生物多様性条約 COP10 について  -2010.10.20Up

 目次:

  1. COP10開催前の時点での解説
  2. COP10開催後の解説: 名古屋議定書

【1.COP10開催前の時点での解説】 

 生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)の主要会合が、10月18日に名古屋市で始まった。今年になって、急にこの生物多様性条約(CBD)関係の報道が増えた。おかしなものである。。それまで、全く知らずに、または関心も無かった人が急に関係者になったりする。そして、そのほとんど全てが本当の姿(いわゆる実態)というものに全く言及できていない。
 知らないのか、言えないのか分からないが、とにかく報道ベースで発表になったことは、その多くが間違いであると言っても良いレベルか、または極めて上手くかわそうとする表現系である。例えば、環境省や外務省の発表は、嘘とまでは言わないにしても、事実とは大きくかけ離れた理解を与えるものであった。

 生物多様性条約という名称から、いま生きている様々な生物やその環境を守ろうということが主題であるかの報道がされる。それは間違いではないが、事実や実態ではない。

 COP10が始まった18日だったか、BSフジのプライムニュースでこのCBDを取り上げた。環境大臣が生出演して語っていたが、まだまだ不十分な理解であることが丸出しだった(でも、それは致し方ないことです。にわか勉強は本当に大変だっただろうとおもうからです)。解説役としてでていた○○総研の方も、まだまだ解説できるほどの専門家とは言えなかった。実際に現場経験している企業の方はしっかりしていた。(私の友人でもある実務者が実はスタジオに控えていたそうだ)

 一応ボクも専門家の端くれとして、以下、CBDの本質について解説を試みたい。

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【生物多様性条約の概要と経過】

 CBDは、1993年12月29日に発効した。なんと17年前に発行した条約である。それが実は、今でも混沌とした状況なのである。

 さて、条約の目的は、以下の三つである。

  1. @生物多様性の保全
  2. Aその構成要素の持続可能な利用
  3. B遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分(条約第15条)

 この?@と?Aは、環境関係の事象であると言えるだろう。交渉はいろいろあるが、大きな問題になっているわけではない。なんとなく前進しつつ各国がやってきた・・というところだろうか。

 問題は、?Bの「遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分」である。ここが一番の問題であり、これが17年経ても混沌とした状況なのである。

 ボク等は、これを「ABS」(acsess and Benefit Sharering)といって、「ABS」や「CBD-ABS」と称している。

 このABSは第15条に記載されているのだが、以下のことが規定されている。

  • −遺伝資源に関する保有国の主権的権利を有する
  • −遺伝資源の利用から生じる利益の公正かつ衡平な配分をする
  • −遺伝資源を取得する際には、相手国からの事前同意を必要とする、つまり遺伝資源の自由な持ち出しを制限している
  • −条約の担保は、各国の国内法令で行うことが原則

つまり、他国の遺伝資源(動植物や微生物など)を使いたいときには、その国の同意を先ず取って、使った結果、利益がでたらそれを公正衡平に分けなさいとなっている。

この点については、17年前に既に条約になっており、現在193ヶ国が既に同意していることである。2010年10月現在、日本・EUを含む193か国(昨年、ソマリア、イラクも入った)が加盟している。しかし、米国は署名してるが批准してないところが味噌である!

ところで、
条約は具体的なことは書いてないので(条文は以下で触れる)、具体的に実行しようとすればより具体的な決め事が必要になってくる。

交渉の経緯だけ、さっと書いてみよう。

すったもんだの議論の末、
2002年4月、第6回締結国会議COP6で「ボン・ガイドライン」を採択した。ガイドラインなので拘束力はない。
そして、
2006年COP8 では、COP10までに国際的枠組みの検討作業を完了させること (アクセスと利益配分(ABS)に関する国際的制度(International Regime、IR)の議論をCOP10までに完了させること)を決議した。

そして、今、何故か…名古屋でCOP10が開催されているのである。

【第15条条文紹介

 ABSのことは第15条に規定されている。

第15条

1.各国は、自国の天然資源に対して主権的権利を有するものと認められ、遺伝資源の取得の機会につき定める権限は、当該遺伝資源が存する国の政府に属し、その国の国内法令に従う

