ウイッカーマン ★★★
(The Wicker Man)
1975 US
監督:ロビン・ハーディ
出演:エドワード・ウッドワード、ブリット・エクランド、クリストファー・リー、ダイアン・シレント
<一口プロット解説>
イギリス本土から孤絶したある島の住民の一人から、ある少女が失踪したので調査してくれという手紙が本土の警察に勤める捜査官(エドワード・ウッドワード)の元に届き、その調査に島に向かうが・・・・。
<雷小僧のコメント>
実にスコットランドの風景がビューティフルな映画で、そういうビューティフルな風景の中で何やら怪しげな儀式が取り行われるのですね。超自然現象を扱ったいわゆるホラー映画ではないのですが、得もいわれぬ不気味さと同時に美しさがこの映画にはあります。一言で言えばある閉鎖的な町にやってきた主人公の捜査官(エドワード・ウッドワード)が、その町の陰謀に巻き込まれて最後には生け贄にされてしまうという映画なのですが、そういうストーリーの陰惨さよりも妙に無機的な美しさの方が際立っているのがこの映画の不思議なところなのですね。聞くところによると、あちらではこの映画にはかなりのカルト的なファンがいるようなのですが、それもなんとなく肯けるような気がします。途中で流れるフォークソングのような音楽も素晴らしいし、何も大掛かりな映画ばかりがエンターテイニングな映画であるという訳ではないことがよく分かります。
ところで、あちらではこれもカルト的な人気のある映画で「ウイッカーマン」と同時期に製作された「The Stepford Wives」(1975)というアメリカ映画がありますが、何となく似ているのですね。似ているというのは内容が似ているというよりは、シチュエーションと全体的な雰囲気がよく似ているという意味です。こちらの映画はアメリカのニューイングランドかどこかの非常にビューティフルなある郊外の町が舞台になっており、キャサリン・ロスとピーター・マスターソン(メアリー・スチュワート・マスターソンのお父っつあんです)という他所ものがこの郊外の閉鎖的な町にやってきて、次第にその町の陰謀に巻き込まれ、最後にはあわれ主人公(キャサリン・ロス)が犠牲になってしまうという映画です。でも最後にポール・デルボーの絵の中の女性達のようにアンドロイド化されてしまうロスがこれまた無機的に美しく、どうもアンエシカルな内容を逆に妙に美しく見せているという実にアンフェアな側面が、「ウイッカーマン」とそっくりなのですね。余談になりますが、私目はこの映画を見てはたとキャサリン・ロスという女優さんがどういう女優さんか分かったような気がしました。この人は、妙に無機的なのですね。無性的と言った方がいいかもしれません。「卒業」(1967)でダスティン・ホフマンがお母ちゃんのアン・バンクロフトの方にフラフラする理由はここにあったのかもしれません。それからあの「明日に向かって撃て」(1969)での彼女の美しさというのは、非常に無機的無性的なものであったように思います。何せ私目の卒業した高校では、この映画を生徒に体育館で見せていましたからね。
さて「ウイッカーマン」に戻りますが、この映画のハイライトは(ブリット・エクランドの全裸ダンスを除けば)何と言っても最後の生け贄のシーンでしょう。主人公が火あぶりになるその処刑台に是非注目しましょう(と言ってもいやでも注目せざるを得ないのですが)。何と、それは奇怪で巨大なわら人形なのですね(wickerとはこういう枝細工のことを言うのですが、それがばかでかいのです)。主人公のエドワード・ウッドワードがそれを見て「Oh!
My God!」を連発するのですが、クリスチャンでなくともそう言いたくなるのはよく分かりますね。異端の偶像崇拝というものが、クリスチャンの心の中で実際にどう写っているかを100倍に引き延ばしたような明快さがこのわら人形にはあります。それから、先程も少し述べたエクランドの全裸ダンスでしょう。随分と大胆な人です。と言ってもこの人は、どうやらこういうのが好きならしく、既にウイリアム・フリードキンの初期の映画「The
Night They Raided Minsky's」(1968)でも胸ポロリを平然とやっていましたし、「狙撃者」(1971)というあちらではこれまたカルト的な人気のあるイギリス映画でも、まるで何とかクラブのような電話をするマイケル・ケインに反応して、モゾモゾクネクネしていました。でも、私目はこの人のどこか間の抜けた愛嬌のある表情が好きなのですね。もう少しそういう印象をいかしてコメディ分野に進出していたら、もっと知られていたはずであろうなといつも残念に思っています。それから、「ウイッカーマン」にはショーン・コネリーの元奥さんだったダイアン・シレントが出ていて要所を締めています。ただ1つ気になったのは、クリストファー・ドラキュラ・リーが背広姿で閉鎖コミュニティの親玉を演じているのですが、どうもドラキュラが背広でいるのは妙な気がしてちょっと場違いに思えて仕方がなかったですね。
この映画はどうやら、国内でも奇跡的にビデオ発売されているようなので、見かけたら是非御覧下さい。尚、この映画のビデオには短縮バージョンが存在するようで、残念ながら私目の所有しているビデオはこの短縮版(84min)のようです。日本語版のビデオは、調べていないので短縮版かどうかよく分かりません。