各国のコーヒー産地から

バラコ・コーヒー
(2001.8 NHKワールドリポートより)

 フィリピンはかつて世界第4位をほこるコーヒーの生産国であった。フィリピンでコーヒーが採れなくなって以降、ブラジルなど南米でのコーヒーの生産が盛んになった、といういきさつがある。
逆にフィリピンのほうは、その後、コーヒーの輸入国としての歴史が長く続いた。

こういったコーヒーの歴史があるフィリピンで、現在人々に昔から飲まれてきた『バラコ』というコーヒーを復活させようという取り組みが始まっている。

このバラコだが、コーヒーの3大原種のうちの、リベリカ種。もともとは19世紀末にアメリカがフィリピンに持ち込んだもので、『バラコ』という名前はルソン島南部にあるバタンガ州にちなんでつけられたものといわれている。

今、フィリピンで生産されているコーヒーはロブスタ種がほとんど。海外資本のインスタントコーヒーのメーカーがブレンド加工用のロブスタ種ばかりを買い付けるためである。
しかしフィリピンでは、コーヒー農家の人々が家庭用としてバラコの木をわずかながら残して育ててきた。
独特の風味があり飲んだ後には強い苦味が残るが、コーヒー農家の人々は「バラコが1番おいしい」と言ってはばからない。

このバラコを復活すべきだと熱心に唱える人がいる。ロジャー・バグワオというカトリックの神父さんである。
バグワオ神父はルソン島南部のカビテ州にあるタガイタイで20年近く布教活動を行っている。タガイタイは標高400mほどの高地にあってコーヒー農家が集まっている。神父は布教活動のかたわらコーヒー農家への農業教育や支援を続けてきた。そして今、バラコの復活をコーヒー農家に働きかけている。

コーヒー農家が主に育てているロブスタ種の買い付け額はここのところ低下してきている。
バグワオ神父は
「バラコはかつて中東にも輸出されていた伝統的な製品でもっと売れるものだ。バラコを育てることは農家の収入増にもつながるはずだ。」
と話している。
神父の活動を知ったフィリピンのコーヒー財団もバラコ復活の後押しに乗り出した。いまでは店頭でもバラココーヒーのキャンペーンが始まっている。
2001年7月にはタガイタイで神父とともにバラコの苗木を市民が植えるイベントが行われた。市民1人が100ペソ(約250円)ほどを出資してコーヒーの苗木を植えオーナーになるというもの。このイベントには50人以上が参加した。

なかなか活動は盛況ではあるが、肝心なのはフィリピンの人々の受け止め方である。ほとんどの人々が、輸入されたアラビカ種のコーヒーの味になじんでしまっているのも事実。そうした中でどのように『バラコ』を売れる商品としてそだてあげていけるかが課題だろう。
コーヒー財団の関係者は『バラコ』をフィリピンを代表する輸出品にしたいとしている。
しかし、リベリカ種自体が世界的にけっして高い評価はうけていないという状況下で、どこまで商品価値を高めていけるのか、神父や関係者の取り組みに期待がかかっている。


l

ブルマンと自然
ニューキャッスル・ブルーマウンテンコーヒー栽培者共同組合だより、から

 ブルーマウンテンコーヒーが栽培されているのは、ジャマイカ島の東部に位置するブルーマウンテン連山を中心とした法律で定められた区域です。この地区はコーヒー農園ももちろんありますが、国立公園、水源涵養保安林(キングストンの水道水などを賄う)、自然保護区など、勝手に木を切ったり、農地を開拓石したりてきない所が大半で、どちらかというと大自然の中に農園が点在しているといった感じです。

 農園と言っても、とても急岐な斜面に作られていて、斜度40度以上ある所もあり、上から見ると崖の上に立っているようなものです。慣れない人は、足を滑らせて落ちることもあります。

 農園には珍しい野鳥がシェッドツリーに群れて羽を休めていたり、コーヒーの木の周りに植えられている花にはハミングバード(蜂鳥)たちが、蜜を吸いにホバリングしています。中にはコーヒーチェリ一を食ぺる鳥もいます。

 コーヒーチェリーを食ぺるのは鳥ばかりではなく、昆虫やねずみ、こうもりもやってきます。ある農園主によると、たくさん食ぺられては困りますか、普通、被害はわずかで、彼等の分け前であり、権利であると考えているとのことでした。

 化学肥料や農薬は使っていますが、もちろん最小限にとどめているつもりてす。コーヒーチェリーを食ぺる彼等がいなくなったときは、農民自身が危険にさらされるときではないでしょうか?

 どこの国でも同じでしょうが、農業は虫害、病害、大水、干ばつ等、自然との戦いです。しかし、これらの災害では、滅多に木が全滅することはありません。一番怖いのはハリケーンです。

 1988年、ハリケーン“ギルバート”が、ジャマイカ、それもブルーマウンテンコーヒー栽培地区を直撃しました。被害のひどかったところでは、コーヒーの木が根こそぎ引き抜かれてしまいました。決定的な被害を免れた木も、ほとんどは葉を吸い上げられてしまい、カットバック(台切り)をしなければなりませんでした。カットバックをすると、2年は実をつけません。

 過去の歴史を見ると、ジャマイカは10年に一度の割合でハリケーンの直撃を受けています。前回のハリケーンから今年ちょうど10年、もうそろそろという時期にきています。科学の進んだ現代でも逆らうことのてきない大自然の力なので、直撃することのないようにただお祈りするぱかりです。


カルモ・シモサカ

カルモ・シモサカはブラジル、ミナス州カルモ・ド・パラナイーバ市にある下坂農場で収穫した最高級のコーヒー豆です。イタリア、イリカフェ社主催の“ブラジルコーヒーコンテスト”で、日本人で初めてベスト10に入賞した下坂匡氏。 珈琲屋Beansの「カルモ・ブラジル」と「カルモ・ピーベリー」はこのカルモシモサカの豆です。