2.締約国は、他の締約国が遺伝資源を環境上適正に利用するために取得することを容易にするような条件を整えるよう努力し、また、この条約の目的に反するような制限を課さないよう努力する。

3.この条約の適用上、締約国が提供する遺伝資源でこの条、次条及び第19条に規定するものは、当該遺伝資源の原産国である締約国又はこの条約の規定に従って当該遺伝資源を獲得した締約国が提供するものに限る。

4.取得の機会を提供する場合には、相互に合意する条件で、かつ、この条の規定に従ってこれを提供する。

5.遺伝資源の取得の機会が与えられるためには、当該遺伝資源の提供国である締約国が別段の決定を行う場合を除くほか、事前の情報に基づく当該締約国の同意を必要とする。

6.締約国は、他の締約国が提供する遺伝資源を基礎とする科学的研究について、当該他の締約国の十分な参加を得て及び可能な場合には当該他の締約国において、これを準備し及び実施するよう努力する。

7.締約国は、遺伝資源の研究及び開発の成果並びに商業的利用その他の利用から生ずる利益を当該遺伝資源の提供国である締約国と公正かつ衡平に配分するため、次条及び第19条の規定に従い、必要な場合には第20条及び第21条の規定に基づいて設ける資金供与の制度を通じ、適宜、立法上、行政上又は政策上の措置をとる。その配分は、相互に合意する条件で行う

 以上が条文だが、概要で要約した内容がそのままストレートに書いてある。ここで、最も問題なのは第1項に規定されている「自国の天然資源に対して主権的権利を有する」と決めたことである。

 それまで、天然資源は人類の共通の財産であると考えてきた。それば、このCBDによって、各国のものであるとなってしまったのだ。

 先ずは、ここに根本的な誤りがあった。と言ってももう遅いのだが。。

 これを認めてしまったが故に、逆に本来の主旨であった生物多様性の保全が進まなくなったとも言える。保全に取り組んでいない国があって指摘したくとも、基本的には「俺のものなんだから外からガタガタ言うな!」という論理が通用してしまう。。

 ましてや、ABSは経済問題である。(環境問題ではない)

 利益が直接的に絡んでくるから、はいそうですか・・と言う国はいない。それが17年経ても混沌としている。

 実は、大きな問題点がもう一つある。それは第16条に記載されている※。それは、『この条約は特許制度と矛盾するところがあるから、そこは各国善処しよう』・・という主旨の記載があるのだ!なんだそれ?という内容だが、これが実態なのである。(注:本稿末尾に※として第16条を記載した。知財に関する条文だが、何これ?という内容だ!)

【COP10までの歩み】

 ボンガイドライン採択後の歩みは伊かのようである。2002年にボンガイドラインが採択されたが、資源国はボンガイドラインに欠いてあることをほとんど護っていないのが実態であった。すなわち、全会一致で採択されたガイドラインには『政府窓口を設置、国内法を制定して、アクセスの手続きを明確化する。』ということが記載されているが、そうした措置を行った資源国は全くと言っていいほどない。その結果、遺伝資源へのアクセスをするためにどのような手続きを行ったらよいのかが不明または不明瞭なまま放置されてきた。

 では、その間何をやってきたのか?
 資源国は、ボンガイドラインは義務ではない(拘束力がない)から、法的拘束力のある国際制度で利用国のアクセスを規定しなければダメだといい続けてきたのである。これに対して、利用国側は、ボンガイドラインにしたがって各国やるべきことをしっかりやれば、それで公正・衡平な利益配分は可能だとしてきた。 

  • COP6: 2002年4月、「ボン・ガイドライン」を採択

  • COP8: 2006年 COP10までに国際的枠組みの検討作業を完了させることを決議
    • アクセスと利益配分(ABS)に関する国際的制度(IR:International Regime)の議論をCOP10までに完了させる

