フィリピンはかつて世界第4位をほこるコーヒーの生産国であった。フィリピンでコーヒーが採れなくなって以降、ブラジルなど南米でのコーヒーの生産が盛んになった、といういきさつがある。
逆にフィリピンのほうは、その後、コーヒーの輸入国としての歴史が長く続いた。
こういったコーヒーの歴史があるフィリピンで、現在人々に昔から飲まれてきた『バラコ』というコーヒーを復活させようという取り組みが始まっている。
このバラコだが、コーヒーの3大原種のうちの、リベリカ種。もともとは19世紀末にアメリカがフィリピンに持ち込んだもので、『バラコ』という名前はルソン島南部にあるバタンガ州にちなんでつけられたものといわれている。
今、フィリピンで生産されているコーヒーはロブスタ種がほとんど。海外資本のインスタントコーヒーのメーカーがブレンド加工用のロブスタ種ばかりを買い付けるためである。
しかしフィリピンでは、コーヒー農家の人々が家庭用としてバラコの木をわずかながら残して育ててきた。
独特の風味があり飲んだ後には強い苦味が残るが、コーヒー農家の人々は「バラコが1番おいしい」と言ってはばからない。
このバラコを復活すべきだと熱心に唱える人がいる。ロジャー・バグワオというカトリックの神父さんである。
バグワオ神父はルソン島南部のカビテ州にあるタガイタイで20年近く布教活動を行っている。タガイタイは標高400mほどの高地にあってコーヒー農家が集まっている。神父は布教活動のかたわらコーヒー農家への農業教育や支援を続けてきた。そして今、バラコの復活をコーヒー農家に働きかけている。
コーヒー農家が主に育てているロブスタ種の買い付け額はここのところ低下してきている。
バグワオ神父は
「バラコはかつて中東にも輸出されていた伝統的な製品でもっと売れるものだ。バラコを育てることは農家の収入増にもつながるはずだ。」
と話している。
神父の活動を知ったフィリピンのコーヒー財団もバラコ復活の後押しに乗り出した。いまでは店頭でもバラココーヒーのキャンペーンが始まっている。
2001年7月にはタガイタイで神父とともにバラコの苗木を市民が植えるイベントが行われた。市民1人が100ペソ(約250円)ほどを出資してコーヒーの苗木を植えオーナーになるというもの。このイベントには50人以上が参加した。
なかなか活動は盛況ではあるが、肝心なのはフィリピンの人々の受け止め方である。ほとんどの人々が、輸入されたアラビカ種のコーヒーの味になじんでしまっているのも事実。そうした中でどのように『バラコ』を売れる商品としてそだてあげていけるかが課題だろう。
コーヒー財団の関係者は『バラコ』をフィリピンを代表する輸出品にしたいとしている。
しかし、リベリカ種自体が世界的にけっして高い評価はうけていないという状況下で、どこまで商品価値を高めていけるのか、神父や関係者の取り組みに期待がかかっている。
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