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作・アントン・P・チェーホフ 絵・イリーナ・ザトゥロフスカヤ 訳・児島宏子 (未知谷・二一〇〇円) |
娘とロシアのアニメーションを映画館でみました。今年のはじめのことです。
DVDで楽しんでいたのですが、やっぱりスクリーンの大きさにはかないません。ノルシュテインや、ナザーロフの世界を思い切り堪能できました。
絵本「霧のなかのハリネズミ」でも知られているノルシュテインですが、彼が敬愛している作家が、「ロスチャイルドのバイオリン」を絵本のかたちで作品にしたイリーナ・ザトゥロフスカヤです。原作はチェーホフの短編です。棺おけ作りが生業のヤーコフは、バイオリンの名手でもありました。ユダヤ人のオーケストラに請われて演奏に起用されるのですがフルート演奏のロスチャイルドが気に入らず、言いがかりや悪口を浴びせます。殴りかかったこともあったので、ヤーコフはめったに演奏に呼ばれなくなりました。ヤーコフの妻が死に、埋葬した日、ロスチャイルドがオーケストラにきてほしいと頼みにきました。そのロスチャイルドにヤーコフはひどい言葉をなげつけます。しかしヤーコフが死に瀕したとき、彼の奏でる最後の音楽に心ふるわせ涙したのは、ヤーコフを恐れながらも彼の音楽を認めているロスチャイルドだったのです。ヤーコフのバイオリンはロスチャイルドのバイオリンになりました。彼の音楽とともに。
装丁も水墨画風の絵も地味な本です。抑制されたチェーホフの語り口も読み慣れないものかもしれません。でもこの絶妙なコラボレーションに出合うことは、子どもにとっても大人にとっても貴重な体験になると思います。(良書をすすめる会・堀幸子=冨山市)
北日本新聞 親子で読む
2005年7月31日日曜日