  • COP9: 2008年5月19日〜30日
    • COP10までに検討作業を完了することとされている国際的制度(International Regime、IR)についての下記ロードマップが採択された。
    • COP10までに行う作業として、以下が合意された。
      • @ ABS作業部会を3回開催する.
      • A WG6, 8条(j)作業部会を1回開催する
      • B 作業部会の会合に当たり、事前の地域内及び地域間協議を実施する
      • C 技術専門家会合を3回開催する?
      • COP10: 2010年10月18日〜29日(名古屋)

  • COP10: 2010年10月18日〜29日(名古屋)
  • COP10誘致や議長国としての意味
    • COP10での国際的な関心は、割合として半分以上はABSだ(K先生談)が、日本ではそうした認識はほとんどない。環境省が環境保全の認識で誘致してしまった
    • 開催国だから何かしなければならない、ということは基本的には無いはずなのだが、開催国なんだから…と、とかく言われやすいのは現実(K先生談) 。

 ここで、国際的な対立の構図を分かりやすく図示しておこう。

 

  • 【利用国】 ボンガイドラインで十分
    • ボン・ガイドラインに基づく、遺伝資源提供国による国内法の制定、提供国と利用者による利益配分に関する契約の締結により、公正かつ衡平な利益配分の達成は可能。
      (スイスとノルウェーは、法的拘束力のある制度に対してて、一定の理解を示してきた。)
  • 【資源国】 法的拘束力が必要
    • 遺伝資源提供国による事前同意のない資源の国外への持ち出しの防止、確実な利益配分を確保するために、法的拘束力のある国際的枠組みが必要。

  • こうした対立の中、中間案的な側面もある「国際認証システム」の検討なども行ってきている。正しい手続きで得た遺伝資源には国際認証を与えて明確にすればよいという考え方だ。
  • 日本は、特定の国々と個別交渉をしてアクセスの仕組みを作ったり(NITE-NBRC)、または二村さんが立ち上げた「ニムラ・ジェネティック・ソルーションズ」というベンチャー企業の努力等によって、幾つかのアクセスルートが確保された。
     特に、二村さんは、マレーシアのジャングルの中で伝統生薬の調査などの過程で、現地の住民と会い、酒を酌み交わし、そして信頼を得てといった経緯を経て、マレーシア政府の信頼を得て、遺伝資源へのアクセス権を取得した方だ。昨年は、そうした実績からブータン政府とも契約してブータンの遺伝資源へのアクセス権も得ている。ジャングルの中にいる方が体調が良いらしい!?(Nimura Genetic Solutions
    メルシャンがインドネシアの公的研究所と契約して、国内企業向けに資源アクセス事業も開始されたりもした。
  • COP9では、COP10へのロードマップが採択された。基本的には三回の作業部会を経て、ABSに関する国際制度(議定書)を詰めようという段取りが決議された。
    そして、なんと馬鹿なことに、日本がCOP10開催国に、ABSの実態を全く知らないで立候補したのだ。
    開催決定時に、名古屋の政治家の方々の喜びの姿など報道されていたが、言葉は悪いが、私は、その能天気ぶりにあきれた。この時、山のように議員が物見遊山で参加した(これも税金の無駄使いだ)
    実は、日本以外は立候補していなかったので、日本に決まるのは当たり前だし、そもそも、ABSが混沌としている状況の中で肝となるCOP10での議長国になろうなんて考える国はいないのである。他の国々が立候補するはずがないのだ。
  • その当時、私が、あきれはてて何考えてるんだ…と思いつつ作成してお蔵入りしていたスライドを紹介しよう。
    (個人の人格を批判しているのではありません)

  • この間、EU提案という現実的な提案がなされた。基本線は、「国際アクセス標準」を決めて、これを守ってアクセスを提供したものなら、それに対して「法的拘束力」を認めようといするもので。そのほか、産業セクター別にモデル契約書を作成しよう、等々のもので、かなり現実的かとおもいました。それでも資源国は大反対でした!!

