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アガサ・クリスティの手になるミステリーの映画化であるとはいえ、「The Alphabet Murders」のようにそれをパロディ化した作品は他にはあまりないはずです。痩せのトニー・ランダールと太っちょのロバート・モーレーのコンビが登場する時点で、漫才の領域に足を踏み込んでいるのも同然であり、アガサ・クリスティのミステリーの正統的なファンは、怒り心頭に発して健康を害することのないようにむしろ見るのを避けた方が身のためかもしれません。監督のフランク・タシュリンは、アメリカ生まれであるとしても(とはいえゴダールらヨーロッパの映画人に結構受けていたそうです)、当作品はイギリス映画であり、ジョークの質はアメリカ的であるよりもイギリス的であると見なせるかもしれません。エルキュール・ポワロを演じているトニー・ランダールは、いつものようにいかにも小市民的であり、エルキュール・ポワロの貴族的ともいえるイメージとは全く合わず、まさにそのことは、この作品がパロディであることを明瞭に示しているのです。いずれにしても、ボーリング場で2レーンにまたがり、両手に持った2個のボールを一度に投げ、どちらのレーンでもストライクを取る彼の芸当は素晴らしい(本当に一人で投げて撮影したわけではないのでしょう)。また、ロバート・モーレーが、いつもの通りその巨大な体躯でイギリス人の勿体ぶったものものしさをパロっていますが、ほとんどクリーシェ化している彼のパフォーマンスは、それだけに一層愉快です。1つ残念なのは、グラマラスなエニタ・エクバークが、犯人役で登場しながら、目立った出番があまりないことです。要するに、色気には普段ほとんど縁のないトニー・ランダールの映画だと見なすべきなのでしょう。