかり見た上での対応がありました。
 政策提言を始めた年は自治体の対応に不満があったのですが、その後、私たちの提言に対して少しずつ実現していることが見られています。
 特に北九州市の対応の速さは目立ちます。県庁での意見交換の席でも「北九州市はすることを決めたら早いようですね」という話がでました。
 九州ネットの総会には福岡県と福岡市は職員が出席し「政策提言を待っています」という感想文を残していました。
 今回の提出では今まで以上に突っ込んだ意見交換ができました。行政側は「直接に外国籍住民に接することが無いのでこの提言は貴重です」という意見もありました。
 今回の提出では、私たちの政策提言が外国籍住民のために大切なものであることを再認識することができました。次年度も十分な準備をして提言を続けていくことにします。