【今年になってから】

 COP9( 2008年5月19日〜30日)にて決議されたロードマップだが、以下のように「ABS作業部会を3回開催する」とある。

  • COP10までに検討作業を完了することとされている国際的制度(International Regime、IR)についての下記ロードマップが採択された。
  • COP10までに行う作業として、以下が合意された。
    • @ ABS作業部会を3回開催する.
    • ・・・・・・(省略)・・・・

 この最後の作業部会は、3月に行われた。本会議まで約半年前だ。普通は、ここで、本会議で採択される議定書案が決まる。最後の詰めを本会議で行って採択というのが普通の段取りだ。

 ところが、17年議論してきて全く歩み寄りの無い混沌状態である。そもそも、ボンガイドラインを決めても、全くその通りに行おうとしなかった資源国である。常識ではあり得ない主張を10年以上も繰り返した、それどころかドンドンエスカレート気味でもある資源国が主張をここで引っ込めるはずも無いし、あり得ない主張を利用国が受け入れて決まるはずがない。

 当然、最後の作業部会もほぼ決裂だった!

 しかし、それで終わると議場国の名が廃る。。ということか、日本がお金をだして、最後の作業部会part2をやることになった。そして7月、作業部会part2を行ったが、これもほとんど決裂。議定書案の37項目ある事項で合意したのは僅か7項目だけである。

この時の、外務省の発表は、以下のようだ。。
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概要

(1)本年3月に共同議長から提示された議定書原案について、多くの論点で、遺伝資源の利用国、提供国の間で合意が形成され、条文の文言が一本化された

(2)未だ利用国、提供国間で意見の対立が続く残りの論点については、各国の異なる立場が明確化されるなど、今後の意見収れんに向けて相互理解が促進された

(3)本作業部会は、COP10の直前に再開されるまで更に継続され、9月中旬に追加会合が開催されることとなった。
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 これを読むと、ほとんどまとまりかけていると読める。
 しかし、実態は決裂状態だった。しょうがないので、part3会合をまたまた日本がお金をだして開催することになった。前回のCOP9で、作業部会は3回と決議されているので、三回目の作業部会を終わらせることができないのだ。しかたなくて、第三回目作業部会を延々のばして、part2、part3まで行うことにした。(どうせダメなんだから無駄金を使うなよ!・・とボクは思った。これもボクらの税金からでてるのです。)

 さて、9月にpart3会合を行ったが、ここで決まったのは、出来てもいない議定書の管理運営方法ぐらいで(笑)、その他は決裂だ!!だって、17年も接点の全く無い勝手な主張してきた国々が合意するはずが無いじゃない。。

 こうして、この10月本会議を迎えた。現在議論の真っ最中で、今週待つには終わる。そろそろ閣僚級会合のはずだが、とにかく妥協してへんなこと決めないでね!と言いたい。なにせ、日本の政治家はヘボヘボだからね。自分の対面だけのために不利益を平気で決めてきたりするからね〜〜。COP10において、対面のための決議がどうなるか、それがボクの今の関心事である。

 【対立する主張の中身】

 さて、最後になるが、
 どんな主張がなされているか概要を記載しておく。驚くぞ〜〜(笑)

  • CBDは1993年に採択されたが、もっと昔、過去に遡って利益配分しろ
  • 遺伝資源の派生物は、遺伝資源の産物をヒントにした合成物まで含めろ
  • 各資源国が決めた国内法を守っているか、利用国が監視して、守ってなかったら罰則を与えろ
  • 特許には、原産国を書け(特許用件とは基本的に関係ない、でも中国など、国内法で規定した国もでてきた)

 これを受け入れろというのが資源国の主張である。
 根源的にあり得ない主張には、いくら議論の場を作っても無意味なのである。少なくとも短期間で会議をかさねても決まるはずがない。そもそも、資源国担当者にとっては、決まらなくてよいのである。この仕事が継続して給与がもらえ、会議のたびに国際旅行ができれば満足なのである。

 生物多様性条約の利益配分問題は永遠なのである

-以上、2010.10.26記載終了


【2.COP10開催後: 名古屋議定書】

 ほとんど無理と思われていた議定書が採択された。
しかし、議定書は採択されたが、今後検討する課題はまだまだあり、新たな出発点にたったという理解が正しい。

 さて、以下にCOP10について記載する

生物多様性条約COP10の結果概要まとめ

 利益配分問題にかんしては、「<成果?>ABSに関する名古屋議定書の採択」からの記載になるが、COP10全体像についても記載した。

 [生物多様性条約COP10概要]

