ハマグリ(蛤)についてのいろいろ  -2006.08.16Up

 ハマグリ、英名 Common orient clam、学名 Meretrix lusoria

 マルスダレガイ目 マルスダレガイ科に分類される二枚貝の一種である。英語の clam は二枚貝一般を指す単語なので、誤解を生ずるときがある。

【ハマグリの種類と概要】 分類学上、ハマグリ属(Meretrix)として知られているものは以下の通りである。
  • ハマグリMeretrix lusoria) −日本(北海道から九州の内湾)
  • チョウセンハマグリMeretrix lamarckii) −日本(茨城県から南の外洋に面した砂地)、フィリピン
  • シナハマグリMeretrix petechialis) −朝鮮半島、中国沿岸
  • タイワンハマグリMeretrix meretrix) −台湾原産、ボルネオなど
  • ミスハマグリ(Meretrix lyrata) −ベトナム,海南島など
 (以上のリンクは「ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑」内にしてます。)

 この他にも東南アジアからインドにかけて5種が認識されているが,まだ分類学的研究の余地が残されているらしい。

 ところで、本来の純粋なハマグリ(Meretrix lusoria)は絶滅寸前とのことで、三重県(木曽三川河口域)??、熊本県、大分県など一部で取れるだけになってしまっている。市場に流通しているのは9割以上は輸入品、そして国産とか地物と称しているものも、それらはチョウセンハマグリか中国や韓国から入ってきたシナハマグリのことで、日本古来の本物のハマグリではない。漁獲量日本一の茨城県鹿島灘で取れるのはチョウセンハマグリ、三重県あたりで取れるのはほとんどが中国から輸入したシナハマグリを、一度日本の海岸に撒いてから(これを蓄養というらしい)収穫して国産とか地物といって売っている。「桑名の焼ハマグリ」という言葉は有名だが、今では本物はほとんど取れないらしい。本来のハマグリは内湾に生息するが、干拓工事や環境汚染の結果、本物のハマグリが激減したところへ、中国からもってきたシナハマグリをそこへ放流してしまったから、追い討ちをかけるように本物のハマグリがいなくなったそうだ。また、鹿島灘のような外洋で育つのはチョウセンハマグリである。

 なんだか悲しいですね!!!

 このあと、日本書紀の中のハマグリについての解説、ハマグリの産地・生態・天敵について引用した記載を掲げます。

【参考リンク集】

    【日本書紀とハマグリ】 日本では大昔からハマグリを食べていたようです。縄文時代〜弥生時代の貝塚から出てくる貝殻はそのほとんどがハマグリとのことです。また、書物に初めて登場するのは日本書紀で、「第12代 景行天皇」に関する記述の中にある。その一節を紹介する。

     『五十三年秋八月丁卯朔、天皇詔群卿曰、「朕顧愛子、何日止乎。冀欲巡狩小碓王所平之國!」。
     是月、乘輿幸伊勢、轉入東海。冬十月、至上總國、從海路渡淡水門。是時、聞覺賀鳥之聲。欲見其鳥形、尋而出海中。仍得白。於是、膳臣遠祖名盤鹿六鴈、以蒲爲手繦、白爲膾而進之。故美六鴈臣之功、而賜膳大伴部。十二月、從東國還之、居伊勢也。是謂綺宮。』

     なんだか分からん!というのがあたりまえなので、以下に訳を。。。

     (訳) 景行53年(西暦77年)の秋8月1日、天皇は群卿に命令して言った。「私の愛した子(日本武尊)を思いしのぶことは、いつかは止まってしまう。できれば、日本武尊の平定した国々を巡ってみようと思う。」
     この月、天皇は伊勢から東海道に入った。冬10月には上総の国に着いて、海路より安房の国に渡った。この時、覚賀の鳥(ミサゴ・鶚のこと)の鳴声が聞こえた。天皇はその鳥の姿を見たいと思って海の中に入っていった。そのとき、大きなハマグリを見つけて得た。ここに膳臣の遠い祖となる盤鹿六鴈(いわかむつかり)という名の者が、包丁をとって手繦(たすき)を着て、このハマグリを刺身にして勧めた。天皇は(とても美味しくて満足されて)その功をたたえて膳大伴部(料理長)を任命した。12月、東国から戻り伊勢に住んだ。これを綺宮(かむはたのみや)という。

     つまり、日本武尊(やまとたけるのみこと)は東国を平定した帰りに病で亡くなった訳だが、その父である景行天皇が我が子日本武尊を思いしのんで東国の地を巡った際に自らハマグリを見つけ(海の中で足の裏でグリグリして獲った?)、それを調理した人(盤鹿六鴈)を宮廷公認の料理人第一号に任命したという話です。
     千葉県安房郡(南房総)の高家神社には、この「料理人の祖」となる盤鹿六鴈命が祀られています。つまり「料理の神様」ですね。ということは、ハマグリは料理の神様となるきっかけになった食材ということですね。

