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70年代のコメディ映画の1つであり、大会社をくびになったディック(ジョージ・シーガル)とその奥さんジェーン(ジェーン・フォンダ)が、生活に困ってひょんなことから泥棒稼業に手を染めるという洒落にならないところのあるストーリーが展開されます。コメディなので当然面白可笑しく味付けされていますが、現実にも不況時代には同じようなシチュエーションがいくらでも起こり得ることを考えると、「これは単なるコメディです」と言って済まされない面があります。また、このようなシチュエーションはいかにも70年代的であり、都会の生活に関する一種の不安感がコメディという形態をとって噴出していると見なせるかもしれません。けれども、かくして下手をすればブラックジョークにもなりかねない内容を持つにもかかわらず、ブラックさや嫌味がほとんど感じられないのは、やはり主演のジョージ・シーガルが持つパーソナリティ故であるように思われます。そのことは、同様に都会の殺伐さや都会の生活に対する不安感がテーマとして扱われている70年代のコメディである「おかしな夫婦」(1970)や「The Prisoner of Second Avenue」(1975)に主演しているジャック・レモンに比べるとより明確になります。ジョージ・シーガルは、神経質な面を持つコメディアンのジャック・レモンに比べると、毒がほとんど感じられない俳優さんであり、都会のネガティブな側面がコメディ化されていても、体の前面ではコメディを演じていながら体の背面からはフツフツと都会に対する悪感情が沸き上がるなどということがほとんどないのです。従って、テーマがテーマであるにも関わらず、最初から最後まで純粋なコメディとして安心して見ていられます。裏を返せば、彼のパフォーマンスは、あまりにもストレート過ぎ、全く嫌味を感じさせないので、かえって物足りなさを覚えるオーディエンスもいるかもしれません。2005年のリメイクでは、ジム・キャリーがディックを演じていましたが、彼の方がもっとダークな陰影とひねりを加えることができることでしょう(実際どうであったかは残念ながら記憶にありません)。正直なところ、テッド・コッチェフが監督しジョージ・シーガルが主演した当時の作品としては、「料理長殿、御用心」(1978)の方が遥かにコメディとして優れていると思っていますが、それでもこのような下手をすると洒落にならない題材をうまくコメディ化する手腕は評価できます。