  • 名古屋国際会議場
    2010.10.11〜10.29
    議長国:日本
  • 規模:179の締結国、関連国際機関、NGO等から13000人以上の参加があった。
    (18000人の登録があったが、実際には13000人、従来は概ね数千人規模だったので最大級の会議となった)
  • サイドイベント:350
    隣接会場での交流フェアでは11万8千人が来場
    関係省庁:外務省、文科省、厚労省、農水省、経産省、国交省、環境省に加えて、経済界、労働界、NGOも政府代表として参加した。

COP-MOP5(カルタヘナ議定書第五回締結国会議)

  • 11日〜15日
  • 17の決議を採択
  • 「責任と救済」が<成果2>

COP10

  • 18日〜29日
  • 47の決議を採択
  • 「ポスト2010年目標(愛知目標)」の採択<成果1>
  • 「ABS議定書」<成果3>
  • 大変忙しい会議で多い時には、14の会議が同時進行していたとのこと

<成果1>「ポスト2010年目標(愛知目標)」

 −EUはかなり野心的な数値目標を掲げ、途上国はまずは資金確保との対立から、非公式閣僚会合を踏まえて、最後に野心的な目標を掲げることで合意。「愛知目標」と冠する名称も決定した。

 −例えば以下の目標

・     2020年までに陸域・内陸水域の17%、沿岸域・海域(公海含む)の10%を保護地域として保全(今までは陸域10%だった。海域はこれまで1%だった)

・     2020年までに生物多様性保全のための資金を顕著に増加(途上国はこれまでの10〜100倍の資金拠出を要求したが、「顕著」という言葉になった)

 −今後、愛知目標を反映して、生物多様性国家戦略(2010.03閣議決定)の改定をする予定

 −愛知目標の概要は省略(20の目標)

<成果2>名古屋・クアラルンプール補足議定書

 −組換え生物の国境移動により、生物多様性への損害が生じた場合の責任と救済に関する措置が決定した。

 −輸入国がWTO協定に抵触しない範囲で事業者に対して金銭的保障を要求できる権利を有することを確認、と同時に財政的保障についての包括的な研究を行うことで妥協成立。(パラグアイは留保)

 −本補足議定書の内容は、国内カルタヘナ法等で担保済みなので、今後日本国として対応することは無い。

 −名古屋での本会議の前に、クアラルンプールでの複数の会合で内容は殆ど詰められており、クアラルンプールの貢献が大だった。「クアラルンプール補足議定書」とする声もあったが、「名古屋」もくっつけてもらったのが実際。

 −名古屋・クアラルンプール補足議定書は12条からなるが、概要は省略。

<成果3>ABSに関する名古屋議定書の採択

 −名古屋議定書が採択された

  • 条約では、遺伝資源から生じる利益は公正・衡平に配分することが規程されている(17年前に決まっている)。
  • 2002年のボン・ガイドライン以降、途上国は利益配分の為の法的拘束力のある枠組みを強く要望、先進国は資源国に対してボン・ガイドラインにしたがったアクセス手続きの明確化を求めており、議論が対立していた。
  • COP9以降の三度の作業部会では、更に2度の再開会合を行ったにも関わらず交渉は完全決裂状態だった。
  • COP10直前の準備会合(13〜15日に事前協議、16日に作業部会再開会合)、期間中の会合を通じて約3週間交渉が行われたが、最終日まで合意は得られなかった。
  • COP10最終日に、日本より「議長提案」を各国に提示し、全体会合に諮ったところ、様々な意見があったが、最終的には合意して「名古屋議定書」として採択された。
  • 「名古屋議定書」は概ね日本の立場を反映した内容になっているが、利用国にて資源利用をモニターする制度についても規定されておるので、今後、日本がこの議定書を批准するためには、国内での担保措置について検討・整備を進めることが必要になる。COP10直後の記者会見では、環境大臣が新法の制定を検討する旨の表明がなされた。
  • 派生物についての交渉過程では、全く折り合わなかった。
  • 最終日前日の全体会合にて、今日中に合意できなければ明朝日本が議長提案して、各地域グループと協議に入ると宣言をした。結局、交渉はまとまらずに最終日に議長提案が出され、各国または各地域グループが議長室へ出向いての個別協議という完全に水面下での交渉が行われた。
  • アフリカ諸国はCBD発行前への遡及を主張していたが、交渉の過程で、その替わりに、利益をプールして還元する何らかの多国籍システムを入れてくれとの要求があったので、それを考慮しても良いのではとのことになり、今後、多国籍マルチシステムを検討すると議定書に記載することになった。