    【ハマグリの産地・生態・天敵】 教えて!goo : ユーザー ursid21氏の、Natsu氏のハマグリに関する質問に対する回答からそのまま引用。

     (産地) 日本での生息地として有名なのは,三重県桑名ですが、もう過去のようには採れません。(1970年代に3000トンあった漁獲が95年には2トンまでおちた) 実際,絶滅危惧種にハマグリを指定している県もあります(山口県など).他には、熊本県の宇土というところがあるが、あまり大型のものは採れないそうです. ハマグリの漁獲高が100tなのに対して,300tの漁獲高を誇るのが,チョウセンハマグリです.やはり鹿島灘が代表的な産地です.また南西諸島やフィリピンにも分布域が及んでいるとも言われています(種子島では確認済みです).チョウセンハマグリはハマグリよりも前後(普通の人の感覚では横)に長く,成貝の大きさは13cm以上にもなり,この属の中では最大です.殻自体の厚みもあり,昔から白い碁石の原材料として使われてきた。 よくスーパーで見かけるのは茨城産や三重産のものですが,茨城産のものはまずチョウセンハマグリと思って間違いないでしょう.注意が必要なのは三重県産ですが,どうやら三重県で養殖しているシナハマグリを三重県産として売っているような気がします.シナハマグリでない三重県産のハマグリはほとんどありません.見分けるポイントは,シナハマグリはハマグリに比べて貝の膨らみが弱いことと,比較的安定した模様が殻の表面に出るということです.一般的な模様は,くすんだ白地に雷のような褐色のジグザグが出るというものです.

     (生態) さて生態ですが,摂食について触れると,ハマグリは海水中のけんだく物を海水ごと入水管から取り入れて,それをえらで濾しとります.残りの海水は出水管から排出します. アサリやハマグリなどの海産の二枚貝では,精子と卵子は水中に放出されて受精し,幼生はプランクトン生活をしながら変態を完了して底生生活に移る。幼生についてですが,生まれてから着底するまで漂泳生活をおくる期間があります.この間は海水中の浮遊物を栄養として摂取することで成長します(ちょっと記憶が定かでないので要確認).着底してからは砂の中にもぐり込んで水管だけをにょきっと出して海水を取り入れて懸濁物中の有機物を濾過します.これまでの古生物学の研究から,少なくともこの摂食方法はカンブリア紀以降現在にいたるまで,最も多くの二枚貝が採用してきた基本的な食性であると考えられています.

     あとハマグリの生態でおもしろいのはアサリなどにも見られるようにカニが殻の中に共生(寄生?)することがあることです.インドから取り寄せたMeretrix casta というハマグリの中に,ピンノという小型のカニが入っていました.このカニはどうやらハマグリの摂取した栄養を横取りしているようです(どうやって横取りしているかは知りません).私が見つけたそのカニはメスで,ちゃっかりと小さな卵をたくさん抱えていました.もしそのだったならハマグリの中から小さなカニ達がたくさん出てくるということもあったんでしょうか?確かに殻の中はカニにとって安全そうですが,ハマグリにとってはきっといい迷惑なんでしょうね.

     生き物って面白いですね

     (天敵) 一般に日本の砂浜に生息する二枚貝(ハマグリ,アサリ,シオフキ,バカガイなど)の天敵は,ツメタガイやアカニシといった巻貝です.ツメタガイは化学的穿孔という方法で二枚貝の殻に外側から丸い穴をあけ,そこから中身を食します.砂浜に打ち上げられた二枚貝の殻に1〜3mm位の穴があいていれば,それはまずツメタガイの仕業です。

    【ハマグリの生態】 農林水産研究文献解題 No12 水産増養殖編 (4)アサリ・ハマグリの増殖 より抜粋引用

     産卵期は通常, 7月を中心とした6〜9月である16,23,30,41。)産出卵は受精後20時間でD型幼生に発生し,以後10日間の浮遊期を経て沈着する46)。D型幼生の至適な水温および塩分はそれぞれ16〜27℃および19.3〜36.3%とみなされている34)。変態期幼生は河口付近で,底質の砂率が高く,大潮時4〜6時間干出する比較的岸寄り域に多く沈着する。沈着幼生は底質の粒度が細から粗に移るにしたがってその密度,生残率が高まる46)。沈着初期稚貝に粘糸状足糸をみることはまれである。 6月中心に出現する殻長1〜21mm大のものは前年に発生し,越年したものであって,翌年6月に殻長22〜25mmに成長する24)。環境変化に対する抵抗性が調べられたか55),大分県和間地先における稚貝濃密分布域の環境は,地形は河川内,または河口域の澪沿いで,澪がカーブしてしている所の内側;地盤高,0.8〜1.6,とくに1.2m ;泥分率. 5〜10%:底質中央粒径値 0.2〜0.4mm:淘汰係数, 1.2〜1.4 ;硬さ,さらさらした柔らかい底質;塩分, 21.7〜30.7%。の河川水の影響ある所;干潟温度, 33〜35℃以下である。17)好適発生域はEh値が高い1)。
     成貝について, 9月は産卵によりグリコーゲン,粗脂肪ともに消費され,肉質部も減少して最も衰弱している時期である38)。酸素消費量からみると,高水温に対する抵抗性は大形貝では28℃付近に限界があるのに対し,小形貝では33℃でも増加し,大形貝より小形貝の適応範囲が広い。また,酸素消費量が最大値を示した塩分は 大形貝では29.8‰だが,小形貝では21.7‰で,大形貝より小形貝の方が低塩分海水に適していると判断された19)。生息場所の底質は強熱減量が4%以下,全硫化物が0.004mg/g. dry以下,中央粒径値が0.15〜0.3mm,泥分率10%以下のところである22)。
     本種は とくに夏季,殻長3〜5cmの成長期において多量に分泌した粘液によって,落潮時沖合に移動することが知られているが7),その粘液は主として水管周縁の外とう膜内面を構成する粘液組織からの分泌に由来するものらしい7)。粘液分泌の機構は明らかでない。

    (以上)
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