 −主要論点について

  • 「遺伝資源の利用」と「派生物」
    • 条約では、配分される利益を「遺伝資源の『利用』から生じる利益」としているため、「遺伝資源の利用」の概念を明確にする必要があり、議定書第2条で定義した。
    • その結果、対象範囲がより限定される「genetic resouses」となった
    • 派生物は、「a naturally occurring biochemical compound ……」となって天然物の誘導体や合成物は除外された。また、解釈次第だが、天然物であっても純粋に合成でできたものも対象外とできる余地も残されたという解釈も可能との声もある。
    • 第2条(c),(d),(e)が記載ポイント

  • 利用国の措置(チェックポイント)
    • 具体的なチェックポイントの例示はせずに、各国で1つ以上のチェックポイントを特定し、必要な措置を講じるものとした。
    • 環境大臣は、COP10直後の記者会見で新法の制定を検討する旨の表明をしたが、現時点で、政府は完全にノーアイデアで、今後法律を作るかどうかを含めて考えて行くことになるようだ。
    • 環境大臣が新法の意思表明をすることになったのは、裏で、どうやら省庁間の駆け引きがあったようだ。
    • もし可能なら、法律ではなくてモニターできる方法はないか、また新法を作るにしても産業活動を阻害しないように、産業界の意見を踏まえる必要があるだろう。また、国際動向を見ながら考えて行くことになるだろう。
    • EUは、「モニター(to moniter and)」に続いて、「透明性を高めるために(to enhance transparency about …)」という文言を入れることに特にこだわっていた(第13条1項)ので、何らかのアイデアがあるのかもしれない。あくまでも勝手な予想だが、例えば、資源アクセス状況をリストアップして透明性を担保したとの措置だけで済ます…という可能性もあるかもしれない。
    • いずれにしても、今後の最大の問題点である。変な法律なんか作らないでくれ〜〜。(日本は、自分で自分の首を絞める規定を作るのが大好きだからね。。困ったものです)
  • 遡及適応
    • そもそもあり得ない話だが、特にアフリカ諸国より、CBD発行前に取得された遺伝資源についても遡及適応し、利益配分を義務づけるべきとの主張がなされていた。
    • 遡及適応の代わりに、過去に取得した遺伝資源に関する利益を補足するためのABSに関するマルチラテラルなメカニズムの提案もなされたので、COP議長案では、遡及適応に関する規定は盛り込まずに今後同メカニズムについて検討する旨の規定を盛り込んだ。
    • これは、過去の利益と公海上からの利益に対する多国間利益還元システムということになるが、現時点では全くのノーアイデアである。今後、大きな議論になるだろう。
  • その他
    • アクセス関連: 国内ルールの策定では、法的確実性・明瞭性・透明性を備えるべきことを盛り込んだ。カナダが求めていた外国民・内国民の無差別待遇についての規定は見送った。
    • 伝統的知識: 遺伝資源と同様に、事前同意・相互合意に従うべき旨規定した。
      • 伝統的知識に関する権利については、先住民グループと中国やインド等の国家主権を維持するとの対立があったが、最終的には国家主権を優先する規定となった。
      • 公知となっている伝統的知識(漢方薬が念頭にある)についてもABSの対象にするべきとの意見もあったが(中国から)、これはバッサリと落として、最終的には議定書上明確な規定は置かないことになった。
    • 病原体: 公衆衛生上の緊急事態に際して、特別の考慮を払うべきとの規定が盛り込まれた。但し、「特別の考慮」が何なのかは規定されていない。
    • 多様性保全に資する研究目的: 各国のABS国内ルールの策定・執行にあたり、簡素なアクセス手続きなど特別な扱いをするよう規定された。

 −今後のスケジュール

  • 議定書の署名開放:2011.02.02〜2012.02.01、ニューヨーク国連本部
  • 議定書の発行:50カ国が批准した日から90日後
  • ABS名古屋議定書に関する政府間委員会の設置、議長は決定済み。第1回会合は、2011.06.06〜10、第2回会合は2012.04.23〜27。
  • COP11: 2012年10月8〜19日、インド(未決定だが、ハイデラバードが有力とのこと)

 −全般として

  • 全般的には、かなり利用国よりの議定書になったといえる(内容は当たり前だけど…)。資源国はかなりの不満が残った(それだけ酷い要求ばかりだった)。ナミビア・中米・中東欧は、議定書の内容に不満がのこることを議事録に記載することの要請があり、その旨議事録に記載されたが、採択は妨げないとなった。
  • この議定書に資源国が合意した背景には、今回、NEXTの議論をしなかったので、今回合意できなければ将来は何もなくなるぞ…という「おどし」が効いた。特にEUが積極的にそのようなに働きかけていた。
  • 菅総理の1600億円はほとんど効果にはなっていないとのこと。元々このお金は織り込み済みのお金だった。ただ、環境省が多様性保全に毎年10億円を5年間出すとしたようが、これは今後予算確保できるかどうかは当然不透明だ(来年のことは分からない)。
  • 最終日の議長提案は、手続き的に問題があるはずだが、そうした手続きの不備を指摘する声は出なかった。
  • 最終日前日の夜中、徹夜の突貫工事で議定書案文作成をしたので、採択された議定書は厳密に見ると不備があって、整合性は必ずしも取れていない。例えば、文言も統一されてなく、a party, each party, parties等が混在している。
  • しかし、議定書として採択済みなので、今後訂正等は行われないだろう。

 以上、2010.11.20Up


【3.名古屋議定書、私の意見】

 これから記載します。


【※参考】

  第16条

    1. 締約国は、技術にはバイオテクノロジーを含むこと並びに締約国間の技術の取得の機会の提供及び移転がこの条約の目的を達成するための不可欠の要素であることを認識し、生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関連のある技術又は環境に著しい損害を与えることなく遺伝資源を利用する技術について、他の締約国に対する取得の機会の提供及び移転をこの条の規定に従って行い又はより円滑なものにすることを約束する。
    2. 開発途上国に対する1の技術の取得の機会の提供及び移転については、公正で最も有利な条件(相互に合意する場合には、緩和されたかつ特恵的な条件を含む。)の下に、必要な場合には第20条及び第21条の規定に基づいて設ける資金供与の制度に従って、これらを行い又はより円滑なものにする。特許権その他の知的所有権によって保護される技術の取得の機会の提供及び移転については、当該知的所有権の十分かつ有効な保護を承認し及びそのような保護と両立する条件で行う。この2の規定は、3から5までの規定と両立するように適用する。
    3. 締約国は、遺伝資源を利用する技術(特許権その他の知的所有権によって保護される技術を含む。)について、当該遺伝資源を提供する締約国(特に開発途上国)が、相互に合意する条件で、その取得の機会を与えられ及び移転を受けられるようにするため、必要な場合には第20条及び第21条の規定の適用により、国際法に従い並びに4及び5の規定と両立するような形で、適宜、立法上、行政上又は政策上の措置をとる。
    4. 締約国は、開発途上国の政府機関及び民間部門の双方の利益のために自国の民間部門が1の技術の取得の機会の提供、共同開発及び移転をより円滑なものにするよう、適宜、立法上、行政上又は政策上の措置をとり、これに関し、1から3までに規定する義務を遵守する。
    5. 締約国は、特許権その他の知的所有権がこの条約の実施に影響を及ぼす可能性があることを認識し、そのような知的所有権がこの条約の目的を助長しかつこれに反しないことを確保するため、国内法令及び国際法に従って協力する。


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